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人の死に寄り添って

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人の死に寄り添って

2 - 第2話 生きる価値と死ぬ価値

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2023年07月11日

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彼女は死を選択しなかった。

小さくても良い。生きる理由があれば、死ぬという選択肢の隣に、生きるという選択肢が加わる。後は、死ぬ事が悪手だという考えにどう導くかだ。いや、導くというのは少し傲慢か、。

「どうして自殺が社会的にダメだとされているか考えてたの。」

彼女の言葉には、不思議と冷静さがあった。自殺を客観視できるくらいの余裕が、今の彼女にはあるのだろう。ずっと客観視できる状態を維持できるというわけではないだろうが、少なくともその状態を経験することは何か好転するきっかけになりうる。

「どうしてだと思いますか?」

私は尋ねた。

「いろいろ考えたけど、一つは周りの人にとってその人の死がとても悲しいことだから、その悲しみを経験したくないというエゴ。完全なる自分達の都合の押し付けね。」

「エゴの押し付けは悪いことですか?」

「一概には言えないと思うわ。そのエゴが結局人を幸せにするのであれば、そのエゴに価値はある。悪いことでもないと思う。」

彼女は続けた。

「でも自分が悲しみたくないということを理由で、他人を無理に生きさせるのはとても人道的とは言えない。生きる事が、耐え難いほどの苦痛である事だってよくある事だから。」

彼女はとても頭が良いのだろう。そして、人生の辛苦を噛み締めて、考えを巡らせてきたのだろう。

「やまない雨はないというけれど、将来やむかどうかは本当にどうでも良い事なの。これを言い始めた人は、きっと自然現象をうまく例えに使えて、悦に浸っていたのだろうけど、将来の話ではなく、今のこの堪え難い時間を乗り越えられないという事が重要なの。」

彼女の言いたいことはよくわかった。彼女の苦しみを表現する言葉がないのと同じように、彼女を苦しみから解き放つ言葉だって、見つけるのは難しい。

「ちなみに、周りの人がその人の死を悲しむからという理由以外に、自殺がダメだとされている理由はあると思いますか?」

「恐らく、強くある事が良いことだと考えている人が多いからだと思う。自殺を逃げ道と断定して、そんな逃げ道を選ぶ臆病者は人間としてダメだ。だから、生きなければならない。そう思ってるのでしょうね。」

「その考えについてどう思いますか?」

「強くあらねばならないなんて理由がまずないわ。それが良いといくとも根拠がない話。弱い人にも権利があるわ。」

「権利とはどのような権利ですか?」

「生きることと死ぬこと、どちらかを選ぶ権利よ。」

「なるほど。」

彼女は苦しみを強く味わったからこそ、死をよく考えられる。それが良い方に転ぶか悪い方向に転ぶかはまだ分かりかねるけれど、今の私にできることは、ただ彼女に寄り添うこと。

「あなた自身は自殺についてどう思いますか?」

私は尋ねた。

「死ぬ権利を持つことと、死ぬ権利を行使することには大きな溝がある。結局私たちは生命だから、自殺は不自然なんだと思う。不自然であることは、決して自殺を否定できるものではないけど、死ぬ権利を行使することは不自然であるがゆえにとても難しい。かなりの頑張りが必要。」

彼女は続けた。

「結局、死ぬことも生きることも相応のリスクがあって、相応に大変なんだと思う。あくまで私の意見に過ぎないことだけどね。だから、特段大きな根拠がないと、自殺を選ぶ理由にも生きる理由にもならない、、、。ごめんなさい、答えになってないかしら?」

「いえ、そんなことはありません。」

彼女はベランダに出た。私も続いて、ベランダに出た。彼女は街行く人を見下ろしながら、呟くように話した。

「生きるか死ぬかという選択肢が眼前になく、只今あることに没頭できる事がどれほどの幸せか。それを深く理解している人は、どれだけいるのでしょうね。」

「この方々が羨ましいですか?」

「羨ましいと思っている自分がいるのは確かだけど、あんな人たちにはなりたくないと思っている自分がいるのも確かね。」

彼女はとても冷静だ。前回は少し感情任せな印象を受けたが、本来の彼女はそうではないのだろう。

「私の話を聞いてくれてありがとう。あと、、、」

軽い深呼吸をして、彼女は言った。

「この前は、態度が少し冷たかったかもしれないわ。ごめんなさい。」

距離がまだそこまで近くない私だから、いろいろなことを打ち明けてくれたのだろう。適度な距離感は、この仕事ではかなりのアドバンテージだ。

「死を望んでいる人の特徴はね、死を多角的に見れないところにあると思うわ。」

少なくとも今は、彼女は多角的に見れているように思える。勿論、またすぐに以前彼女に戻ってしまうかのせいはあるけれど、当面できることをうまくこなしていると思う。

「また話しましょう。」

今度は彼女の方が、約束をしてくれた。

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