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 いつも変わり映えしない景色、慣れた日常。


 僕たち楠城兄妹は、いつもこうして5人で登校している。思春期の兄弟だというのに、他の兄弟を知らないからなんともいえないけど、こんなに仲がいいのも珍しい方だと思う。

 煉瓦で舗装された通学路を歩きながら辺りを見渡す限り、友人同士や先輩後輩同士の挨拶が飛び交っている。合流を果たせば宿題の話や日常的会話が始まっている。

 そんな明るい声が溢れるなか、校門付近まで行き着くと兄・逸真や、姉・守結はそれら大勢から挨拶を投げられ、それに応え始める。双子の妹たち・楓、椿も同級生や先輩たちから黄色い声と共に挨拶を投げられ、笑顔で応える。


 そんな最近の日常を切り抜け、下駄箱のある両開きの大きなガラス戸入り口まで辿り着いて、恒例行事も終わり。

 この流れはいつも下駄箱で終わり。ここからは各々が自教室へと向かい、各々が囲まれるだけだ。


 ――僕は1人、自教室へと向かう。


「おい見ろよ、あいつまだ懲りずにクラス転職してないんだってよ」

「えー、うっそありえなーい。マジださくない?」


 ――ああ、また始まった。

 もはや挨拶代わりとも言える罵声、そんな声はどこからか聞こえてくる。

 こちらの耳に届いていると知ってか知らずか、陰口を叩いている奴がいる。いや、あえて聞こえるように言っているに違いない。

 そういうやつは例外なく性根が腐りきっている。本当に馬鹿馬鹿しい、切にそう思う――。


 だけど、こんな泥沼な環境からはもう少しでおさらばできる。

 幸か不幸か両親の転勤が理由で転校することになったからだ。

 そんなわけで、粗雑な扱いをされ、思い入れ一つすらないこんな学校から、心機一転してこいつらの顔を拝まなくて済むのなら最高だ。


 その時が待ち遠しすぎて、つい独りでニヤけてしまうところだった。


◇◇◇◇◇


 来週――いや、数日後には市立カザルミリア学園へ編入済みとなる。


「ねえ兄貴、楓と椿にちゃんと手伝えって説教してよ」

「んあ、よーっし、任せとけ」

「守結姉からもガツンと言っておいてよ」

「あー、はいはいもう少し後でねー。今は自分のでちょっと手が塞がってて、行けそうになーい!」


 こういうのって前の学校の通学は、一カ月前までに終わらせて引っ越し作業をするものでは無いのか。

 転校を頻繁にしているわけではないから、そこら辺の勝手はわからないけど、一週間前まで通学して引っ越し作業って、あまりにも過酷すぎではないか。

 計画性が無さ過ぎるとまでは言わずとも、もう少しだけ上手に事を運べたのではないか?


「ほーら、楓、椿、いつまで本読んでるのーっ。早く準備しないと全部廃棄することになっちゃうよー」

「え!? そんなのダメだよ! これは全部大切な本なんだよ!?」

「そうですそうです、大切な教本たちなんですっ!」

「ほら2人とも、兄ちゃんが手伝ってやるから早く詰め込むぞー!」


 賑やかなのか騒がしいのかどちらとも言えない状況は、荷物を運び終える日まで続いた。


◇◇◇◇◇


 かなりドタバタな日々が続いたけど、ようやく新居へと到着。

 これからは引っ越し恒例行事、詰め込んだ物の荷解き。

 忙しいなか、急いで収納したから箱を開封するのは正直ところ億劫である。

 入れた箱に中身を記入していたことが功を奏して、効率良く荷解き出来そうだ。

 だが――。


「うわーんっ守結姉ー! たーすーけーてーっ!」

「守結姉守結姉大変ですっ!」


 ――始まった。

 2人に催促を願ったあの後、言われるがまま荷物を詰め込んだに違いない。

 後先考えずにあれやこれやと入れていれば、ああいうことになるのは必然。


 一番荷物が少なかった僕は鏡の前で、新しい制服を身に纏っていた。出来立て特有の生地の匂いに包まれ、|皺《しわ》や色焼けは何一つない。

 初めてのネクタイに、ぎこちない手つきで説明書に目を通しながら悪戦苦闘していた。

 全てが不慣れで特急作業のなか、新生活と新学校に緊張は隠せない。

 でも、期待はしていない。

 なぜなら、前の学校のような扱いをされると容易に想像ができるからだ。


 ――でも、クラス転職するつもりは絶対にない。

 僕もあの人のような冒険者に――。

転校から始まる支援強化魔法術師の成り上がり

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