32 ◇失意
俺は大山貴理と一緒になるために香織と別れる選択をした。
自分のできる限りの誠意として妻には持てる貯金を全て渡し、郷里もろとも
捨てることになった。
狭い田舎のこと、香織と別れて貴理と一緒になったことを周りが知れば、
俺は不倫の末、糟糠の妻を捨てたトンでもない男ということで、友人知人
親戚近所の人たちに至るまで酷いヤツ認定は免れないだろうから。
だが、この先働くのに充分な健康体とは言えなくなった俺の元を……
子供が2人もいて年老いた両親にも逆らえず、貴理は泣く泣く去っていった。
しかし、本当に彼女は泣く泣く去っていったのか……。
自らの意志で未来の見えない俺の元を去っていったのか、今となっては
その本心を知ることは、為す術もない。
貴理にしか分からないことだ。
俺が妻を捨てたように俺も貴理から捨てられたのかもしれない。
こんな未来が予測できていたとして、俺は香織よりも貴理を選んだろうか。
32-2
人生にたらればはないと分かってはいるが、まだ人生の
折り返し地点で先は長い。
仕事を……働く場を持たぬ男ほど惨めなモノはない。
こんな身体でも自分が持つ店舗でなら、いかようにも
生き延びることができるのだ。
国家資格が自分を守ってくれる。
あのまま香織と予定通り郷里で自分たちの店を立ち上げていたら……
と思わない日はない。
甘い考えでプライドも捨てて香織を頼った。
会ってもらえなくてもしようのないことをしたのに、香織は会ってくれた。
もちろん断られるのも承知の上だった。
そして、香織からの返事に平静は装ったものの、内心俺の心臓は酷く飛び跳ねた。
断られるにしても、まだ店は立ち上げてないの……という返事くらいしか
想像していなかったものだから。
仕事も辞めて出産準備に備えていると知らされ動転してしまった。
俺から手酷い仕打ちを受け打ちひしがれているであろうはずの香織は、
すでに新しい伴侶に恵まれさらに子供にも恵まれ、見るからに幸せそうだった。
はははっ、すごい結末が待ってたってわけだ。
俺はズンと沈んでいく気持ちをどうすることもできなかった。






