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「ああ、そうだった。あと音が大きくてどうしても困った時は、ここの人を呼べって電話番号教えてもらったんですけど、何かご存じですか?」
「電話ぁ? そらあ知らんなあ。ぼうやからほういうのもいうたんやろうかな……」
定一は鼻梁の上をぎゅっと締めて怪訝な顔をしている。
「やっぱり、坊さんとか神主とか……霊能者みたいな人の連絡先なんですかね?」
「ちあうやろう! また死人に戻すういうだけやろう! ただの人が」
再び、破顔。
「どうやってです?」
「知《ひ》らんわあ。ぶっ叩くなり切るなりするんやろなあ」
何が可笑しいのか、手を叩いて喜んでいる。定一は少し変わり者だと言われているのを、昭雄は思い出した。
「日上さんは開けてみたことあります?」
「ない。気になるんなら開けてみりゃええわあ」
どう答えたものだろう? 強がりたい気持ちもあるし……と考えていると定一は怖がって黙っていると思ったらしく、
「ほんな気になるなら……ほれ、やろうわい」
と言って、手提げの中から薄汚れた一片の紙を取り出した。
「ひきにんぎょ、よ。昔は葬式あったらここの穴に投げ込んどったなあ」
昭雄は気味が悪いと思いながらも、吸い込まれるようにその紙切れを受け取っていた。
白い、なんの変哲も無い紙が単純な人間の形に切り込みが入っている。
「死《ひ》んだ人間はよう、ひっぱるういうてなあ。連れてかんでくれえ、こっちんしてくれえ、いうことでなあ、これ投げ込んどったのよ。昔の話よ。気になったら部屋ん中入れりゃええ。どっか隙間っからでも」
「なるほど。身代わりですね」
昭雄は人形《ひとがた》を心持ち掲げて太陽の光に透かしてみた。紙の人形は風に揺れ、光と影が渦のように浮かび上がり、加減で人の顔のように見えた。
「日上さんは、これ霊安室の中に入れたことあるんですか?」
ええー? と甲高い声を上げて定一は後頭部をガリガリと掻いた。
「よほうよう! やっせなあ」
えへへへへ、と乙女のようにはにかみながら、定一は笑っている。
最後の言葉の意味は、昭雄にもわからなかった。