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背が縮んだ奴の為

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背が縮んだ奴の為

1 - 第1話 再会

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2023年11月26日

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太宰が死んだらしい。

今日深夜2時頃。通常ならセーフハウスに帰っている時刻だったが、その日は部下の取り溢した接待の手筈の取引を、再度調整する為、マフィア本部に留まっていた。

面倒なことをやらかしたものだ、と心の内で毒付き乍らも、未来ある部下のミスは上の者が担うもの。そう中原は割り切りながら書類に目を通し、計画書の作成を始めた。

小一時間程経過した時、何枚目かの書類に手を伸ばす中原の携帯から、着信音が鳴った。

こんな時刻に掛けてくる非常識な奴は居ないだろう。急ぎの任務か、等と考えながら携帯を手に取る。

中原の携帯には「森鴎外」とだけ写る通話画面が表示されていた。胸の辺りが撃ち抜かれた様な反動を感じた。

森鴎外、と表記される方は、森とのプライベート用でのものである。任務としての連絡は、中原の直属の部下からか、首領と表記される方から連絡が来る。

何故此方で連絡してくるんだ?

中原は疑問に思ったが、首領を待たせる訳にもいかない為、直ぐに通話ボタンを押した。

『もしもし、こんな時間に悪いね』

いつもの柔らかな口調で話し始めた森の声に、少し安堵する。中原は森に不躾にならぬよう言葉を選び乍ら返した。

「いえ、問題御座いません。何なりとお申し付けを」

口調がいつもよりか固くなってしまうのは電話のせいなのか、少しむず痒い気持ちになる。

『ああ、そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。実はね、私情が入ってしまい私も動揺しているのだけど…』

森は妙に勿体ぶるような言葉で最後の言葉を濁した。

中原は胸騒ぎの真実を早く知りたい為、遠回しに話を急かすよう森に告げる。

「私情と申しますと、どういったものなのでしょうか?」

森は電話越しでも聞こえる程の深い溜息を吐き、覚悟を決めた様な物腰になり、云った。

『率直に言う。太宰君が亡くなった』

携帯が足に落ちた。

重力を咄嗟に出すことが出来なかったのは2年前に起きた抗争で重傷を負った時以来だ。足先からジンジンと痛みが広がるが、中原には全くどうでもいいことだった。

携帯からは相変わらず森の柔らかみのある声が聞こえるが、何も聞き取れない。携帯が故障している、そうに違いない。

中原は幹部室の赤黒い絨毯の一点を見つめ、指先一つ動かすことが出来ないでいた。

手に付けている黒手袋が妙に暑苦しく、手汗が出てくるのを感じた。

『中也君?大丈夫、、、じゃあないよね。今日はもう帰りなさい。夜分遅くに失礼したね』

森は一方的に通話を切ったらしい。気づくと通話画面が真っ黒に染まっていた。

中原は数十分間、何も発することが出来なかった。

「・・・まじか」

漸く口を開いた時には、空は深い青色に染まり始めていた。落とした携帯を拾い、窓際にある分厚い革製の椅子に腰を掛ける。みしみしと使い古された椅子の悲鳴が下から聞こえてきた。

「すぅー・・・はぁぁぁ、、、」

高級感が溢れた椅子の膝掛けに顔を埋め、深く唸った。

幾ら何でも急過ぎやしないかと頭の中で今更混乱する。

1週間前バーで遭遇して、気色悪い笑みを浮かべて踊っていた変人が、そんな急に死ぬか?と疑問を抱く。

「自殺か他殺か、、、事故死…ってことはねぇよなぁ…」

中原は太宰の死の凡ゆる想像をしたが、いまいちピンと来るものがなかった。しぶとい太宰が事故で死ぬとは到底思えないのだ。なら他殺の方がまだ信じられるが…

太宰に恨みを持つ奴は何千と居るが、実行しようと考える馬鹿はそうそう居ないだろう。

「結局自殺、、か・・・」

天井に円に描かれている、何処の貴族のものかは知らないが、相当高そうな絵画に向かって一人呟く。

音を吸収するよう仕組まれている部屋なのか、中原の声は天井にそのまま吸い込まれていった。

中原の醜い顔が、淡い橙色の照明に照らされる。

目に灯りが入ってくるが、それと比例して段々と瞼が重くなっていった。

眠気を覚ますために、眉間を指で揉むが、眠気はどんどん大きくなっていく。

当たり前だ。昨日から寝ていないのだ。

目を擦りながらも太宰の死因を考えようとするが、この世で一番どうでもいいことの様な気がし、今考えるのは止めにした。

幹部室に置いてある寝台へ、よたつく足を全身で保ち乍ら向かう。ボフン、と柔らかい感触のある布団が、中原を優しく包み込んだ。

もう、何も聞きたくない。

いきなりの出来事に、頭が追い付いていない。思い瞼を閉じて、頭の中を空にする。

ああ、死にてえ。

・・・

起きると時刻は昼の11時を回っていた。大遅刻だ。

窓からは爛々と輝く光が差し込んでいる。目に差し込む輝かしい明かりに目をぱちくりさせていると、段々と目が慣れてきた。

中原は深夜に森に告げられた太宰の訃報は、未だ脳が処理出来ていなかった。

最悪な事に昨日は寝巻きに着替えずに寝てしまったため、服には皺が目立っていた。アイロン掛けをしなければ…と考えるがここは家じゃ無く職場である。こんな格好では首領の前に出ることは不可能だ。

中原はこの頭が回らない中で、取り敢えず服装を整える事にした。真っ黒に塗りたくられたクローゼットが一応この部屋にもあるのだ。そこの服を着よう。

中原はクローゼットの中にある整えられたスーツに手を掛け、今身に着けている服を脱いだ。

皺だらけの服を雑に寝台へ投げつける。下の服も脱ごうと思い、ポケットに手を入れると、何か固い物がある事に気づいた。入っている物の形は、鋭い三角形をしていて、持ち手がある物の様だった。

そう、まるでナイフの様な。

「痛っ、!?」

中原は小さく呻き声をあげる。右手からジクジクと痛みが広がった。対して痛くはないが、手から紅に染まる細い線が出来ている。

中原はこんな所にナイフを入れた覚えなどなかった。

マフィアだから、そこの所は全く問題のない様な持ち方ではあるが、外を歩く際に銃刀法違反など、警察はそこら辺で目をぎらつかせている。見つかると後が問題の為、中原の幹部という立場でさえ、抗争や緊急以外でのナイフの所持は中々するものではない。

では、何故ナイフが「入れた筈のない」ポケットに?

中原はその場に立ち尽くしたまま、天井に顔を向けた。

天井には、絵画が飾られている。が、一つだけ可笑しな箇所があった。天井の絵画の縁の所に、何か黒い点があるのだ。

背筋が一気に波打ったかの様に、鳥肌が立つ。何年もマフィアで暮らしている中原に、怖いものなどない。

だが、この気味悪さは今迄に無いほど気持ち悪いものである事に変わり無かった。

「・・・そういうことかよ」

中原が自分の置かれている状況を理解したその瞬間、真後ろで何かが動いた音がした。

「?!」

中原はすぐに異能を発動した。手が赤黒く輝く。後ろの方では一瞬の物音を立てた主が動きを止めた気配がある。

今すぐ仕留めにいこう。今この瞬間が相手を殺すチャンスだ。

「・・・」

だが、中原には後ろを振り向く勇気が出なかった。このマフィアの中で、最も強い力を持つ中原が。

汗がつうと頬を流れた。手に掛かっている重力を操ろうと、腕を上に上げる様脳に指示を出すが、本能的に拒否反応を起こし身体が固まる。

バクバクと心臓が波打った。下に敷かれてある絨毯に、頬から流れ落ちた汗の滲みが出来る程。

一体何だ。何がいる。

バクバク、バクバク。

徐々に気配が強くなる背面の正体がとても恐ろしくなり、中原の脈拍は更に早くなる。口から心臓が出る様な感覚を覚えた瞬間だった。 

「トン」

肩に何かが当たる感触がした。人の掌で、相手をねえねえと呼ぶ時の様な、軽い感触が。

その瞬間、中原の緊張は糸が切れたかの様に消えた。恐怖を感じたのは、これで最初で最後の事だろう、と中原は心の中で思う。

だが、安心するのも束の間だ。まだ後ろの人物を確認出来ていない。

マフィアの幹部の部屋に盗撮機、ナイフを仕込んだ手練は一体誰なのか。中原は大体の予想はついていたものの、相手から反応が来るまではじっとしているつもりだ。

                                   _____________

数分経過しただろうか。あの後から何も後ろからの行動が聞こえて来ていない。何をしている?相手は何を企んでいるんだ。中原には全く見当がつかないでいた。

自ら振り返れとでも言うのか。そんな事なら乗ってやらない。何故自分から相手を出迎えければならないのだ。

こんな幹部室にまで勝手に侵入して来た相手を…普通なら幹部室に他人がいる時点で中原がぶった斬っているが、今回は事情が事情と勘付いたものだから、静かにいる。

・・・だがもどかしい。とてもこの場から離れたくて仕方がないのに、五分程相手の為にじっと待っている中原の気持ちが!そろそろ限界を迎えようとしている。

中原は振り返る。先程決断した絶対に振り返ってやらないと言うものを即座に破りながら。

「手前巫山戯やがって!!!」

中原は思い切り足を上げ、背後の人物の顔面に向かって蹴り上げた。

・・・つもりだった。

「やあ!久しぶり中也。元気してた?」

中原は蹴り上げた足を空に唯上げたまま、目の前の人物を凝視した。

太宰が居た。いつもと何ら変わりのない、太宰が。

異常なほどにニコニコとしているが、見た目は先週あった太宰と酷似している。だが、何故。

何故マフィア時代の服を着ているんだ。

中原は目の前の深く黒い衣服を見に纏っている、片方の目を包帯で覆った冷たい青年を見つめる。太宰だが、太宰ではないのだ。中原は直感的に思った。

「手前、何でいんだよ」

中原は震えを押し殺して、何故いるのか問う。蹴り上げた足は、未だ居場所をなくしていた。

「別に。私の部屋だし、居ても大丈夫だよ」

「質問に応えろ。ここはマフィアの本拠地だ。手前探偵社如きが軽々幹部室に入れる様な警備体制じゃねえ」

漸く居場所を見つけた右足は、重みのある絨毯の上へ。そんな様子を見た太宰は、可笑しなものを見るかの様な目つきで中原の足を眺めている。

それに対抗するかの様に、中原は太宰を冷ややかな目で見下ろす。

太宰は身長もマフィア時代のままらしい。中原は気持ち悪い感覚と同時に背筋が凍る感覚を覚えた。此奴は、何者なんだ。

中原の緊張とは裏腹に、太宰は中原の質問をどう受けようか、ほんの少し黙り込んだ後、素晴らしい事を思いついた様に幹部室の窓へスキップで向かった。

こちらの状況が全く分かっていないのか、緊迫した空気感を壊す様な甲高い声で太宰は中原に向かって言った。

「わかったわかった。そこまで私の事を知りたいのなら見せてあげよう!」

幹部室の端にある大きな窓ガラスは防弾で出来ており開閉することは不可能だ。だが、太宰は何をしようというのか、窓ガラスへと向かい、ボールを蹴り上げる様なフォームでガラスへ足を蹴った。

ガラスは割れることはないが、中原は反射的に目を瞑ってしまった。自己防衛本能というものは恐ろしい。

中原は太宰の蹴り上げたガラス部分がどうなっているのか、目を開いて見ようとする。

だが、それは叶うことはなかった。

「はい…どう?」

太宰は呑気な声を出しながら、中原に向けて満面の笑みを向ける。中原は唖然とした。太宰の狂った行動は、今迄過ごして来た中で一番中原を倒れさせる様な、そんな不可思議すぎるものだった。

太宰の足が、ガラスの向こう側にあるのだ。

予想はついていた。ついていたが…

正に、現実のモノとは思えない。自分は夢を見ているのではないか。中原は自分の愚かな妄想を醒めさせようと、太宰からは目を逸らさないまま親指で掌をぎゅっと握りしめた。

ヒリヒリとした痛みが伝わってくる。それでも、これは夢だと言い聞かせて握りしめた。

ついに血が手袋に滲む様になって来たところで、太宰が目の前に来ている事に気がついた。

太宰は中原の手をつまらなそうに見ながら、「やめなよ」と一言だけ呟く。

「っは、」

中原は手を握りしめながら一緒に止めていた呼吸を、太宰の抑制の言葉と共に再開した。汗がダラダラと流れてくる感触が、先程から気持ち悪さと共に中原の全身へ伝わっていた。

「ちょっと落ち着きなよ。これで二人も身近な人が死んだら森さんが過労死してしまう。私の事、知りたいんでしょう?だったら上半身露出してないで早く着替えちゃって」

太宰のいきなりの発言に戸惑う中原。だが、太宰の言葉で自分が今着替えの途中だったのだと思い出すことができた。

中原は呆然としながらも、寝台の上へ乱雑に投げれている着替えに手を運び、丁寧に腕へ通していった。

今目の前にいる太宰は、「18」の頃の姿をしている。だが太宰は既に死んでいる状態。その死んだ太宰がポートマフィアの幹部室に盗撮機、またナイフも仕掛けている。

この一連の状況が更に中原の頭を混乱させる。

此奴は、何だ。

太宰は中原の着替えの様子をまじまじと観察している。

ニヤニヤとした表情を顔に貼り付けながら、唯じっと着替え終わるのを待っていた。

不意に太宰は口を開き、中原に向かって言った。

「中也」

「・・・何だよ」

中原は息を呑み、着替え途中のワイシャツを固く握りしめる。そして、太宰の言葉を待つ。

「大きくなったね」

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