テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ユナ @お嬢様化
44
るーぱ
249
まーや
354
東京駅を発車した長野行きの北陸新幹線。
平日の昼下がり、車内はビジネスパーソンや観光客で穏やかな空気が流れていた。
3号車の座席に並んで座る、スーツ姿の乃木憂助と朝野太陽。表向きは長野のエネルギー開発に関する出張だが、ブリーフケースの中にはそれぞれの「武器」が厳重に隠されている。
「お弁当、美味しいですね。乃木先輩」
太陽がのんきに駅弁のチキンライスを口に運んでいると、乃木が静かに窓の外へ視線を向けたまま、腹話術のトーンで呟いた。
「……太陽くん、食べるのを止めて。おかしい。大宮駅を過ぎてから、車掌のアナウンスが一度も入っていない。それに、通路を行き来する販売員の歩幅……一定すぎます。全員が同じ歩調だ」
太陽は箸を止め、周囲の気配を夜桜の聴覚で探った。
ドクン、ドクン。
微かに聞こえる乗客たちの心音に混じって、いくつかの車両から「あの不気味なソメイニンの拍動」が聞こえてくる。
「……各車両のデッキに、目が緑色の男たちが張り付いてます。乗客たちはまだ気づいていませんが、完全に包囲されてますね」
その時、太陽のスマートフォンに、公安の野崎守から暗号化されたメッセージが届いた。
『乃木、太陽。大変だ。JRのシステムがハッキングされ、お前たちの乗った新幹線が完全に制御不能(ノンストップ)になった。長野駅まであと20分。タンポポの目的はお前たちの抹殺だ。一般人を巻き込まずに車内を制圧しろ!』
「……20分。やるしかないね」
乃木は静かに眼鏡を外した。脳内の『F』が狂気的に舌を鳴らす。
(ひゃっはー! 逃げ場のない鉄の箱かよ! 憂助、まずは5号車のデッキにいるデカブツから脳天ブチ抜いてやるよ!)
「太陽くん、僕は4号車から後ろを。君は2号車から前を。乗客に怪我をさせず、声を出させる前に仕留めるよ」
「了解です。……いっきます!」
二人は同時に席を立ち、それぞれの車両へと滑り込んだ。
太陽が向かった2号車のデッキ。
清掃員のフリをしたタンポポの兵士が、不審な動きを察知して振り返り、袖口から植物のトゲを仕込んだ暗殺銃を構えようとした。
だが、太陽の踏み込みはその遥か上を行く。
狭い新幹線の通路。壁を垂直に蹴り、天井を背中で滑るようにして、太陽は一瞬で男の頭上を取った。
「夜桜式制圧術――『秋桜(コスモス)』」
男が上を見上げる間もなく、太陽の両膝が男の首を挟み込み、無音でひねり倒す。男は銃の引き金を引く暇すらなく、床に崩れ落ちた。太陽はすかさず、男の懐から車内無線機を奪い取る。
一方、4号車のデッキに向かったF。
巨漢の植物兵がアサルトライフルを一般客に向けて構えようとした瞬間、Fは防音扉の隙間から、消音(サプレッサー)拳銃で正確に男の「手首」と「核(頭部)」を撃ち抜いた。
プシュ、プシュン。
乾いた音と共に、巨漢の兵士は緑色の灰となって霧散していく。
「ふん、手応えのねえ雑魚どもだぜ」Fは不敵に笑う。
わずか10分。乃木と太陽の完璧な連携により、1号車から7号車までの全暗殺者は、乗客に一切のパニックを起こさせることなく完全無力化された。
しかし、残された1等車「グランクラス(先頭車両)」の扉の前に辿り着いた時、太陽の指輪が激しく深紅に警告の光を放った。
「乃木さん、この奥……異様な生体エネルギーです。今までの幹部より強い……!」
扉が自動で開く。
贅沢なシートが並ぶ最高級の空間。その最前列、運転席との仕切りの前に、白い百合の花を頭に飾った、不気味な修道女(シスター)の格好をした女が座っていた。
「百合の会」の最高幹部、シスター・リリィだ。
「ようこそ、別班のワンちゃん、そして夜桜の迷い子さん」
リリィが微笑むと、彼女の衣服から無数の白い「百合の根」が、新幹線の複雑な配線インフラを侵食するように這い出していた。
「この列車は、あと5分で長野駅の終着ホームへ、ブレーキ無しで時速250キロのまま激突します。私を殺せば、この根が引きちぎれ、自動列車制御装置(ATC)が完全に破壊されて即座に脱線、全員大破です。さぁ、どうします?」
逃げ場のない超高速の密室。
リリィを倒せば列車が脱線し、倒さなければ終着駅に激突する。
究極の二者択一を突きつけられた乃木と太陽。長野の美しい山々が窓の外を猛スピードで流れ去る中、二人の本当の知略と力が試されようとしていた。
コメント
3件
うぇーい
笑
もう、ここからの展開が気になりすぎてソワソワしちゃいました……! 車掌のアナウンスがないとか販売員の歩幅が一定とか、日常に潜む違和感から一気に緊張が高まる冒頭、本当にゾクゾクしました。太陽くんが天井を背中で滑るように移動して仕留める『秋桜』、めちゃくちゃカッコよかったです。そしてシスター・リリィの「♡♡♡ば脱線、倒さなければ激突」という絶体絶命の状況…どうやって切り抜けるのか、続きが待ちきれません!