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「え、なんでわかったの? 見えてなかったでしょ」
さらりと前髪が揺れて、切れ長の瞳が真衣香を見下ろす。
予想通り、坪井の姿を見つけた。
「におい……」
「マジ? 俺におうの?」
ちょっと慌てたような声。
真衣香は思わず吹き出して、答えた。
「違うよ、いいにおい。 この前も思ったから」
「何だよ、それー。 てかそれならお前もね」
屈んで真衣香の首元に軽くキスをした坪井がイタズラな笑顔を見せる。
「特にこのへん。 いいにおいだなぁってこの前思ってたんだよね」
その行動と発言に固まっていると、
「ほら、貸して」と短く言った坪井が、真衣香の手から掃除用具の入ったバケツを取った。
「え、ちょ、ちょっと坪井くん!」
そして当たり前のように歩き出した坪井の後を追う。
(坪井くんにバケツって似合わなさすぎる)
後ろ姿だけでもスタイリッシュな坪井。
アンバランスさに笑いを堪えていると。
「朝イチ絡んでゴメンね、見てられなくってさ」
見ていられない、と。 言われた真衣香は直前までの営業部でのやり取りを見られていたのかと羞恥から赤くなった。
ひとりだと平気だけど、誰かにそれを見られているのは酷く恥ずかしいから。
返す言葉を見つけられず黙っていると、坪井の言葉が続いた。
「な、立花。 お前が言いやすいから喚いてるだけだよ」
「え?」
反射的に驚きの声が出る。
学生の頃は優里がよく庇ってくれたものだが、社会に出てからというもの。
言われっぱなしの真衣香をクスクスと陰で笑う人こそいても、こんな言葉は初めてだったから。