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名無しのヒーロー

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名無しのヒーロー

20 - 第20話  仕事を取るか、恋を取るか。

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2024年02月26日

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滝沢さんにお礼を言ってお宅を後にした。

まだ、熱は下がり切っていないものの、来るときに比べて体が軽くなっている。車の中で後部座席に横になりながら、朝倉先生が作る心地良い空間にいつまでも居たいと思った。


車が自宅に到着した頃にはチャイルドシートの上で美優はスヤスヤと夢の中。

朝倉先生が、そっと抱き上げ「よく眠っている」と微笑んだ。

ベビーベッドに降ろされた美優は、少しフニャフニャとまた泣き出しそうになっている。朝倉先生が美優の胸の上にそっと手を添えた。すると、手の温かさに安心したように美優は大人しくなり、また眠りに着いた。

その手慣れた様子に関心するばかりだった。


「谷野さんも少し眠った方がいい。まだ、無理はしない方がいい。谷野さんが寝ている間に買い物に行ってくるから鍵を貸してくれる?」


「朝倉先生、お忙しいのにそんな……。今日、滝沢さんのところに連れていってくださっただけでも十分助かりました。それにしてもよく私が乳腺炎だって分かりましたね」


そう、症状を伝えただけで、朝倉先生は滝沢さんの所に連れていってくれた。


「姉貴がね。実家に帰って来た時に、同じ症状で大騒ぎしていたのを見ているから もしかして、と思ったんだ。さっきも姉貴に相談したらすぐに滝沢さんのところに行けって言われて、何が役に立つかわからないものだね」


「ありがとうございます。先生には、助けてもらってばかりで、いつか私にお返しが出来ればいいのですが……」


あの寒い風の吹く12月の街中で私を支えてくれた手は、心まで温かくしてくれた。

恋人同士になる事は無理だとしてもせめて恩返しぐらいはしたい。


「谷野さんと美優ちゃんに充分癒やされているから気にしないでいいんだよ」


尊い……。

買い物に行って来るよと言われ、お言葉に甘えてお願いしますと朝倉先生に家の鍵を渡した。


「横になって、休んだ方が良いよ」


朝倉先生の言葉に頷いて、ベッドに向かおうと振り返った。その時、クラッと目眩を起こし、足元がおぼつかなくなる。


「危ない!」


倒れそうになった私を朝倉先生の腕が支え、気が付くと朝倉先生の腕の中に抱き留められていた。

朝倉先生から香るウッディな香りに包まれ、心臓がドキドキと跳ねる。

ち、近い……。


「す、すみません……」


いくら何でもこの距離はダメだ。顔が火照っているのが自分でもわかる。恥ずかしいやら嬉しいやら、どうしていいのか……。

おかしな態度を取って、朝倉先生との関係が悪くなったらどうしよう。


ひゃー。誰かどうにかして!!


「ほら、まだ無理しちゃダメだよ」


と、ふわりと体が浮き上がった。気が付けば朝倉先生にお姫様だっこをされている。持ち上げられると余計に体が密着した。


今日2回目のお姫様抱っこ。

はわわ、恥ずかしい。


この心臓がドキドキが聞こえてしまいそうで余計に緊張した。

それにさして広くない部屋は、抱えてもらったところで直ぐにベッドに到着。そっと降ろされ、ふわりと布団にくるまれた。


何か言いたいけれど何を言って良いのか、掛ける言葉が見つからなくて、視線が朝倉先生を追いかける。

するとふたりの視線が絡み、その優しい瞳に吸い込まれそうで胸が熱くなる。


不意に朝倉先生の両手が私の頬を挟み、おでことおでこをコツンと当てた。


「まだ、熱がある」


そう言って頬を撫でた後、「買い物に行ってくるね」と部屋から出ていった。


イヤ、ナニ?

その萌え攻撃。

余計に熱が上がるから……。



残された部屋の中で自分の心臓がドキドキいっているのが、聞こえる。

不意打ちと言えるほどの近い距離、優しい仕草に押さえ込んでいた恋心が膨らむ。


朝倉先生の優しさを勘違いして、自分に気があるなんて思ったりしない。

今日だって、こんなスエット姿のボロボロの格好で、女としてマイナス得点の状態だし、出会った頃から迷惑しか掛けていない。

ザ・パーフェクトの朝倉先生に似合うような女では無い事ぐらい、自分が一番わかっている。


もし、恋心がバレて、仕事を失ってしまうような事態になったらどうしよう。仕事相手だから親切にしたのに、勘違いしちゃったイタイ奴になりかねない。この恋は、絶対に言っちゃダメだ。


女である前に、美優の母として、生活をしていかなければならない。

子供を育てるには、夢や希望だけではなく、現実問題としてお金が凄く掛かる。日常の雑貨品だけではなく、この先大学までの教育費を考えたら大変な金額だ。幼稚園から大学まで、すべて公立の学校でも12百万円、すべて私立ではこの倍の金額24百万円、大学の学部によってはもっと掛かる場合がある。

私は、美優との生活を自分の恋心のために失うわけにはいかない。


ただ、制御不能な恋心を上手に隠せる演技力が自分にあるとは思えない。

駄々洩れになって、嫌われたらどうしよう。



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