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グラスの中で、氷が静かに鳴った。
夜はいつも同じ顔をしている。
静かで、冷たくて、何も語らない。
「クロウ・ノクス」は、その夜の中に溶けるように立っていた。
カウンター越しに並ぶボトルは、青い光を鈍く反射している。
路地裏のバーは、今日も客を選ぶように、静かに息をしていた。
片手でグラスを持ち、もう片方の手はポケットに沈める。
慣れた動き。無駄のない所作。
それだけで、この男が“普通ではない”と分かるには十分だった。
「……どうぞ?」
低く、抑えた声。
差し出されたカクテルは、完璧な色をしている。
だが、その目は。
――冷たい。
右目に宿る青は、わずかに光を帯びていた。
前髪の隙間から覗くそれは、感情を持たない光だった。
その時。
ふと、視線が揺れた。
カウンターの奥。
壁に掛けられた鏡。
何度も見てきたはずのそれが、今夜に限って、妙に気になった。
ゆっくりと、顔を上げる。
鏡の中の自分と、目が合う。
――いや。
合った、はずだった。
違和感は、ほんのわずかだった。
ほんの、わずか。
それなのに。
「……」
グラスを持つ手が、僅かに止まる。
鏡の中の“それ”は、
笑っていた。
薄く、口元だけで。
人を安心させるような笑みではない。
どこか、底の見えない――
「……誰だ」
無意識に、声が漏れた。
鏡の中の男は、同じ顔をしている。
同じ髪、同じ目、同じ――欠けた左側。
だが。
決定的に、違う。
ゆらり、と。
鏡の中の“クロウ”が、手を伸ばした。
こちらへ。
まるで、ガラス一枚を隔てていないかのように。
その瞬間。
――ピシ、と。
乾いた音が、空気を裂いた。
鏡の端に、亀裂が走る。
「……っ」
息が、詰まる。
ヒビはゆっくりと広がり、
その隙間から――
黒い液体が、滲み出した。
重く、粘つくそれは、ガラスを伝いながら滴り落ちる。
だが、床に落ちる前に。
形を、変えた。
触手のように。
うねりながら、こちら側へと伸びてくる。
同時に、その周囲に、煙のような“何か”が漂い始めた。
黒く、青く、空気を歪める霧。
視界が、揺れる。
「……やめろ」
誰に言ったのか、自分でも分からなかった。
鏡の中の“それ”は、ただ静かにこちらを見ている。
そして。
一歩、近づいた。
ありえない。
鏡の奥にいるはずの存在が、距離を詰めてくる。
その手が、さらに伸びる。
誘うように。
引き込むように。
――来い、と。
その時。
クロウの右目に、はっきりと映った。
鏡の中の自分。
伸ばされた手。
そして、その背後で蠢く、無数の黒。
その奥に。
ほんの一瞬だけ。
“別の顔”が、見えた気がした。
「……」
誰かの。
記憶の奥に沈んだ、誰かの。
――同期。
途端に、胸の奥が、わずかに軋む。
だが、それも一瞬だった。
クロウはゆっくりと息を吐く。
震えは、ない。
恐怖も、ない。
ただ。
理解だけがあった。
「……そうか」
低く、呟く。
伸ばされる手を、見つめながら。
「まだ、終わってないか」
黒い液体が、カウンターへと滴る。
霧が、足元に広がる。
境界は、もう曖昧だった。
こちらと、あちら。
人間と、怪異。
その全てが、溶け合い始めている。
それでも。
クロウは、動かない。
ただ静かに、鏡を見つめている。
その目は、変わらず冷たく。
――ほんのわずかだけ。
何かを、受け入れたように。
鏡の中の“黑鴉”は、笑った。
まるで最初から、そうなることを知っていたかのように。
グラスの中で、氷がもう一度鳴った。
解説?
クロウ・ノクス
鏡→今と未来の境界の結界
割れ目→結界が割れ、今と未来が混ざり始める
バー:今
鏡のナカ:未来
職業:警察(昔) 名:クロウ・ノクス
職業:バーテンダー(今) 名:黒巴(くろは)
職業:バーテンダー、殺し屋(未来) 名:黑鴉(くろがらす)
黒い液体(触手等):実験 ↓詳しく
警察の同期に拉致され
新薬を投与(実験)され→怪異化
左腕の肘から下を引きちぎられた(拷問)
その際、ちぎられた腕から黒い液体→黒い液体が触手と毒霧へ変化
※同期→触手に首を締められ死亡済
※黒い液体→触れたらそこから腐敗する→遺体は腐敗により消えた
※当時痛みにより本人気絶済