コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
体力なんて無いのに、なぜこんなに走っているのか。それは追われているから。追われている理由もわからずにただ走り続けている。
先程まで、普通に町で買い物をしていた。美味しそうな果物を眺めていた。そんなとき、怪しい男に腕を捕まれた。なんだろうと思い、男を見上げた。そうしたらなんだか本能が逃げろと、そう告げた。意味もわからず逃げ出した。男は追いかけてくる。怖い、誰なんだあいつ。疲れた、しんどい。助けてくれ、叶。
「 …っ 、 もう無理ィ … っ 、 はぁ 、 っは … か 、 なぇ … 」
疲れはててもう無理かも、と思ったとき一つの家を見つけた。咄嗟に草むらにかくれ、男を巻いてからその家の扉を叩いた。すぐ、一人の男が出てきた。本当に男なのだろうか、と疑うほど髪もながくきれいな顔立ちをしていた。取り敢えず、中にいれてもらおう。
「 ア、すいません ・・ 、 アーー ・・ 、 えっと 、 ちょっと匿ってほしくてェ ・・ 、 追われてるんですよねェ 、 今 ・・ 。 」
変な説明の仕方をしてしまった。男はもう近くに来ているのだろうか。わからない、少し手が震えた。そんなとき、目の前にいる男、?は変な声をあげてから
「 取り敢えず 、 はいって。 」
と告げて中にいれてくれた。丸い椅子に座らされる。そして待ってて、と告げられそいつは外に出ていった。見ず知らずの俺を匿ってくれる優しい奴だ、と思った。そんなとき、足元からにゃあ、という声が聞こえた。黒猫だ。かわいい、だけど俺は犬派なんだよなあ、なんてしょうもないことを考えながら辺りを見渡す。こんなに綺麗な家に一人ですんでいるのだろうか、なんだか変な感じだ。
暫くして、彼は家に戻ってきた。そして少しあきれた様子で
「 で、キミ名前は? 」
と聞いてきた。俺は自分の名前を名乗り、長いからサーシャと呼んでくれ、と付け加えた。そしたらすんなり、『サーシャくん』と呼ばれた。なんだ馴れ馴れしいな、なんて思ったすぐ彼は俺に質問を投げ掛けてきた。
「 サーシャくんはなんであんなに追われてるの?人間殺したとか? 」
その質問の仕方に違和感を覚えつつも俺はわからないと答えた。本当に意味がわからなかったからだ。怪しまれているのだろうか、男は少し黙った。気まずい、帰りたい。帰る場所なんてないけれど。そんなことを考えていたら、またも質問をされた。
「 ふーん 、 サーシャくんさ 、 行く宛とかないの?あるならおくっていくけど 、 」
優しい奴だな、と思いながらも俺はないと答えた。そうしたら、一緒に暮らさないか?という提案が返ってきた。俺は嫌だとは思わなかったが申し訳ないとは思った。でも、彼はなんだか信用できるしいい表せないような気持ちが込み上げてくるような男だった。彼になら引き取られてもいいかもしれないと思った。
「 じゃあ 、 お願いします 、 」
俺はそう答えた。彼は嬉しそうに微笑みながら服を取りに行くと二階に行った。待っている間、俺は考えた。追われている理由を。もしかしたら、俺は知らない間に犯罪者になっていたのか、それとも他人の空似とかそういう系でだれかと間違われたのか。真相はわからないけれど、きっと俺は悪くない。色々と考えていたら白いシャツと黒いズボンをもって、あいつは降りてきた。
「 はい、サイズぴったりじゃなかったらごめんね。 」
「 ありがとうございます 、 えーっと ・・・・・ 、 」
「 あ、叶だよ。あと、普通に話していいよ。疲れるでしょ、よろしくねサーシャ。 」
名前を教えてもらった。叶、そういえばさっき逃げてるときにそんな言葉を口にした気がする。気のせいだろう、と思いながら服を見つめる。多分、サイズはぴったりか、少し大きいか。叶の前の友達が着ていた服、か。誰なのか、聞くのはダメだろうか。それに、きっと昔の服を残しているということは大事な友達なのだろう。なのに、そんなものを俺に着せていいのか。そんなことを考えながら、叶がキッチンに向かったタイミングで着替えた。少し袖が邪魔だが、ぴったりだ。着替え終わったとき、料理がテーブルに並んでいた。美味しそう、なんて思いながら料理を眺めていると一緒に食べようといわれた。申し訳ないな、と思いながら席につく。
「 いただきます 」
そう言ってから食べ始める。美味しい。すごく、美味しい。こんな料理を毎日つくっているのか、自分のために。それか誰かのために。
「 そーだ、ねえサーシャ。追われてるんなら名前も変えたほうがいいんじゃない?ほら、ばれたらヤバイじゃん? 」
口を開いた叶。俺は
「 んぁ 、 はひはに 、 へもほんななまへはいいはわはらん。 ( んぁ、確かに 、 でもどんな名前がいいかわからん。 ) 」
と食べながら話した。
「 食べながら話すなや 、 (笑)んー 、 じゃあ葛葉とかどう? 」
「 ふふはぁ ?? (くずはぁ??) 」
葛葉、きっとこれは叶の友達の名前なのだろう。そんな名前を俺にあげるなど、やはり俺に友達を重ねているんだろうな。その友達は死んだのだろうか、いやきっと死んでいる。それも結構前に。
「 そ、葛葉。いいでしょ 、あと変身もしちゃおっか。髪の毛結んでいい? 」
こいつは悲しさを埋めるために俺を使っているのだろうか。でも、それならば都合がいい。こいつは俺を道具として、俺はこいつを匿ってくれる奴として両方利用している関係になるのだから。
「 んっ 、 いいんじゃね 。好きにすれば 、 」
無愛想に答えても彼は笑顔を絶やさない。そんなに友達が好きだったんだな。
「 はーい 、 じゃあ三つ編みとかにしちゃおうかなーっ 、 」
「 それは無理。 」
そんな会話をしてから叶は俺の後ろにたって髪を結い始めた。途中、すすり泣くような声が聞こえたことは秘密にしておいてやろう。編み込みになった髪型は叶とお揃いだった。そこまで一緒だったのだろう。叶は俺によろしく、と言ってきた。俺も返した。そうして少し恥ずかしそうに笑いあいながら
「 ごちそうさま、 」
と挨拶をした。叶は
「 お皿洗うからさ 、 好きにしてていいよ 」
と言って片付けを始めた。俺は外に出ようと思ったが、怖くてやめた。仕方なく二階に向かう。叶は気付いてないようだった。俺は部屋を回った。階段を上ってすぐの部屋には叶の部屋があった。ベッドと服をいれる為の棚、それと本棚があった。窓際には花瓶があった。中身はなにもなかったけれど。それから、写真が飾ってあった。猫の写真、その隣には黒髪の青年が写った写真。結構昔の写真だな、なんて思い、眺めたあとその部屋をあとにした。隣の部屋に移って、最初に目にはいったのは、綺麗に飾られたスターチスの花があった。ここら辺の野原にはあまり咲いていない花だ。昔、親に見せられた本に乗っていた。
「 スターチス 、花言葉は … 」
「 『途絶えぬ記憶』 、 『変わらぬ心』だよ 。探検してたの? 」
後ろから叶の声がして驚きながら振り向く。気付いてなかったはずなのに、変なやつだ。物音もなく現れやがって。
「 …まぁ、 」
「 知らない家だもんね、好きに探検してなよ。あと、この部屋は使っていいよ。ベッドも、クローゼットも。でも、階段の下にある物置には入らないでね、汚いから。 」
そんなことを言って、叶は扉を閉めた。一人になった部屋で、考えた。きっと、友達に送る花だっんだろうな、スターチスは。なんだか申し訳なくなりながら、ベッドに横たわった。窓からふく風は少し冷たくて心地よかった。日の光に照らされ静かに揺れるスターチス。そのまま、俺は眠りに落ちた。