テラーノベル
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主:20代、女
鬱で休職中。一人暮らし。
友達はいない訳では無いが、最近連絡取ってない
あぁ、もうダメかも知れない。
そんなことを考えながら歩いていたときに指輪を拾った。
病院に行ったら休職を勧められて、とりあえず診断書を貰って、休職した。
でも、薬が合わないのか目眩が酷くて食欲もない。
でも何も食べられるものが無いというのは不安で、近所のドラッグストアにゼリー飲料でも買いに行こうと外に出た時に、黒猫が指輪を落としていったのだ。
初めて屋敷に行ったときは、ついに頭がおかしくなったのだと思った。
もしくは薬の副作用で幻覚でも見ているのだ、とベリアンが必死に説明しているのを聞き流し、ボーッとしていた。
『・・・こんないい感じの夢なんて久しぶりだなぁ』
ベリアンが淹れてくれた紅茶を飲みながら、最近は泥のように眠るせいで夢を見ないか、見ても大嫌いな虫が出てくる夢だったりして、良い夢なんて見れなかったのに、と考える。
「・・・お口に合いませんでしたか?」
ティーカップを持ち上げたまま固まっている私の様子を見て、ベリアンが不安そうに聞いてくる。
『え?ううん、すごく美味しいよ!
・・・こんなに美味しい紅茶飲んだこと無いなぁ・・・
・・・飲んだこと無いのに何で夢に出てくるんだろ?』
「主様、これは現実ですよ」
『う〜ん、いや、でもなぁ・・・』
イマイチ信じられない私はとりあえず帰り方を教えてもらって、何かあったら呼んでくれるように言って元の世界に戻った。
『・・・疲れた、何もしてないけど』
お茶して帰っただけなのに、身体がずしっと重たい。
ゼリー飲料を流し込んで、ベッドに横になった。
うっすらホコリが溜まっているワンルーム。ずっと干していない布団。キッチンに溜まっているカップ麺のゴミ。
それに比べて、あの豪華なお屋敷は掃除も行き届いていてすごく快適そうだった。
『主様、ねぇ・・・
・・・あ、でもあっちにいれば食費とか光熱費浮くよね・・・』
夕方まで昼寝して少し元気になった私は着替えと貴重品を纏め、指輪を嵌めた。
「主様、お帰りなさいませ・・・そちらのお荷物は?」
『あの〜、すごく図々しいんだけど、こっちに居たら食費とか浮くなぁって思って・・・着替えとか持ってきました・・・』
「!?え、よろしいのですか!?」
『え、タダメシ食わせてって言ってるんだよ?』
「いえいえ!私達は主様のお世話をすることが喜びなのです。そんなことを仰らないでください!」
『あ、はい・・・じゃあ、あの、お世話になります・・・』
さくっと屋敷に居座ることが決まり、ふかふかのベッドの上でこれで良かったのかな、と考えながら眠った。
「おはようございます!朝食お持ちしました!!」
朝、元気な声と美味しそうな食事の匂いで起こされた。
『あ・・・おはようございます・・・』
「おはようございます!主様!
俺はロノ・フォンテーヌっていいます!
調理担当なんで、朝食をお持ちしました!」
『あ、ありがとう・・・』
体を起こそうとするが、腕も脚も重たすぎて持ち上がらない感覚に陥る。
朝は特に身体が動かない気がするな、と思いながら気合で起き上がる。
『わぁ・・・すごいね・・・』
朝食を見て、その豪華さに驚く。
どれも丁寧に作られているのが一目で分かる、素晴らしい料理だ。
しかし、朝はあまり食べられないし、そもそも固形物がキツイ。
でも、期待の眼差しで私を見ているロノ君をガッカリさせるのは申し訳無さすぎる。
とりあえず今日は頑張って食べて、明日以降少なめにしてもらおうと考え、フォークを持った。
『・・・美味しいよ』
柔らかいパンや揚げ焼きにした卵は大丈夫だった。
でも、添えてある豆とスパイシーなスープはちょっと無理な味だった。
それでも機械的に口に運び、何とか完食した。
『ありがとう・・・あの、でもちょっと・・・量が多いかも、です・・・』
吐き気を堪えながらそう言うと、ロノ君は悲しそうな表情になり皿を下げてくれた。
「すみません、主様華奢ですもんね・・・」
『あはは・・・ごめん・・・』
ロノ君が部屋から出ていったのを確認してベッドに倒れ込む。
吐き気が引くまで大人しくしていよう。
しばらくベッドで腹部を押さえながら丸くなっていた。
吐き気が引いた頃には寝間着は汗で湿っていて気持ち悪かった。
『はぁ・・・』
ベッドから落ちるようにして下りて、着替えを入れてきた袋を漁る。
『・・・脱いだのどうしよ・・・』
寝間着を脱ぎ落として気付いた。
まぁ、家に戻った時に洗濯すればいいや、と椅子の上に汚れ物を置いておくことにした。
着替え終わったところでドアがノックされた。
『あ、はい!』
返事をすると、顔の横の所だけ髪が長い子が入ってきた。
「失礼する、主様。昼食を持ってきた」
『あ、ありがとうございます・・・』
正直ちっともお腹は空いていない。
それに、ベッドの上で唸っている間にそんなに時間が経ってしまったのか、と自己嫌悪に陥った。
「・・・食べないのか?」
『え、あ、ええと・・・食べます・・・』
朝よりは量が少ないことにホッとしたが、かなりしっかりと重たい料理に顔が引きつる。
心を無にしてホットサンドを腹に収めたが、3つのうち1つはどうしても食べきれなかった。
『・・・ごめん、もうお腹いっぱい・・・』
「・・・そうか」
不機嫌そうな様子で皿を下げられた。
申し訳ないけど、無理なんだよ、もう食べられないんだよ、ごめんなさい・・・
「主様、具合が悪いのか?」
ぐるぐると色んな言葉が頭に浮かんで、動けなくなっているとそう言われた。
『あ・・・えっと・・・』
「顔色も悪い、隈もできている」
『あぁ・・・う〜ん、ちょっと調子が悪いっていうか、元気が出ないっていうか・・・そんな感じ・・・』
目を合わせずにそう言うと、一旦は納得してくれたようだ。
「元気がないときは肉だな。今夜は肉料理にしよう」
肉料理にしよう、ってことはこの子も調理の仕事をしているのだろうか。
『あの、お名前、聞いてもいいですか?』
「あ、済まない・・・バスティン・ケリーだ。飼育係と調理係補佐をしている」
やはりそうだった。
『飼育係、というと・・・?』
「馬の世話をしている」
『うま・・・!?』
予想外だった。
犬とか猫とかだったらモフらせてもらおうと思ったが、馬はモフれない。
「興味があれば、馬小屋に行ってみたらいい」
『うん、ありがとう・・・』
バスティン君はそれだけ言うと部屋から出ていった。
夕飯はもう少し少なめで作って欲しいな、と思いながらまたベッドに寝そべる。
しばらくそのままボーっとしていると、ベリアンがお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ、ダージリンでございます」
『ありがと・・・』
紅茶を飲みながら疲れたな、と思っているとベリアンは気を使って書庫を案内すると言ってくれた。
「お好きな本をお持ちくださいね」
書庫は学校の図書室くらい色んな本が置いてある。
久しぶりに本に囲まれていくらか気分が上向いた気がする。
『・・・う〜ん・・・』
しかし、ぐるりと書庫を歩き回り興味を惹かれるような背表紙を探してみても、どれも難しそうだったり絵本だったり恋愛小説だったりして、あまり気が進まない。
とりあえず昔ハマっていた童話集的な本を見つけたので何冊か持って部屋に戻った。
紅茶を片手にページを見つめても、内容が全然入ってこない。
同じ行ばかり読んでしまい、ちっとも読み進められないし、何の話を読んでいるのかも分からなくなって、本を閉じた。
本すら読めなくなってしまったか、と自嘲しているうちに夕飯の時間だと声を掛けられた。
「・・・あの、美味しくないですか?」
『え?おいしいよ?』
怪訝な様子でロノ君に聞かれた。
美味しいソースがかかったローストビーフは見た目からも美味しさが分かるほどだったのに。
珍しくローストビーフはもうちょっとあってもいいな、と思っていたのに。
『・・・ごめん』
最近笑っていなかったせいで表情筋が死んでいるのだろうか。
口角を意識して上げてみる。
意外と力が要るな、と思いながらできるだけ執事さん達の前ではニコニコしようと反省した。
『ホントにおいしいよ?』
「そうですか・・・」
笑ってみせるとやっとロノ君は信じてくれたらしい。
お風呂を済ませて、ベリアンにお休みを言うと笑顔の時間は終わり。
頬が痛い。
お風呂でほぐれた筈の身体はやっぱり重たくて、ベッドに寝転ぶと沈むような感覚がする。
魂まで抜けそうなため息を吐いて、枕を抱きしめてみる。
疲れているのにちっとも眠くない。
いつもならスマホでヒーリングミュージックでも流しながら眠れるが、こちらではネットが使えない。
眠れなかったら窓の景色でも見てればいいか、ととりとめのないことを考えているうちに眠ってしまったらしく、目を開けると朝焼けがキレイに見えた。
ベッドに入ったのは確か22時位で、多分1〜2時間は起きてて、今は5時過ぎだ。
最近5時間くらいしたら起きちゃうもんな、と思いながら朝食までの時間をぼんやり過ごすことにした。
コメント
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読了しました…🤍 重たい朝の身体、食べたくても食べられないもどかしさ、無理に笑う頬の痛み──そういう細かい描写が、すごくリアルで、胸の奥がぎゅっとなりました。鬱ってこういう感覚なんだろうなって想像させられて、読んでて少し苦しくなるくらい丁寧に描かれてて…。 そんな中で、執事たちが不器用ながらも「主様」に尽くそうとしてくれる優しさが、じんわり沁みますね。馬の話とか、無理に量を減らさないところとか、善意が時に重たくもあって、人間関係のリアルさも感じました。 この世界が主人公にとって安らぎの場所になりますように…続きがすごく気になります🌙