テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
50
#恋愛
589
ステージ本番。
体育館の舞台袖で順番を待つ間、胸の奥がざわつく。 アンプの振動、遠くから聞こえる観客のざわめき、床に響く低いベース音。
沢山練習を重ねたはずなのに、手元のギターを握る指先に力が入る。
汗ばんだ手をタオルで拭いながらも、鼓動が早すぎて落ち着かない。 隣に立つ広瀬くんの存在が、息を吸うたびに胸を押すようで、自然に呼吸が浅くなる。
「奈央さん、準備できてます?」
広瀬が言う。
声は軽く、いつも通りなのに、横顔が近くて、肩の端がほんの少しこちらに傾いている。
思わず視線を逸らすが、足は自然にステージへ向かう。
袖の端から見えるライトの光が、ステージ上を柔らかく照らしていて、胸のざわめきがさらに強くなる。
「こっちですよ」
腕を引かれた瞬間、心臓がぎゅっとなった。
力はほんの少しだけ、痛くもなく、ただ自然にステージへ誘われる。 奈央は無意識に腕を預け、胸の奥が熱くなるのを感じた。
広瀬は微笑むだけで、言葉も変わらない。
この一瞬の動作に、全身がざわつく。
ステージに上がると、ライトの光と観客の声に圧倒される。 観客の熱気が肌に伝わる中、自然に隣に立つ広瀬の存在だけで、胸の鼓動はさらに速くなる。
ギターを構えると、息を整える間もなくドラムのカウントとともに曲が始まった。
リズムに乗せて指を動かす。
ベースの低音が胸に響く。
ソロが回るタイミングで広瀬くんは立ち位置を微調整し、奈央の隣に視線をちらりと送る。
言葉はない。
でもその視線だけで胸が熱くなる。
ドラムのシンバルが高く響き、ベースの振動が身体に伝わるたび、心臓の高鳴りが止まらない。 音と光に包まれながらも、隣の広瀬の存在が全てを占領する。
呼吸を整え、軽く目線を交わす。
ギターのフレーズに集中しつつも、広瀬の動きや仕草に意識が引き寄せられる。 立ち位置の自然な近さ、肩の角度、弦を押さえる指先の動き。 何気ない動作に胸がぎゅっとなる。
曲のクライマックス、広瀬が少しだけ立ち位置を調整して奈央の隣を確保する。 観客の歓声が高まる中、視線が一瞬だけ重なった。
その瞬間、奈央は自分の手が小さく震えるのを感じた。
言葉は変わらないのに、存在と仕草だけで恋色の高鳴りを伝える広瀬。
胸の奥で、自然に熱が広がった。
ーー曲が終わると大きな拍手が沸き上がった。
歓声に包まれながら、隣を見れば広瀬は淡く微笑んでいた。
袖で引かれた腕の感触、ステージで自然に立つ距離、ちらりと交わる視線。 言葉にはされないのに、全てが胸に残る。
奈央はその余韻に熱く包まれ続けていた。