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ステージ本番。
体育館の舞台袖で順番を待つ間、胸の奥がざわつく。 アンプの振動、遠くから聞こえる観客のざわめき、床に響く低いベース音。
沢山練習を重ねたはずなのに、手元のギターを握る指先に力が入る。
汗ばんだ手をタオルで拭いながらも、鼓動が早すぎて落ち着かない。 隣に立つ広瀬くんの存在が、息を吸うたびに胸を押すようで、自然に呼吸が浅くなる。
「奈央さん、準備できてます?」
広瀬が言う。
声は軽く、いつも通りなのに、横顔が近くて、肩の端がほんの少しこちらに傾いている。
思わず視線を逸らすが、足は自然にステージへ向かう。
袖の端から見えるライトの光が、ステージ上を柔らかく照らしていて、胸のざわめきがさらに強くなる。
「こっちですよ」
腕を引かれた瞬間、心臓がぎゅっとなった。
力はほんの少しだけ、痛くもなく、ただ自然にステージへ誘われる。 奈央は無意識に腕を預け、胸の奥が熱くなるのを感じた。
広瀬は微笑むだけで、言葉も変わらない。
この一瞬の動作に、全身がざわつく。
ステージに上がると、ライトの光と観客の声に圧倒される。 観客の熱気が肌に伝わる中、自然に隣に立つ広瀬の存在だけで、胸の鼓動はさらに速くなる。
ギターを構えると、息を整える間もなくドラムのカウントとともに曲が始まった。
リズムに乗せて指を動かす。
ベースの低音が胸に響く。
ソロが回るタイミングで広瀬くんは立ち位置を微調整し、奈央の隣に視線をちらりと送る。
言葉はない。
でもその視線だけで胸が熱くなる。
ドラムのシンバルが高く響き、ベースの振動が身体に伝わるたび、心臓の高鳴りが止まらない。 音と光に包まれながらも、隣の広瀬の存在が全てを占領する。
呼吸を整え、軽く目線を交わす。
ギターのフレーズに集中しつつも、広瀬の動きや仕草に意識が引き寄せられる。 立ち位置の自然な近さ、肩の角度、弦を押さえる指先の動き。 何気ない動作に胸がぎゅっとなる。
曲のクライマックス、広瀬が少しだけ立ち位置を調整して奈央の隣を確保する。 観客の歓声が高まる中、視線が一瞬だけ重なった。
その瞬間、奈央は自分の手が小さく震えるのを感じた。
言葉は変わらないのに、存在と仕草だけで恋色の高鳴りを伝える広瀬。
胸の奥で、自然に熱が広がった。
ーー曲が終わると大きな拍手が沸き上がった。
歓声に包まれながら、隣を見れば広瀬は淡く微笑んでいた。
袖で引かれた腕の感触、ステージで自然に立つ距離、ちらりと交わる視線。 言葉にはされないのに、全てが胸に残る。
奈央はその余韻に熱く包まれ続けていた。