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尊いです(*^^*)
楽屋に入った瞬間、妙な静けさがあった。
いつもなら誰かしらが騒いでいる。康二の笑い声とか、ラウールの「お腹すいた〜」とか、翔太の文句とか。
けれど、その日は違った。
スタッフが慌ただしく行き来していて、空気が張っている。
「……どうしたんですか?」
リハーサルが終わり、汗を拭きながら戻ってきた目黒は空気の重さに眉を寄せる。
すると、近くにいたスタッフが困った様に顔を上げた。
「あ、目黒さん…阿部さんが…」
その瞬間、嫌な予感が胸を掠めた。
「あべちゃんが?」
「ちょっと体調崩されて…今、控室で休んでます」
言われた瞬間、目黒の足はもう動いていた。
「めめ!?」
入れ違いで戻って来ていた康二の後ろから呼ぶ声も聞こえなかった。
控室の扉を勢いよく開ける。
薄暗い部屋のソファで、阿部が横になっていた。
顔色が悪い。
いや、“悪い”なんてレベルじゃない。
青白い。
「…あべちゃん」
駆け寄って額に触れた瞬間、目黒は息を呑んだ。
熱い。
異常なくらい熱かった。
「っ、なんで…」
思わず漏れた声は、ほとんど怒りに近かった。
阿部はゆっくり目を開ける。
「……めめ」
「なんでこんなになるまで言わなかったの」
「……平気、だと思って」
「全然平気じゃないでしょ」
珍しく強い口調だった。
けれど阿部は、反論する気力もないのか、苦笑いするだけだった。
「……ごめん」
その声が掠れていて、余計に胸が痛くなる。
目黒は思わず唇を噛んだ。
元々、阿部は人に頼るのが上手じゃない。
大丈夫って笑って、ギリギリまで抱え込む。
それを知っていたはずなのに。
「昨日から様子変だったじゃん…」
ぽつりと零した声に、阿部が少し目を逸らす。
やっぱり隠していた。
そんな阿部に気付いていたのに。
「なんで無理すんの……」
責めたいわけじゃない。
でも怖かった。
この人が、自分の見えないところで壊れていくのが。
「……ごめんね」
また謝る。
その弱々しい声に、怒りは一気にしぼんだ。
代わりに込み上げたのは、どうしようもない不安だった。
目黒はそっと阿部の手を握る。
熱かった。
「病院、行こう」
「大丈夫…、少し休めば…」
「大丈夫じゃないから言ってんの」
即答だった。
その時、控室の扉が開いた。
「めめ、どう──」
入ってきたのは康二と翔太、それから深澤だった。
そして三人とも、ソファの阿部を見た瞬間に表情を変えた。
「え、ちょっと待って、顔色やばない?」
「……阿部ちゃん、これ結構きついだろ」
翔太が近寄って額に触れる。
「熱っ」
「無理しすぎちゃうかってスタッフさんも心配してたで…」
と、康二の声にも心配が滲んでいた。
阿部は困った様に笑う。
「いや、ほんと大丈夫だから…」
「「大丈夫じゃない」」
目黒と翔太の声が綺麗に重なった。
一瞬、静かになる。
そして深澤が小さくため息をついた。
「…あべちゃん、最近頑張りすぎ」
優しい声だった。
責めるんじゃなく、本当に心配してる声。
「俺ら気付いてたよ、食ってないし、寝てないし」
「でもあべちゃん、“平気平気”って言うから…」
阿部は視線を落とした。
図星だった。
きっと、ここに居ない皆も気付いていた。
「Snow Manをもっと知ってもらうために」
そんな気持ちで頑張る阿部を否定してしまう事になり兼ねないからこそ、止められなかった。
「……ごめん」
「だからなんで謝るんだよ」
目黒の声が掠れる。
「こういう時くらい頼ってよ」
その一言に、阿部の睫毛が揺れた。
目黒は普段、あまり強く言葉をぶつけない。
だからこそ、その声の震えが刺さる。
「俺、あべちゃんが無理してんの見るのほんと嫌だ」
静かな声だった。
でも、痛いくらい本気だった。
阿部は唇を結ぶ。
その時、不意に激しく咳き込んだ。
「阿部ちゃん!」
目黒が背中を支える。
息が苦しそうだった。
「……っ、ごほ、」
「ほらもう無理じゃん!」
目黒の焦った声に、周囲の空気がさらに張る。
深澤がすぐスタッフに連絡を入れ、康二が水を持ってきて、翔太がブランケットを引き寄せる。
自然と全員が動いていた。
それを見て、阿部はぼんやり思う。
「あぁ、本当に優しいな」と。
「病院行くぞ」
翔太が言う。
「俺、付き添います」
即答したのは目黒だった。
「いや、お前この後取材──」
「行きます」
有無を言わせない声。
深澤が目黒を見て、それから小さく笑った。
「……分かった、こっちは何とかする」
「ふっかさん…」
「あべちゃんの事、頼んだ」
その言葉に、目黒は深く頷いた。
移動中の車内。
阿部はぐったりとシートに凭れていた。
目黒は隣でずっとその手を握っている。
時々、不安そうに顔を覗き込む。
「……めめ」
「なに?」
「ごめんね」
「またそれ?」
少しだけ強い声。
阿部がしゅんと目を伏せる。
その反応に、目黒はすぐ後悔した。
「……怒ってるわけじゃない」
「うん」
「怖かっただけ」
その本音に、阿部がゆっくり目を向ける。
「あべちゃんってさ、ほんと限界まで頑張るじゃん」
「……」
「もし倒れた瞬間に一人だったらって考えたら…」
目黒は、感情を溜め込むタイプだ。
でも今は隠しきれていなかった。
「もっと頼ってよ…」
その声に、阿部の胸がじわりと痛くなる。
頼りたくなかったわけじゃない。
ただ。
好きな人たちに迷惑をかけたくなかった。
足を引っ張りたくなかった。
けれど。
今こうして、皆が当たり前みたいに支えてくれている。
目黒なんて、明らかに自分のことより阿部を優先していた。
「……ありがと」
小さく呟く。
目黒は少しだけ表情を緩めた。
「うん」
診察の結果は、過労と高熱。
しばらく休養が必要だと言われた。
帰宅後も目黒は当然のように阿部のそばにいた。
「めめ、帰っていいよ?」
「帰んない」
「でも明日朝早いじゃん」
「阿部ちゃんの方が大事」
あまりにも自然に言うから、阿部は言葉を失った。
熱でぼんやりした頭に、その言葉がやけに沁みる。
目黒は慣れた手つきで濡れタオルを替える。
薬を準備して、水を渡して、ちゃんと飲んだか確認する。
完全に過保護だった。
「……そんな心配?」
「心配するに決まってんじゃん」
即答。
「だって阿部ちゃん、放っといたらまた無理するし」
「しないよ」
「する」
「……」
否定できなかった。
目黒が小さくため息をつく。
「俺ね」
ぽつりと呟く。
「阿部ちゃんが笑ってると安心する」
静かな部屋に、その声が落ちる。
「でも最近、無理して笑ってる感じしてた」
阿部は目を見開いた。
気付かれてないと思っていた。
隠せてると思っていた。
「……分かんないよ、普通」
「分かるよ」
目黒は優しく笑う。
「好きだから」
空気が止まった気がした。
熱のせいだけじゃない。
心臓が変な音を立てる。
目黒は少し照れた様に視線を逸らした。
「……だから、ちゃんと頼って」
「……うん」
阿部の目に、じわりと涙が滲む。
こんな風に真っ直ぐ大事にされると、どうしていいか分からなくなる。
「泣くほど?」
「だって……」
声が掠れる。
「迷惑かけたと思ってたから」
その瞬間、目黒の表情が歪んだ。
「迷惑な訳ないじゃん」
強い声だった。
「俺ら、メンバーでしょ」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
すると、タイミングよくスマホが震えた。
目黒が確認すると、グループLINEだった。
【あべちゃん大丈夫!?】
【熱下がった?】
【ゼリー買って届けようか?】
【めめ、お前も休めよ】
思わず二人で笑ってしまう。
本当に優しい人たちだ。
目黒はその画面を見ながら、小さく息を吐いた。
「……みんな心配してる」
「うん」
「だから早く元気になって」
その声は、とても柔らかかった。
阿部はゆっくり頷く。
そして、そっと目黒の袖を掴んだ。
「……今日、一緒にいて」
その瞬間、目黒が目を丸くする。
阿部がこんな風に素直に甘えるのは滅多に無い。
次の瞬間、目黒は嬉しそうに笑った。
「うん、どこにも行かないよ」
そう言って、握った手に少しだけ力を込める。
その温度が、暗闇の中に優しく溶けていった。