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アスタロトは叫び続けるコユキの肩に手を置いて話を続ける。
「コユキ、だからそう単純じゃないんだよ…… 悪魔にとって負けを認めるって事は、その後の生涯、いや死んだ後であってもその相手に忠誠を誓い眷属(けんぞく)になるという事だ…… 戦って負けても謝罪して闘いを避けたとしても違いは無い、つまりアジにとってもここで引く訳にはいかないって事になる、コユキや善悪の眷属ではなくなるって事だし、スプラタ・マンユは今や二人きりだしな…… オルクス一人を残して口白の配下に入る位なら、堂々と戦って消滅したほうが余程良いと思っているんじゃないかな」
「ええっ、でも、それじゃ……」
コユキが黙りこくるのも当然だろう、程度の違いこそあれ、悪魔って奴は大概自尊心が強い、こりゃ千日手だな……
そう思った私の予想を覆したのは意外な人物であった。
さっきまで善悪の禿げ頭の上で寝っ転がっていたオルクスがスックと立ち上がり珍しく良く通る声で口白に告げたのである。
「アルテミス」
ビクッ!
「え…… オルクス卿?」
聞いた瞬間体を硬直させオルクスに向けて顔を動かす口白、少し震えている様にも見える。
「ア、ア、ア、ア、アルテミスが、な、な、な、なんだと」
オルクスがまたもやいつもより流暢に答えた。
「ダカラ、アルテミスイルッテバ、オゼニ! アイタイ? ア!!」
ポン!
聞いた瞬間、口白は三頭の狼状態に分離していた。
リーダー的なチロが善悪に向かって言う。
「善悪様コユキ様お気を付けて行って来てくださいね♪ 私共はこのお寺の番犬らしくお留守番をしていますね、ワンっ!」
「「ワン!」」
タッタッタッタッタっ――――
走り去って行ってしまった。
先程迄あれほど攻略組に拘って(こだわって)いたというのに一体どうしたのであろうか?
取り敢えず殺し合いを回避できたアジ・ダハーカは深く息を吐いて分身を消したが、この短時間に酷く疲れた様子であった。
「なるほどな」
アスタロトが呟きコユキが尋ねる。
「何、何だったの今のって?」
「うん、わけワカメでござるよ、アスタ教えろ下さい、何がナルホドなのでござる?」
「ああ、今思い出したのだが口白、ラーは恐妻家で知られていてな、嫁には頭が上がらないって有名な話でな、俺も詳しくは知らなかったんだが今の話を聞くと…… なあ、そうなんだろオルクス? お前たちの妹アルテミスが口白の嫁さんてことだろう?」
「ソソ」
「そうなんだー、んでも、無事バアルを連れ出して来たら結局アルテミスちゃん? だって一緒にここに来るかもしれないでしょう? それはいいのかしらね?」
コユキの疑問が聞こえたのだろう、何しろ犬の聴覚は人間の五倍以上と言われているのだ。
※諸説あります。
境内から大きな声で独り言が聞こえて来た。
「ワンワン、ここには三匹の狼がいるだけですよ! 口白なんかいやしませんからね、ワンワン」
コユキが呆れた顔で呟きを漏らし善悪とアスタロトが同意を示した。
「そんなんで誤魔化せる訳ないじゃない、こりゃ又やられるわね……」
「で、ござる」
「そうだな」
こうして、パーティ内でもトップクラスの口白が残る事が決定した事で、意外なほどすんなりとチーム分けが進んだのであった。
攻略組として、コユキ、善悪、アスタロト、スプラタマンユ、カイム、三匹の巨熊、念珠の中のアフラ・マズダとアンラ・マンユ、幸福寺待機組として、トシ子、口白、編みぐるみ軍団、ガープ、ゼパル、ベレト、茶糖家防衛組として、リエ、リョウコ、ツミコ、スカンダ、カルキノス、フンババ、と決まった。
都合三チームで向き合う事が決定したのであった。
これが遠征開始が二日後になった一つ目の理由。
二つ目はイマイチ戦力に不安が感じられる茶糖家防衛組に加わるフンババが、二日後であれば中六日(なかむいか)で登板可能になる事であった。
三つ目はいつも通り、善悪とオルクスが多種多様な武器を揃える為であったが、こちらは終始トシ子から無駄無駄言われていたのである。