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彼はスキップをしていた。
ああ、楽しみだ。
中堂は自分を地獄に連れていくのだろうか、それとも1人で行ってしまうのだろうか。
所詮自分たちはお金で成り立つ関係。
中堂はそこに自分がやましい気持ちがあるとは知らずに、接していただろう。
初めて会った時、見惚れた。
他の人とは違う。
生きているのに、濃い死を纏う。生きているのに、遺体のよう。
それが動いているのがひどく不気味で、ひどく生を感じた。
最愛の人を亡くして、犯人を探すために手段を選ばない彼。
だから、協力をしてくれと言われた時は心躍った。
こんなにも簡単に死にそうなのに生きている人と一緒にいれるのだから。
あわよくば自分も地獄へ連れていってくれないだろうか、そんな淡い期待を抱える。
彼が日彰医大を辞め、UDIラボに勤めるようになってから変わっていくのが感じられた。
振り回していたはずの同僚に振り回され、いろんなところに駆り出される。
その姿は心なしか楽しそうで、でもどこか苦しそうで。
ああ、まだ人間なのか。
彼がこのまま楽しい方へ向かっていって、地獄になんか目もくれずになってしまったら?
それでも自分は淡々と彼に協力する。
そんな時だった。
彼が明日死体を連れてくるから焼いてくれと、その死体はまだ生きていると、
言ってきた時は本当に天に昇るような心地だった。
ああ、やはり彼は生きている。
自分は止めるべきなのだろうか。
少しでもそんなことを考えた自分が可笑しく思えてしまう。
止めたところで彼は止まらないだろうから。
そして最愛の人のためだけに人生すら捧げてしまうような彼が
堪らなく愛おしくて、絶望を見せたらその復讐に燃える瞳はどうなるのだろうか、
それを考えるだけで身体が疼くのを感じた。
中堂が救われると、自分は壊れるかもしれない。
自分が壊れたらどうなるのだろうか、
その時は…中堂さんの記憶にどうやって刻みつけてやろうか。
ふふ、自分も大概ですね。
スキップを続ける。
電話が鳴った。中堂の同僚、三澄ミコトだ。
彼女は中堂は何処だと聞いてきた。
ああ、そうだった。彼にはUDIラボのみんながいるのだ。
そのみんなと中堂の関係は自分にはなれない。
自分と中堂の関係はみんなにはなれない。
それでいいのだ。ブレーキもアクセルもあった方がいい。
別に地獄に行きたい訳ではない。死にたい願望がある訳ではない。
ただ、誰かに選んでもらいたいだけなのだ。
でも、自分が選ばれると言うことは、相手は壊れると言うことだ。
壊れたらもうあの目は見られない。
本人にすらもその事には気づかずに。
中堂は遺体を運んでこなかった。
その事に対して少しでも嬉しいと感じてしまった自分に軽蔑する。
そして快楽を感じる。
足が冷えていくのを感じた。
みんなこんな感覚を体験しているのだな。
好きな人に狂って狂って、終いには…ああ美しい。
残念ながら地獄はお預けだ。
でも、彼が救われた、その時はどう言う顔をするだろうか。
自分と中堂との関係は無くなるのだろうか。
彼を見ることもできなくなるのだろうか。
訳もわからず声を出して笑った。
何が面白いのか自分でも分からずに。
あぁ…やめようと思えばやめられるのに。
最愛の人の遺体を見る中堂の顔はひどく優しかった。
今までの彼からは考えられないほどに。
それまでほどに愛していると言うことだろう。
自分はその光景をただ、口角を上げて見守るだけだった。
羨ましい、と思った自分に対して嘲笑する。
そして嘲笑した自分に満足そうに微笑む。
更に足が冷えていく。
その最愛の人に自分はなれないし、なりたいとも思わない。
それが『中堂 系』なのだから。
だから驚いた。
火葬が終わった後に彼はこう言った。
「……先に地獄に行くなよ」
ああ、彼はどこまでも自分を狂わせるのだ。
その時を楽しみにしながら今日も死体を焼く。
壊れるのは、ああ、楽しみだ。