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ー私は、耳が聞こえませんー
耳が聞こえない子が、転校してきた。耳、聞こえないのに授業できるのかな、と私は思った。でも、お母さんに何度か『障害がある人たちのことを悪く言ってはいけません。やさしくしてあげなさい。』と、言われていたので仲良くする事にした。
その子は、澄香という名前らしい。自己紹介してくれたので、私もノートに
〘 私は、織田 美喜です。〙
と、書いた。すると、澄香ちゃんが、嬉しそうに、自分の字で私の名前をノートに書いた。私は思った。
ーただ、名前を教えただけなのに、こんなに喜んでくれるんだー
そこから、私は澄香ちゃんと、毎日のようにノートで話すようになった。家であった事、面白かったテレビ番組の事、兄弟の事、今ハマっている事、沢山話した。
掃除から帰って来る途中目に入った、澄香ちゃんが虐められているところ。
私は、何かを考えるより先に、足と、口が動いていた。
「澄香ちゃんの事、虐めちゃダメだよ」
澄香ちゃんの前に立ちながらそう言った。意外と声が大きかったらしく、虐めていた子達は、周りをキョロキョロ見回して、気まずそうに去っていった。後ろを振り向くと、澄香ちゃんが、びっくりした顔で私の事を見つめていた。きっと、急に私が前に来た事に驚いているのだろう。私は、もっと驚かせたいと思ったので、昨日ちょっとだけ覚えた手話で
〚だ、い、じょ、う、ぶ、?〛
と、ゆっくり手話をした。すると、澄香ちゃんは、もっとびっくりした顔をして、その後に、にっこり笑って、
〚助けてくれて、ありがとう。大丈夫だよ。〛
と、手話で返してくれた。
次の日、学校に行くと机の上に沢山落書きがされていた。〘 いい子ぶりっ子〙とか、〘 調子に乗るな〙とか、そんな内容ばかりだった。いじめの矛先が自分に変わったんだと、すぐ悟った。でも、澄香ちゃんには必死に隠し続けた。
小3の3学期から、小6まで耐えた。でもとうとう、私は逃げた。クラス全員と、違う中学校。もちろん、澄香ちゃんとも違う中学校。違う中学校に行ってる間、澄香ちゃんは虐められていないだろうか。上手くやっているだろうか。という、無神経な疑問が、たまに頭に浮かんで来ていた。
高校1年生の夏の夏休み。たまたま、何もテレビであってなくて、ニュースを付けていたら、
『東京都、○○市□□町の、マンションで、飛び降り自殺がありました。』
と、悲しいニュースが流れて来た。私は誰が飛び降りたのか気になったので、見続けた。
『飛び降りたのは、◇◇高校の1年生、北川 澄香さんと見られます。』
と、ニュースキャスターが言った瞬間私は、まるで、鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。嘘、澄香ちゃんが、飛び降り…?。信じられない。今まで、ノートや手話で沢山話をしてきた、澄香ちゃんの顔が頭に浮かぶ。その瞬間、涙が溢れて止まらなくなった。1人部屋で嗚咽を漏らしながら、色んなことを考えた。私が、卒業と同時に逃げなければ、我漫していれば、澄香ちゃんに虐めの矛先が戻ることは無かった。どうして、逃げる以外の考えが浮かばなかったのだろう。澄香ちゃんを助けた時みたいに、言えば良かったじゃないか。やめてよ、って。
この先、この私の後悔が消えることは無いだろう。そして、私は泣きながら願った。
〘 お願い、澄香ちゃん。私を恨んで。澄香ちゃんを置いて逃げた私を。一生恨んでいてください。じゃないと、私は、生きていけそうにありません。ごめんなさい。貴方の事を、置いて逃げてごめんなさい。私は最低です。〙
そんな願いを、泣きながら思っていた。