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「……あの子たちはもう、合格発表終わってんの?」
空がゆっくりと足を進めながら問いかけてくる。
「うん、まぁ言うてもお金持ちのところの子やからな。私立で早々に合格してるわ」
「……まぁ、金があったら大体なんでも手に入れられるしな」
「……でも、空は無理そうやな」
思わず、本音を零してしまった。
空の家は裕福で、空自身もそれに見合った魅力を兼ね備えている。いくら金を積んだところで、心のかけら一つだって手に入れられへんやろう。
「……当たり前やろ。お前、感謝しろよ?」
「ふふっ、ほんまに」
俺の軽い口調が気に入らなかったのか、空の表情が少し曇る。
昨日のやり取りだって、毎日の言葉だって、俺なりの愛は精一杯伝えているつもりなんやけど。
「……それより、半沢くん? なんで、もとちゃんのお母さんのこと知ってんの? 上重くんならまだしも」
しまった。やっぱり、そこを突いてきた。上手く流したつもりやったんやけど。
空の瞳が、俺を射抜く。
「……一回だけ、家に入れたことがある」
「は!? 俺もまだやのに!? それに、俺の方がもとちゃんのお母さんのこと大好きやろ!」
ほら、絶対これや。だから、会わせたくなかってん。
俺のお母さんの料理の大ファンやという空を家に連れて行ったら、人懐こい2人の事や、それこそ両思いになってしまう。俺が邪険に扱われる未来なんて、目に見えてる。
「しょうがないやん。偶然会って、ちょうど俺も暇やったから『教えてあげようか?』ってなって……俺の家の方が近かったし。……そん時は、俺に好意を持ってるなんてわかってなかったから」
口に出すと、言い訳じみていて格好悪い。
こんな言い方をしたら空が面白くないことくらいわかってるのに。俺も、どこかでいじけてるんやな。
主導権はいつも空にあって、彼の機嫌ひとつで俺たちの距離が決まってしまう。
俺だって男や。空をこの手で押さえつけて、自分の思い通りに動かしたい。けれど、嫌われるるのが怖くて、結局は言われるがまま。ほんま情けない。
「……今度、絶対お母さんに紹介するから。ちょっと待ってて」
「……へぇ」
あー……これは機嫌を損ねたな。
空は視線を逸らし、手に握りしめていたピンクの薔薇に目をやった。嫌な気持ちを綺麗なもので落ち着けてるんやろか。いつまでも大人になれない自分が、心底嫌になってくる。
「……じゃあ、俺、今日は用事あるし帰るわ」
予感はしてた。
昨日「大学生になるまで」宣言をされて、今日一緒にいられるわけがない。
俺だけじゃなくて、新先生だってこの日を待っていたはずやから。……それでも、少しだけ期待しててん。さっき、校門で空が「俺ら用事ある」って言ってくれたから。
「……うん。気をつけてな」
「もとちゃんも、今日はご両親にいっぱい祝ってもらうんやで? ほんで、その料理がちょっとでも余ったら、明日俺のところ持ってきて」
「え?」
「俺、頑張ってくるから。ほんまは新しいお母さんより、もとちゃんのお母さんとお祝いできた方が嬉しいねんけどな」
さっきまでの不機嫌が嘘のように、空がふわりと笑った。
そっか。用事があるって、お父さんとお母さんとのお祝いのことやったんか。
「わかった! 今日、両親に空との事、きちんと話すから! ほんまに、待ってて!」
「こんな大事な日に、俺たちのことなんて言ったらご両親パニックになるやん。……「俺のLoverです」って話すん?」
「……あ、ほんまや」
「……『大事な友達』やって、いつか紹介してくれたらええから」
空の優しさに、胸がぎゅっと締め付けられる。
いつか。空の全てを手に入れて『俺の大切な人です』って胸を張って紹介できたらいい。
「空、俺、大学生になったらもう一回ちゃんと告白するから。その時に、俺との関係……もう一回考えてほしい」
「ふふっ。告白の予告なんて初めてやわ」
空は本当に嬉しそうに笑って、「わかった」とだけ返事をして手を振って帰っていった。
大丈夫や。
昨日だって、「前と変わらない熱量で大好きや」と伝えてくれた。週のほとんどは俺を優先してくれるし、学校帰りに寄りたいと言えば、すぐに受け入れてくれる。付き合ってからの大事なイベント……イブもクリスマスもバレンタインも全部、俺と過ごしてくれた。
どこに新先生に負ける可能性がある? 自信を持っていけよ、俺!
次の日は、残り物なんかじゃない、朝からお母さんと一緒に作った、できたての手料理を抱えて空の家へ向かった。
お母さんは俺の気持ちを尊重してくれる人だと信じて、その日、空との関係を打ち明けた。「今は好きな人だけど、いつかは恋人になりたい」と。
東京の大学受験を辞めると言った時点で、お母さんは薄々勘付いていたらしい。相手が男だったことには流石に驚いていたけれど、俺の覚悟を見て、最後には静かに頷いてくれた。
こうなったら、少しでも味方を増やさないといけない。
お母さんに打ち明けたことで、最強の助っ人を確保できた。大学の入学式の後、空を家に招待することに決めた。
今は、二人の関係を確固たるもので縛りつける方が優先や。
新先生には、こんな「日常の重み」は作れないはず。
俺は俺のやり方で、空の居場所を俺の隣に固定してやる。
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#先生と生徒