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僕は無言で彼女の視界に入る位置へと移動した。

「あはっ、暁斗くんだ、やっほー…」

彼女の声は細く、今にも途切れてしまいそうだった。

「………私、さ、君に何個か嘘ついてたんだよね。」

「……嘘?」

「そう、嘘。」

「君が、この病院に来て、私、残りが3ヶ月だの、1年だの、言ってたんだけどね。」

「本当は1ヶ月くらいで、今日が、その日、なんだ。」

「え……?」

1ヶ月…??今日がその日…??

理解が追いつかない。

怖い。


「……暁斗くん、泣かないでよ…。」

僕は気づけば泣いていた。ポロポロ涙が溢れていた。それは、拭いても拭いても止まらない。

「暁斗くん。」

彼女に呼ばれ、泣きながら顔を見ると、彼女は僕に微笑みながら言った。

「私の、夢は、本を、小説を、売ること、なんだ。だから……」

「君が、私の、あの大量の紙の本を、将来、売って欲しいんだ。」


総言葉を残して

彼女は息を引き取った。



「……ごめん。」

「僕、本当は…!貴方に、憧れて、謝りたかった。」

言ってももう遅い言葉、なんで今言うんだろう。

「皐月さんの作品、とっても素敵でした、妬ましくなるほど。」

「それと…あの時言えなかったけど、僕、僕ね。」

「皐月さんの事、好きでした。」

改めて顔を見ると、笑って微笑んでいた。

「……やっぱり、貴方は、嘘つきだ。」

僕は息を引き取った彼女にサヨナラのキスをして、その部屋を後にした。


1人の夢と1つの小説

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