コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
穏やかな昼下がり、焼き立てパンの小麦の匂いとチキンの香ばしい食欲を唆る匂いに包まれる。実に美味しそうだ。彩り豊かなサラダやスープも忘れてはいけない。今日もレンブラントは優雅に、城の中庭で昼食を摂っていた、が気分は最悪だ。
「エルヴィーラは、本当にティアナ嬢がお気に入りだね」
軽快なクラウディウスの声に、レンブラントは向かい側に座るティアナを見た。隣にはエルヴィーラがニコニコと笑みを浮かべながら座り、何かと彼女の世話を焼いている。何の変哲もない、最近の日常だ。ティアナが学院の休みの日、若しくは終わった後、彼女を交えて食事をする。
「何と言いますか、微笑ましいですね」
(微笑ましい?)
「パッと、華やかになったよな」
(華やかになった?)
「レンブラントも、そう思うだろう?」
「あはは……うん、そうだね」
(全く持って思わない)
どうして毎回毎回、ティアナとの二人きりの貴重な時間を潰されなくてはならないのか……腹が立つ。
(大体彼女も彼女だ。あんなに愉しそうにして、僕との時間がなくても寂しく思わないのか。確かに今は正式な婚約者ではない。だが、何れは彼女との距離を縮めて……って、これじゃあ、縮める事すら出来ないじゃないか!)
レンブラントは項垂れながら次々にパンやら肉やらを口に放り込んでいく。半ばやけ食いだ。
「レンブラント。君も、やきもちなんて焼くんだな」
クラウディウスの指摘に、レンブラントは動きをピタリと止めた。そして一気に顔が熱くなるのを感じた。
「エルヴィーラには、私から余りティアナ嬢を独り占めしない様に言っておくから、そんなに拗ねるな」
「っ、僕は拗ねてないし、別に妬きもちなんて!」
思わずムキになり立ち上がり声を上げたが、そこでハッとする。それはこちらを見て目を丸くするティアナと目が合ったからだ。情けない姿を晒してしまった……。顔だけじゃなく、身体まで一気に熱くなる。慌てて席に座り直した。
「お前も、可愛い所あるんだな」
ヘンリックの言葉に、クラウディウスとテオフィルの二人も同調してあははと軽快に笑った。
(厄日だ……)
◆◆◆
クラウディウス達とお茶をしてからというもの、頻繁にお茶や食事の誘いを受ける様になった。クラウディウスからというよりは、エルヴィーラからというのが正しい。ティアナは、どういった訳か彼女にいたく気に入られてしまった。
エルヴィーラはクラウディウスが言っていた様に、家族や彼と以外とは話さない。クラウディウスと話す時も、耳元で話していて声すら聞く事はない。そんな彼女だが、ティアナは好感を持っている。エルヴィーラは、ティアナの事を何時も笑顔で気遣ってくれて、たまに、おもにヘンリックから困った質問をされる時も、例の凄みで助けてくれる。友人というよりは、姉の様に感じていた。
「ティアナ様、いよいよ明日ですね」
モニカやハナ、ミアは明日の舞踏会の準備に余念がない。ドレスに皺がないか、髪飾りや装飾品を並べて傷や汚れなどの最終チェックを行なっていた。
明日は城で舞踏会が開かれる。そこで初めてレンブラントの婚約者として参加し、お披露目となる。だがこれまで舞踏会などには殆ど参加して来なかったティアナは、愉しみというより、今から不安になっていた。以前レンブラントに、ティアナが付き纏っていた時に身をもって実感したが、彼は物凄く女性から人気がある。それこそあの時は一歩も近付けないくらいだった。そんな彼の婚約者として参加するからには、あの恐ろしい令嬢達の洗礼を受ける事を覚悟しておかなくてはならない。
「私、無事に帰って来れるかしら……」
「?」
「?」
「?」
ティアナの独り言に、モニカ達は顔を見合わせていた。