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ウクライナにある“愛のトンネル”で景観を満喫したティナとフェルは夕陽が沈む頃に宇宙へと舞い戻っていった。
その日の夜、インターネット上に二枚の写真が掲載されて全世界を大いに賑わせることになる。一枚はウクライナにある慰霊碑の前で静かに祈りを捧げるティナとフェルの写真であり、特に現地人からの大反響を呼んだ。
『慰霊碑に祈りを捧げてくれたのか!?』
『異星人である彼女達は慰霊碑がどんなものか分からない筈だ。どう言うことだ?』
『アードにも似たような文化があるのかな?』
『或いは、わざわざ調べてくれた可能性があるぞ』
『だが、慰霊碑なんて世界中にあるぞ?なんでウクライナなんだ?』
『なんだって良いさ!彼女達は先人達に敬意を払ってくれた!』
『そうだ!重要なのはそこだ!理由なんてどうでも良い!』
『ありがとう!』
突然の訪問を疑問視する声もあったが、それよりも好意的な声が多く見られた。この騒ぎはメディアも取り上げて全世界の人々が知ることとなった。各報道機関は特番を組み、当事国であるウクライナ大統領は緊急記者会見を開いた。
「理由はどうあれ、彼女達は敬意を示してくれた。その事実に最大限の感謝を表明すると共に、次はお忍びではなく堂々と来訪して欲しい。国を挙げて歓迎することをここに断言する!」
この宣言は議会でも満場一致で可決されて合衆国政府との交渉を加速させるため、大統領の訪米も検討されるに至った。
そしてもう一枚の写真は、新緑に彩られた愛のトンネル。その中で仲良く手を繋ぎ笑みを浮かべる天使と妖精の少女達が写し出されていた。
そのあまりにも非現実的かつ幻想的な光景は、全世界の人々を魅了したのは言うまでもない。こちらも各国メディアがこぞって特集を組み大反響を呼ぶ。
同時に視聴率の低迷で利益が減少傾向にあったメディア各社も、異常なまでの視聴率の高さを記録し狂喜乱舞することになる。
そんなお祭り騒ぎの中、何故か日本のあるテレビ局だけは『日本の絶景~自然の神秘、摩訶不思議な岩達~』を特番として放送。
『何だろう、この安心感』
『いや、絶景なのは分かるんだけど何故岩を選んだwww』
『対抗するものが違うだろwww』
『コイツらは何と戦ってるんだ!www』
別の意味でネット界隈を賑わせた。その姿勢は一部の海外メディアに取り上げられるまでに至り、ある種の伝説となった。
これらの報道やウクライナ政府による表明を受けて、各国政府は事実確認を急ぎつつ合衆国政府へ抗議する事になる。
何の事前連絡もないままティナ達が合衆国以外の国を訪問したのだ。訪問を打診して交渉してきた各国が抗議するのも道理である。
とは言え、合衆国政府としても完全に寝耳に水状態である。事実確認のため直ちに連絡を取ることとなった。
尚、通信手段は異星人対策室四階に設置された星間通信端末である。見た目はスマートフォンと大差ない。
『ティナ、ウクライナは楽しかったかい?』
『とても綺麗な場所でしたよ!今度はカレンも連れていきたいくらいです!』
ジョンの確認に対してティナはあっさりと認めてしまい、彼は胃に鈍痛が走るのを自覚した。
しかしまさか叱り飛ばすわけにはいかないし、そのつもりもない。
『私達もニュースを見てビックリしたよ。どうしたんだい?』
『どうしても行きたくなりまして……事前に連絡していなくてごめんなさい』
『いや、構わないよ。みんな好意的に見てくれているからね』
本当はフェルの要望による訪問なのだが、ティナはそれを敢えて言わなかった。
『この件については完全に私の独断です……ごめんなさい。ハリソンさん達にも迷惑を掛けてしまいました』
『違うんだ、ティナ』
『え?』
『本来君達がどこへ行こうとそれを規制する手段なんて私達は持っていない。そもそも今の状況だって君の好意と配慮のお陰だと言うことを理解しているよ。残念ながら、それを理解している人が少数なだけさ』
合衆国は確かに異星人交渉の最前線にいるが、そもそもティナの好意が大前提である。アードと地球には問答無用で一方的侵略されるほどの格差が存在することを、合衆国政府は正しく認識していた。
いや、スーパーマーケット事件で改めて認識させられたと言って良い。
『こちらのことは心配しなくて良い。それより、ボイジャーはどうかな?』
『明日予定通り連れて帰りますよ。場所はどうしますか?』
『ふむ、取り敢えず異星人対策室へ持ち込んで欲しい。それなりの大きさはあるが、中庭へ安置すれば問題ないだろうからね』
異星人対策室は人員の拡大に伴い、ビルはもちろんその隣にあった中庭のある屋敷も使用され始めていた。これは政府要人のための別荘のひとつだったが、あまり利用されていないので有効活用をした形となる。
『分かりました。ではまた明日』
『うむ』
各国の抗議に対してハリソン大統領はティナ達の行動を完全に把握することは不可能であり、本人達の意思を尊重する旨を公表。
また現地政府も歓迎していることに触れ、彼女達のお忍び訪問は今後も発生する可能性が高いと言及した。
一部からは合衆国が交渉の責任を果たしていないと非難する声も出たが、そもそもティナ達を制御するなど不可能であると認識する国家は沈黙。代わりにティナ達へのアピールを強める方向へ舵を切った。
『おいおい、間抜けなのはうちの政府だけじゃなかったのかよ!世も末だな、全く!良いか!?今回宇宙人共は誰にも察知されずに現地入りしてたんだぞ!?これが何を意味してるかちゃんと理解してる奴が国の上層部に居ないなんて終わってるな!
誰にも知られずに移動できるんだ!つまり宇宙人共は、俺たちに知られること無くテロ行為を出来るって事だぞ!?これがどんなに危険なことか、ちゃんと考えた方がいい!昔から宇宙人に拐われたなんて話は良く聞くが、俺は真実だと思うね!奴らは何十年、下手をすれば何百年も前から地球を狙ってたんだ!
みんなも覚悟を決めろ!奴らによる侵略は用意周到に準備されているんだ!あの化け物の化けの皮が剥がれるのも時間の問題さ!手遅れになる前に、手を打とう!地球を守るんだ!』
~クサーイモン=ニフーターの放送より抜粋~