「…んで、どうだったよ。」
次の日、またみんなでの撮影があった。椅子に座ってぼーっとしてた俺のところに岩本くんが話しかけてきた。
「…原因はわかったよ。」
「お、それは良かったじゃん。」
「…でも、それが良くなかったのかも。」
「…何で?」
「舘さん泣いてた。声をあげて。」
「…?寝てる時に泣いてたんじゃないの?」
「あ、うん、泣いてたんだけど、その…泣いていた原因を話した後にトイレで泣いてたんだよね。」
「…」
「一緒に悩ませてって突き放さないでって言いたかっただけなのに…舘さんを泣かせちゃった…」
「…そっか。」
思わず涙が溢れた僕を岩本くんは黙って見つめていた。
「おはようございます。」
聞き覚えのある声が耳に入った。
「おはよぉ舘!…あれ?何か目赤くない?」
「本当だ。どうしたの?何かあった?」
「ううん。何でもない。大丈夫だよ。」
「そう?…あ、昨日はラウールが泊まりに行ってたんだよね?楽しかった?」
「…うん。楽しかったよ。」
「…そっかぁ。それは良かったな!」
泣いている顔を見られたくなくて下を向いたままでいると足音がこちらに近付いてきた。
「照、ラウール、おはよう。」
「おはよう舘さん。」
「…おはよう。」
目を合わせずに挨拶を返すと、舘さんは俺の顎を掴んで無理やり上にあげた。急に開けた視界に舘さんが映る。その顔はなんだか寂しそうだった。
「ねぇラウ。泣いてるの?」
「…っ、泣いてなんか…」
「…昨日の俺みたいだよ。」
「…、っ!?」
「…ここじゃ目立つし少し出ようか。…照、後どのくらい時間があるんだっけ?」
「1時間くらいはあるよ。ゆっくり話してきな。」
「ありがとう。行こうかラウール。」
顔から手が離れたと思ったら今度は腕を掴まれた。グイッと引っ張られるのに抵抗もせず大人しく楽屋から出ていった。
「…昔の話をしようか。」
空き部屋に入った舘さんは電気もつけずに話し始めた。
「まぁ昔と言っても結構最近の話でもあるんだろうけど。」
「…」
「…俺がさ最初にコロナに感染した時期があったじゃん。ほら…紅白もカウントダウンも辞退した年。」
「…うん。」
「…すごく悔しかったしすごく辛かった。…消えたいとも辞めたいとも思った。」
「…」
「今だからこんな話せるけど、当時はどうすればいいのかも分からなかった。起こったことはしょうがないとはいえ、過去の自分を恨んだ。」
「…」
「ああしとけば、こうしとけば…なんて考えているうちに頼り方、なんて分からなくなってたの。」
舘さんは暗闇の中でも分かるくらい悲しそうに微笑んだ。
「だから…昨日ラウールが頼ってとか突き放さないでとか言ってくれた時…どうすればいいのか分からなかった。でも…すごい嬉しかった。」
「…え?」
「頭はぐちゃぐちゃになったし訳わかんないくらい泣いたけど、やっと麻痺した感覚が戻った感じがしたの。」
「…」
「だから泣いたのは辛かったからじゃないんだよ。嬉しかったからだよ。」
ありがとねラウール、心配してくれて。そう舘さんが言った瞬間、止まったはずの涙がまた溢れた。
「っう~…」
「あぁ…泣かないで。この後収録あるのに…」
「だってぇ……」
「…うん、ごめんね。俺のせいだ。」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる舘さんに抱き着いて涙が止まるのを待った。
「ごめん、戻るの遅くなった。」
「お、舘にラウ!おかえりぃ!」
「ん?ラウ、目赤くない?舘さん何したのうちの子に!」
「ごめんママ。」
「いいのよ…って誰がママよっ!」
「合ってるでしょママ。」
「否めないっ…」
「なにこの茶番…」
その日の夜、二人にあったことをみんなに話すと、ラウールは褒められ宮舘は少し怒られた後「何かあったらちゃんとみんなに言うこと!」と釘を刺された。
(そんなに俺の悩み聞きたい?)
(聞きたい。)
(あ、はい…)
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