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琉騎亜は作詞した原稿用紙を届けるため、事務所まで赴くことにした。机に散らばった書類を抱え外に出る。太陽は燦々と輝き、肌はじりじり焼けるようだった。道は人でごった返しており、俺は何度か人の肩にぶつかってしまった。
「すっ、すみませっ…」
書類を地面に落としてしまい、琉騎亜は慌てて這いつくばり紙を集める。紙は風に吹かれ飛んでいってしまい、必死に集めた紙の端っこは誰かに踏まれていた。
アスファルトの地面の上に座り込み、俯きながら書類を見る。まるで、この世界は俺に生きるなと言葉の重みをかけているようだった。
だんだんと目の前が真っ暗になっていく中、少しだけ、暖かい光が差し込んだ。
「はいっ!これお兄さんの?」
目の前には黒髪のロングヘアーの目がぱっちりした、可愛らしい女の子が紙を差し出し、琉騎亜を見つめていた。
「…えっと、あっ!お、俺の、です…」
言葉に詰まりながらどもりながらも声を出した。喉がきゅっと締まったように、うまく喋れない。
「ふ〜ん。素敵な歌詞だね!頑張ってね!」
彼女は琉騎亜の手を握ると、明るく綺麗な笑顔を俺に向けて走り去っていった。彼女の華奢な後ろ姿を見ながら、琉騎亜は服の裾を握りしめた。蝉のジャワジャワと鳴き叫ぶ中、琉騎亜は初めて一目惚れをした。
……
夜、暗い公園でブランコに座り込む。この公園は近くに幼稚園があり、日が明るい時は幼稚園児や小学生達が集まる、それは賑やかな場所だった。日が落ちると小さな街灯が付き、その光が余計に孤独だと言っているように心を締め付ける。
そんな街灯を眺めながら、今日担当者に言われた言葉が頭に留まる。
「もう辞めちゃったら?君の作詞ってどこかパッとしないんだよねぇ。」
「でっ、でも…俺は頑張って…」
「ハイハイ。じゃあ次の作品に期待ですねぇ。うな サン。」
うな、と言うのは琉騎亜の活動名だ。声をあげ、皮肉ったように笑うとその部屋から担当者は出ていった。
やはり、俺には作詞の才能は無いのではないか。そんな考えが頭の中を巡り、重い足取りで公園まで来たのだ。
家に帰るにはホテル街を通らなければ行けないため、渋々その場を進む。
ヒュッ、と息を飲んだ。
そこには彼女がいたからだ。
「あっあの!!…その、えっと…」
思わず声を出してしまった。彼女は俺の方を見る。すると彼女と腕を組んだ、少し歳のいった男性もこちらを見やった。
彼は誰だろう?という謎の不安感が溢れ、見ていられず足元を見てしまう。
「…ハァ、君、彼氏がいたのかい。なら話は終わりだ。金が欲しかっただけなんだろ。」
その男性は彼女に封筒を投げつけると、夜の繁華街に姿を消していった。
彼女は黙ったままその封筒を広い、中身を見て持ち歩いていた学生バッグの中にしまった。
「あの、そ、その…邪魔してしまってすみません…」
彼女は黙ったまま琉騎亜を見つめていた。もしかしたら俺は、彼女の邪魔をしていたのではないか。不安になり再び焦り始め、うまく声を出せない。
「お兄さん誰?」
「えっ…お、俺の事覚えてない…ですか?」
「う〜ん…ごめんねぇ」
彼女は大きな瞳をさらに丸くさせ、困ったように苦笑いをした。俺は覚えられていなかったと落胆したが、ここで終わらせたくはなかった。
もしかしたら彼女は援助交際、相手を探しているのでは?
「あのっ!お、俺がお金を払います!俺が…!」
「あはは、お兄さんがパパになってくれるの〜?」
彼女はあの時と同じように、綺麗で輝かしい笑顔を琉騎亜に向けてくれた。
それから琉騎亜は、何度も彼女に金をつぎ込んだ。