叶side
Imprinting. (インプリンティング)という
言葉を知ってるだろうか
日本語で言うと《刷り込み》って意味らしいんだけど
例えば動物の赤ちゃんが生まれて初めて目にした存在を親だと思い込むように
それが本物であれ偽物であれ一度刻まれた愛着は半盲目的に追従する
生物の心理現象の一つ
どこでどうなってそんな心理学のお勉強みたいな記事を読んだのか忘れたけどスマホを眺めていて行き着いた先で
ふとこう思った
これって小さな子供相手じゃなくても効果あるのかな…って
「だから実験してみようと思ってね」
「なぁにいってんれすか?」
普段の凛とした雰囲気を1ミリも感じない恋人、剣持刀也のフワフワ寝起き姿を眺めながら僕は今から始める実験に内心楽しくなってきていた
「もちさん、おはよ〜」
「おはよぉ」
寝室から出て来たばかりの彼に笑いかけ朝の挨拶をする
もちさんは寝起きに機嫌が悪い事は一切ないけど、とにかく幼児か?ってほど言動がフワフワになってしまう
それこそ生まれたばかりの赤ちゃんのように
そう、やるなら今しかない
「もちさん、おはよ〜のハグしよ」
「……ハグ?」
「そ!はやく、はやく」
「ん〜…うん」
頭の回らないうちに急かしてハグを求めてみる
もちろん相手から来るよう僕は、その場を動かず手を広げるだけ
とてとてと子供のような歩き方で近付いてきたもちさんは、僕の前まで来たは良いものの先をどうしていいのかわからず少し困った顔で見上げてきた
「ふふ、かぁいいね〜もちさん♡」
「わっ」
ぎゅううと勢いよく抱きしめ恋人のぬくもりを堪能する
暖かさに触れて安心したのかもちさんの腕も僕の背に遠慮がちに回り抱き締め返してくれた
真面目な彼は、あまりスキンシップが得意ではないから
こういった無防備な姿で甘えるなんてなかなかにレアだ
こんなもちさんを毎日見れると思うと、幸せ過ぎるし…同時になんで早く思いつかなかったんだろうと後悔しかない
「ちゃんと起きれて偉いね〜よしよし」
「んふふ」
腕の中で満足気に微笑む、もちさんに
かわいい!と内心で叫びつつ彼のリスナーさん達に今更申し訳なさがこみ上げた
虚空教の教祖としても男性Vの先駆者としても君臨する彼は、存外チョロいのかもしれない
インプリンティング計画2ヶ月目。
ここまでくると寝起き以外のスキンシップにも抵抗がほぼ無くなり
後ろから抱き着こうが膝にのせようが、はにかみながら嬉しそうに応えてくれるまでになった
もちろん自宅のみだけど
「努力って報われるんだなぁ」
「何?ゲームの話?」
番組収録でスタジオに来ていた僕の隣で同じく一緒の番組に出ている相棒の葛葉が謎の呟きに反応して首を傾げた
努力するもの=ゲーム。の図式に、さすが僕の相棒と妙に関心してしまう
「ん〜、ちょっと最近ハマってる実験があってね」
「なんか叶が言うと不穏だな…」
『実験』というワードで片眉をピクリと上げた葛葉は、その先を突っ込んで聞くべきか悩んでいる様子
「なかなかに嬉しい結果が出てるんだよね〜」
「へ、へぇ〜?」
明後日の方向を向いて、この話は流してしまおうと決めたのか葛葉は曖昧な相槌で答えた
その反応に少しムッとして盛大に惚気けてやろうかと思った時
ワイワイと廊下から何人もの話し声がして賑やかになっている事に気付いた
「なんだろ」
扉を開けて廊下を覗くと
加賀美ハヤト
不破湊
剣持刀也
甲斐田晴
ろふまおだ!
楽しそうに話す彼らを見て社交的な方である僕は、すぐに混ざりたくなってしまう
あのメンバーなら葛葉も仲良いし
行っちゃえ
後ろの葛葉を手招きして一足先に皆のもとに向かった
「わ〜、ろふまおさんだ〜!」
「あれー?かなかなじゃん」
一番に反応してくれたのは、不破っち
続いて後の三人も、それぞれ挨拶してくれる
「叶さん達も収録ですか?」
「そうだよ皆も、お疲れ様」
毎度、癒やされる甲斐田の笑顔と声にこちらも労いの言葉を返していると後ろから葛葉が追いついてきた
「うぃーす」
「お、ちゃんと仕事してるじゃん葛葉」
「なんすか、もちさん?俺ほど誠実で真面目な吸血鬼ほかにいないっすよ?」
「ほー?引きこもりも卒業?」
「それは、ない」
さっそくある意味、似た者同士の二人がじゃれ始める
仲良いね君たち
くーちゃん悪いけどその子、僕のだからね?
「もちさん〜」
ちょっとしたイタズラ心というか
小さな嫉妬というか
ダメもとで両手を左右に広げて自宅でするみたいに恋人を待ってみる
「……。」
呼ばれて振り返ったものの微動だにしない彼を見て、さすがにねと手を降ろしかけた時
ぽすっ
「え」
「「「「!?」」」」
あの絶対媚びないマン剣持刀也が
人前で恋人に抱き着いていた
「えと、もちさん?」
望んだのは自分なんだけどさ
予想外の出来事すぎて心配になり様子を窺う
「っ…」
覗いた先に見えたのは、恋人の安心しきったような、でもどこか頬を染めて恍惚としたような表情だった
え、襲っていいかな?
「剣持さぁん!?」
「「「もちさん!?」」」
動揺が大きいのは、むしろ僕達以外みたいで振り向かずとも声を聞くだけで皆の戸惑いが伝わってくる
その大声量にハッと我に返ったもちさんが驚愕の顔でまず、僕を見て次に皆を見た
「あ…」
色々状況を把握してしまったもちさんは、みるみる顔が赤く染まったり青ざめたりを繰り返し
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
と叫びながら走り去ってしまった
「ど、どうしたんですかね剣持さんは…」
呆然としていた空気を破るように社長が発した言葉につられ皆それぞれ口を開く
「まぼろし…?」
「もちさんハグ好きなんかな」
「もちさんがバグった…」
上から甲斐田、不破っち、葛葉
三者三様の感想を聞きながら僕は自覚するほど顔が緩むのを感じていた
いや、だってこれ実験結果と言っていい反応じゃないか
「ふ、ふふふふ」
「え、怖っ…きも」
隣の葛葉になんと言われようと今は、この世の春と言わんばかりの気分だから許す
とりあえず大混乱中の彼を追いかけて大丈夫だって抱き締めてあげよう
落ち着いたらまた甘々に溶かして
あの目を見せてもらうんだ
僕だけを見つめる、あの愛しい目を
おわり
剣持のソロイベ見て思ったんですが叶くんが宗教の教祖とかしたらガチすぎて怖そうや…美しかったけど
コメント
13件
リクエストなんですけど、葛もちとかって出来ますか?
うん、いや、もう、ね、ほら、好き(唐突)
いろいろすごい!(///з///)♡