テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
─────俺達は今、絶体絶命の状況にある。
ユキナリは警察に追われていた。凶悪殺人犯として指名手配されている3人のうちの一人、新村コウとフリージャーナリストの小野寺リンカとともに。
ごく平凡な生活を送ってきた自分にとって指名手配される、ということはきっと最初で最後であろう、そうであってほしいと願うが、欲を言うならそもそも今の現実が夢であってほしい
見つからないようにと逃げ込んだ先が森の中だったのが運の尽きだろうか、今まではコウの作戦やリンカの提案、変装などもありなんとか逃げ延びてきたが、正直これは小細工で逃げ切れるものではない。木の影隠れてはいるものの、周りはパトカーに囲まれ、森には警察がぞろぞろと入ってきていた。。下手に出ていけば確実に捕まる、身動きすらも危ういだろう。
万事休すか、とすべてを諦めた瞬間 コウが口を開いた。
「バラバラに逃げよう…このままじゃ全員まとめて捕まる」
ごく小さな声で伝えられたそれは、最後の手段だったのだろう。1人でも逃げ伸びれば…という苦肉の策だった
「…っ、でも…!」
「…わかりました。俺が、囮になります」
リンカさんの声を遮って発したユキナリの言葉に、2人が固まるのがわかる
「3人バラバラに逃げるだけじゃきっとすぐに全員捕まります。俺が…俺が囮になって警察の目を引きつけます。その隙に…2人は」
「なっ、何言ってるの!?そんな、ユキナリ君を捨てて逃げるみたいなこと…!」
「…だが、たしかにその方が逃げ切る確率はあがる。本当に…本当にそれでいいのか、ユキナリ」
コウの目は真剣だ。だがそこに、迷いと戸惑いが隠れているのをユキナリは見逃さなかった
「…はい。できるだけ時間は稼ぎます。絶対に….
絶対に、2人は逃げ延びて。
───────…コウさん、信じてるから…。またね」
2人から少し離れたところ、大きな木の影。
わざと大きな音を立てて立ち上がる
「…!霜月ユキナリだ、捕まえろ!!」
全速力で警察の間を縫うように走り抜ける
「相手は凶悪犯だ!抵抗するようなら…」
森の中にひとつ、乾いた発砲音が響いた。
「ん…」
目が覚めると薄暗い室内だった。
「ああ、起きた?」
横たわるユキナリの顔をひょっこりと覗き込んでくるその人には見覚えがあった。
「あなた…あの時の…!?痛ッ…」
突然家に押しかけてきたと思ったら強引にユキナリを連れ出し、知らない場所に監禁したやたら童顔の警察だ。思わず体を起こそうとするが、足に力が入らない
「ああ、動かない方がいいよ〜。脚撃たれちゃってるから…♪」
「…」
「ふふ、そんなに警戒しないでよ〜♪」
なんとか上体を起こしたユキナリは、痛む足を引きずりながら距離をとる。
「そういえば名乗ってなかったね。神崎 ソウシロウっていうんだ〜、よろしくね♪」
ニコニコと話しかけてはいるが、当のユキナリはだんまりを決め込んでいるのでまるで独り言だ。
「キミを囮に逃げるなんて、新村コウも薄情だよね〜…♪ユキナリ君ったら可哀想に」
ユキナリの顔色が変わる。
コウが別れるまでずっと心配してくれたことをユキナリは知っている。迷って、悩んで、必死に他の案を考えようとしてくれていたことを知っている。言葉には出さなかったけれど、本当は囮なんてさせたくないと思っていたことを、知っている。
そんな彼を薄情と言うことにユキナリは少なからず苛立ちを感じた。
「…っ、うるさい…!」
「あれ、怒らせちゃった?まぁそうだよね〜♪だって君たち…
恋人なんだもんね…♪」
「な…んで、それ…」
狼ゲームの参加者にすらバレないようにと、本当にささやかで静かな、それでも確かなお付き合いを2人はしていた。
2人だけの部屋でただ過ごしたり、手を繋いだり、……キスをしたり。
怪しまれないためにもあまり長い時間は過ごせなかったが、それでもユキナリはコウを愛していた。
「ふふ、警察の情報網舐めない方がいいよ〜♪でもそっかぁ、恋人か〜…♪
自分のために捕まった囮(恋人)が酷いことされてたら…新村コウはどう思うかな〜…♪」
その顔は、狂気に溢れていた。
1歩、1歩と近づいてくるソウシロウから、なんとか逃げようと立ち上がる。
「…ッ、ぁッ…!!」
ズキリと痛む足からは血が滴っている。ふらつき、バランスを崩したユキナリは床にペしゃりと座り込み、ソウシロウを見つめカタカタと震える。
その姿はさながら小動物のようだ。ソウシロウはそれを楽しむかのようにゆっくりと近づいていく。
「…や…来るな…やだ…ッ、助けて…誰か…コウさん…っ」
狼に捕らわれた羊の瞳からは、絶望の涙が溢れた
続きません