コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
濃い目のココアが湯気をたてている。
「あ、ありがと」
カップを両手で持ち、ズズと音をたてて少しずつすする彼女の向かいに行人は座った。
ひとつしかない座布団は星歌が使っているので、フローリングにあぐらをかく格好だ。
思えばこの部屋にひとつしかないマグカップも星歌が使っており、彼は湯呑にココアを入れていた。
床が冷たいのか、裸足の足先がすこし縮こまっている。
「俺はいいと思うけど?」
「なにが?」
義弟の足を凝視していたことに気付かれてはマズイとばかりに、星歌は顔をあげた。
「いや、その……短いスカートの下にジャージのズボンっての」
「な、なにがいいの!? 義弟よ、お前の性癖なんて知らないよ!」
「性癖って……」
行人の笑い声を聞きながら星歌は自問していた。
なんだかホッとする。ホッペが熱い気がするのはナゼだろうと。
「そりゃ、ココア飲んでるからだよ」
「何が?」
「いやいや、こっちの話」
単純な回答を見付け、安堵したように彼女はウンウンと頷いてみせる。
「昔は可愛かったのになぁ、この子」
小学三年生のときに親同士の再婚で義弟になった行人への恨みが、ふと漏れる。
「……ごめんね、姉ちゃん。俺、聞いちゃった」
「なにが?」
義姉の視線を痛いと感じたのだろうか。行人が湯呑を座卓に置いた。
「……姉ちゃん、またフラれたんだって? ごめんな。俺が美人なばっかりに」
──チクショーーー!
か細い声で、星歌が吠える。
「自覚があるだけタチ悪いよー!」
「ごめんってば。けど、俺のせいじゃないし……」
「その言い草がすでに……すでに腹立つんだよ! かってに相手がホレてくるんだもの、アタクシのせいじゃなくてよって言ってる高慢ちきな令嬢みたいだよ!」
「い、意味が分からな……? 姉ちゃん、ラノベの読み過ぎだって」
「ラノベは私の生きる糧なんだよぅ……」
涙をポロポロこぼしながら、尚もココアをすする星歌。
「かくなるうえは、すべて聞いてもらうからな」
そう前置きすると、彼女は最悪な一日を語り始めた。