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「ゆぃをはじゅしてくれぇないきゃ。しゃべりにきゅきゅてぇたまりゃん」

(指を放してくれなきゃ、喋りにくくてたまらん)


なにを喋っているのかわからない現状を解いてあげるべく、ふたりは仕方なさそうな顔で、頬を突き刺した指を退ける。


「部長、さっさと言わないと――」


「わかってる。だが俺はあの女に脅された被害者だってことを、どうか覚えておいてくれ」


最初のときに聞いた、媚びるような声で告げたことに、呆れ果ててものが言えない。


「不倫した加害者のクセに、被害者アピールですか」


岡本さんは苛立った気持ちを言葉に込めたように、私の耳に届いた。


「確かに不倫したのは認める。でも俺は妻や華代が望んでいることをしたまでなんだ」


「私が望んだこと?」


斎藤さんは輝明さんに問いかけてから、私のほうを見て、わからないことを示すように、肩をひょいと竦めた。


「華代は俺と、ずっと一緒にいたいって言ってたじゃないか。それを叶えるために、結婚すればいいと考えて、俺は行動に移したんだぞ」


身勝手な言い分に、腹がたったのだろう。斎藤さんは、足元にある草と石を力強く踏み締めた。


「部長と一緒にいたいって言ったけど、結婚まで望んでなかった。家庭内別居していても、部長は既婚者だからっていうのが、頭の中に常にあったよ……」


言いながら怒りまかせに斎藤さんが地団駄を踏むと、ジャリジャリと石のぶつかる音が辺りに響く。


「だって結婚したら、一緒にいられる時間が増えるじゃないか」


「じゃあ聞くけど、奥様と一緒にいる時間と私と一緒にいる時間、どっちが長いのかな?」


「それは華代に決まってる。昼間は会社で一緒にいるし、夜だって自宅には寝に帰るだけだからな」


斎藤さんの怒りを沈めようとしたのか、輝明さんは変な笑みを唇に浮かべた。しかも本妻の私よりも、斎藤さんが大事だというのをあからさまにアピールしているセリフを聞いてるだけで、馬鹿らしくなっていく。


「ふふっ。津久野さん、そんなこと言っていいの?」


岡本さんの小馬鹿にした口調で、彼の笑みがピキっと引きつった。


「なにがだ?」


「スズメバチを用意している私たちが、これまでの会話を録音していないと言いきれる?」


「録音、だと?」


「奥様に聞かせたら、さぞお喜びになるでしょうね。夫に蔑ろにされる妻の私は、いったいなんだろうって」


ここでふたたび、輝明さんの顔色が悪くなった。


「卑怯だぞ! そうまでして、俺を貶めたいのか!」


「津久野さんのそのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ。ハナと付き合っていながら、支店にいる女子社員とも付き合い、奥様につらい不妊治療をさせているんだから」


「待ってくれ。支店の女に脅されて、無理やり付き合ってるだけだ。好きで不倫してるんじゃない!」


木に括りつけられている体を全力で揺すり、首を横に振りまくって言い訳を叫んでも、ここにいる者は誰も信じない。


「部長もしかして、脅されて付き合ってるから、不倫のカウントにいれないでくれって言ってるの?」


「そ、そうだ……」


(――この人、なにを言ってるの⁉ 本当に信じられない!)


「女子社員は、部長に襲われたって言ったのになあ。どっちが嘘をついてるんだろう?」


岡本さんが指先にハンドクリームをつけて、輝明さんの喉仏に強く押しつけた。


「くぅっ!」


音もなく岡本さんがそれをやってのけたので、相当驚いたのか、輝明さんは慌てて顎を引きながら木の幹に後頭部を押しつけて、彼女の指からなんとか逃れる。


「津久野さんが嘘をつきすぎて、どれが真実なのか、さっぱりわかりませんね」


「俺は嘘なんてついてない。さっきも言ったが俺がしているのは、相手が求めていることを実行してるだけ。それだけなんだ!」


輝明さんのセリフで、斎藤さんの体が怒りに震えた。目の前で繰り広げられる三人のリアクションがわかるように、榊原さんはいい感じにそれらを撮影していく。


「ちなみに私は、結婚という二文字をひとことも言ってないよ。ただ一緒にいたいと言っただけ。部長はそれを、勝手に湾曲しただけじゃない」


「華代だって喜んでいただろ。式場巡りしたときに、楽しそうにはしゃいでいたじゃないか」


過去のことを突きつけられた斎藤さんは、悲しげに顔を歪ませ、彼に背を向ける。そんな彼女を気遣い、岡本さんがとがり声で語りかけた。


「津久野さんは結婚適齢期の女性の目の前に、将来を夢見るような材料を並べ立てて、弄んだにすぎません。ハナはそれだけ、津久野さんに夢中だった。はしゃいでしまうのも当然でしょう。でもこのタイミングで奥様が妊娠したら、どうするつもりだったんですか?」


ところどころ圧の入ったセリフを告げた岡本さんに返答しにくかったのか、輝明さんは焦った様子を見せる。


「それは……」


「妊娠しないって、どこかでわかっているからでしょう? 不妊治療をするにあたり、夫婦で検査して結果を知っているから」


パンッ!


岡本さんは斎藤さんの怒りをプラスした平手打ちを、思い切りやってのけた。


「ちょっと絵里、叩いたりしたらダメだって言ったでしょ」


「グーパンしなかっただけマシ。このままこの人の話を聞いていたら、どうにもイライラしちゃってさ。怒りどころをどこかにぶつけないと、スズメバチを放ちそうだったんだ」


輝明さんはふたりの会話を、神妙な面持ちで聞き入る。いったい、なにを考えているのやら。


「部長は自分の精子の数がすっごく少なくて、しかも運動率も悪いせいで、妊娠させる能力が低いとあらかじめ知っていたから、奥様だけじゃなく私や支店の女子社員にも、中出ししていたんだよね?」


「そんなこと、どこで――」


「私さっき言ったでしょ、絵里が探偵事務所で調査してくれたって。奥様と不仲じゃないことも、わかってるんだから」


すべてを知っている斎藤さんの言葉に、輝明さんは諦めに似た表情を浮かべた。


「はっ、最近の探偵事務所は、なんでも調べ尽くせるのか……」


どこか不貞腐れる感じで言い放った輝明さんに、斎藤さんは質問を続ける。


「ちなみに奥様は子どもを望んでいたから、不妊治療をさせたの?」


「妻が家にずっとひとりでいるのが、つまらないんじゃないかと思ったのがきっかけだ。子どもでもいたら、暇をつぶせるだろ」


(子どもを育てることが暇つぶしって、この人の考えにはついていけない!)


「暇潰し……。愛情があるからじゃなく?」


「嫌いだったら、一緒に暮らしていないさ」


信じられないセリフに、岡本さんがイライラを滲ませたセリフを呟く。


「津久野さん、貴方いったい――」


「俺は器用な男だからさ。同じだけの愛情を同時に、複数の相手に与えることができる」


輝明さんはなぜか満面の笑みを浮かべながら、堂々と言い放った。


愛情なんて目に見えないものだというのに、本妻と愛人皆に平等に愛情を注いでいる宣言に、私だけじゃなく斎藤さんもショックを受けているのだろう。悲しそうな横顔がすべてを物語っていた。


「そんなこと、既婚者の貴方がやっていいわけないじゃない!」


「絵里落ち着いて。既婚者じゃなくても、そんな不誠実なことはダメだよ」


私と同じようにショックを受けているだろうに、岡本さんを落ち着けるセリフを即座に言えた斎藤さんは、輝明さんに向かい合い、噛みしめるように言葉を告げる。


「部長からの愛情は確かに与えられていたけど、向こう側が透けて見えるようなものを与えられ続けていたら、いつかは崩壊するのがオチなんですって」


「崩壊するだと?」


意味がわからなかったのか、輝明さんは首を傾げた。


「絵里の手で恋するフィルターを外されたおかげで、今まで見えないものが全部明らかになったら、部長の目的は、ただヤリたいだけだっていうのがわかっちゃいました」


「そんなこと――」


輝明さんは傾げていた首を激しく横に振り、全力で拒否ったけれど、今まで告げたセリフがすべてを物語っていた。


「そんなことあるでしょ! しかも仕事中は、めんどくさい案件をうまいこと言って部下に押しつけて、ご自分は楽な仕事ばかり選んでる」


一緒に仕事をしている彼女が突きつけた現実が、輝明さんの言葉を見事に奪った。


「…………」


「最初のうちは、そのことに見抜けなかった。テキパキ仕事を捌いて部下に分担して、手際よく仕事をこなしてるふうに見えた。それをカッコイイなって思ってたのに。すごく憧れたのに……」


斎藤さんは俯いて、足元にある硬い石を踏みしめる。


「ハナ、一旦クールダウンしよう。私も相当、頭にきちゃった。冷静にならなきゃ」


「そうだね。それにあそこ見て、絵里」


「ん? キツネ? オオカミ?」


そのセリフで隣にいた榊原さんは静かに移動し、私がビデオカメラの前に立つ。ホワイトボードに『榊原さんの移動が完了するまで会話の引き延ばし』と走り書きして、彼女たちに見せた。


それを目にしたふたりは、無言でピースマークを出す。


「お腹をすかせた野犬だよ。私たちの様子を、遠くから眺めてるみたい。木に磔にされたエサが食べられるかどうか、見守っているのかもね」


斎藤さんは気を利かせて、いつもよりゆっくりな口調で、岡本さんに語りかけた。そのスローテンポな会話が相まって、輝明さんの恐怖心を煽ることにつながっているに違いない。


「まっ待ってくれ。俺を犬のエサになんて、考えていないだろう?」


スズメバチの恐怖から野犬に襲われるという恐怖の変化に、輝明さんは今まで以上に慌てふためいた。


「そんなの野犬次第です。絵里、車に戻ってお茶でもしよう!」


榊原さんが予定の位置にセットできたので、斎藤さんは頷きながらこちらに戻るセリフを告げた。


「華代、俺が悪かった! 妻と離婚して絶対に結婚するから、見捨てないでくれ! お願いだ‼」


絶叫を無視してコチラに戻って来たふたりは、相当疲れたのか来るなりしゃがみ込み、うなだれるように俯く。もう一枚のホワイトボードに『お疲れ様、榊原さんの演技に注目しながら休んで』と書き、ふたりに見せた。


それを見た岡本さんは、斎藤さんをいたわるように背中を擦って頷き、目の前を見るように促す。


「嘘だろ……こんなの、なんで俺が。俺はなにも悪くない。俺を好きだとアピールしてくるのは、いつも女のほうからなのに。俺はそれに応えていただけ」


唇を戦慄かせた輝明さんの足元に、四つ足で近づく榊原さんの姿が目に留まる。ポケットに入れてるスマホから、いい感じに犬の唸り声が聞こえてきて、臨場感がたっぷりだった。


唸り声が聞こえてから輝明さんは無謀にも、上半身を中心に体を激しく揺さぶる。


「くそっ、こんなところで死んでたまるか!」


四人がかりで縛りあげた鎖は、まったく緩む気配を見せないおかげで、輝明さんの焦りになった。その様子を榊原さんは見上げながら、彼の足元を回りはじめる。


「帰れ帰れ、おまえなんかに食われてたま」


「ワンッ!」


「ヒッ!」


ナイスなタイミングでの鳴き声に、私たち三人は声をあげて笑いそうになった。


「ワンワンッ、ワンッ!」


「こっちに来るな! あっちに行けって!」


輝明さんの周りをゆっくり歩行している間に、今にも飛びかかりそうな唸り声が流れる。あまりにいい感じな犬の鳴き声に、拍手を送りたくなった。


榊原さんが木の周りを三周してから戻るように、事前に彼と打ち合わせしていた(本人は五周くらい回って、これでもかと恐れさせたいと言っていたのだけれど、時間がかかりすぎるのも、無駄に間延びすると意見して却下した)


ホワイトボードの文字を消して『あと一周でチェンジ』と書き記した。斎藤さんが先に立ち上がり、岡本さんに手を差し伸べる。ふたりが次の準備をしている間に、二枚のホワイトボードの文字を消した。


「ほ~ら、おまえの獲物は私たちのモノなんだよ~。さっさと寝床にお帰り!」


これまでの緊張感をかき消す斎藤さんの声を聞いた輝明さんは、どこかほっとしたような表情を見せた。


「部長よかったですね。野犬に食べられなくて」


榊原さんと入れ替わった斎藤さんが彼に近づき、楽しげに喋りながら輝明さんの頭を撫でる。その反対側に岡本さんが控え、嘘の情報を囁く。


「さっきの野犬、たくさんのヨダレを垂らして、津久野さんの周りをぐるぐる歩いてましたよ。きっとどこから食べたらいいのか、迷っていたのかもしれませんね」


「私の目には、熊に捕られないように守っている感じにも見えたけどね」


「くっ熊だと⁉」


衝撃的な事実に驚いたのだろう。見るからに顔色が青ざめる。


「山ですもん、熊くらいいますよ。でも今は夏だから、山の幸があふれているし、滅多にここまで下りてこないだろうなぁ」


「秋だったらよかったのに。そしたら津久野さんは、熊のエサになっていただろうねぇ」


彼女たちの間に挟まれた輝明さんは、自分の両側にいるふたりに文句を言うためか、首を左右に振りながら大きな声をあげる。


「俺に対する復讐のために、わざわざこんな山奥に連れ込んで、こんな手の込んだことをしでかしたんだろ? もうやめてくれ、これ以上俺を疲弊させたところで、なにも変わらない。俺はめげない男なんだ!」


信じられないセリフに、斎藤さんと岡本さんはきょとんとしてから、意味深に笑い合った。


「そうだね。ここでの復讐は終わりにしてあげる。移動しようか、部長」


岡本さんが輝明さんの頭を掴み、強引に上向かせて、睡眠薬入りのお茶を強引に飲ませた。


「ふぎゅっ!」


「津久野さん、安心してください。ただの睡眠導入剤です」


岡本さんが律儀に薬入りを口走ったことで、輝明さんは吐き捨てる感じに口を開く。


「また俺を眠らせるつもりか。ここで俺のメンタルをズタボロにされたせいで、抵抗する気力もないというのに」


「女ふたりで、貴方を移動させるんです。静かに眠っててほしいじゃないですか」


「絵里、帰り支度する前に」


「わかってる。すべては手筈どおりだよ、バッチリ!」


そしてふたりは、私にピースマークを作ってみせた。彼女たちに文句を言った彼は、泥酔者のように所在なさげに首を動かし、やがて寝落ちた。


ビデオカメラを停止し、三脚から外したりホワイトボードを片付けてる間に、榊原さんが津久野さんの鎖を外しにかかった。


あらかた片づけが終わってから、三人の傍に駆け寄る。


「なにが『めげない男』よ。この人の妻なのが、ものすごく恥ずかしい……」


思わず呟いて、頭を抱えながらしゃがみ込む。本当は手伝わなければいけないのに、本妻+愛人をふたりも作った性欲モンスターを夫に持ってしまったことは、恥以外のなにものでもない。


「ハナ、忘れ物がないようにチェックお願い!」


「はーい。榊原くん、野犬の実演ありがとね。部長ってば、完全に犬だと思って、めちゃくちゃ怯えてたよ」


「見えない分だけ耳に音が入って、嫌でも想像力が働きますから。あ、絵里さん、そのまま鎖を持っててください。俺がいいと言ったら手放してほしいです」


「わかった。いつでもOKだよ」


斎藤さんを中心によく働いてくれた皆に、ねぎらいの言葉を告げたいのに、ここでやり切ったという安堵感が、私を動けなくした。


「よし、荷物を全部片付けた。絵里、奥様を促して」


岡本さんは私の肩を抱き寄せて、ゆっくり立ち上がらせる。


「奥様、ここで立ち止まったままじゃダメです。新事実を含めて、いろいろありましたけど、めげない男をとことん追い詰めるのは、これからですよ!」


私に気合を入れるべく、肩を叩いてくれた彼女に、笑顔を見せた。


「第一ミッションからこんなことになるとは、思いもしなかったわ。岡本さんの言うとおり、これから夫をやっつけなきゃいけないわね。気合を入れ直さなければ……」


駐車している車に向かって先を歩く斎藤さんと、夫を背負った榊原さんのあとを、岡本さんに支えられながら並んで山道を下った。


「その意気です。私もお手伝いします」


「私自身も複雑だけれど、彼女……斎藤さんは大丈夫かしら」


私はただ見守っていただけ――それに比べて、斎藤さんは夫と直接やり合っているせいで、私以上に疲弊しているかもしれない。


「ハナのことを気遣ってくださり、ありがとうございます」


小さく頭を下げた岡本さんに、首を横に振った。お礼を言わなければならないのは、私のほうだというのに、本当に律儀な人だと思う。


「あんな人だけど、それでも好きになった相手の実態を間近で見て、ショックを受けない人はいないんじゃないかと思って。しかも私の代わりに、進んでこんなことまでしてくれて、かなり心労がたたっているんじゃないかしら」


斎藤さんの心情を考えつつ、目の前を歩く細身の背中を眺める。


「津久野さんの本性がわかってから、落ちるところまで落ちて入院して、きっちり気持ちを入れ替えたハナだから、きっと大丈夫です」


「岡本さんの友情が、斎藤さんを支えているみたい」


「そうだといいんですけど。あ、そこ、足元に気をつけてください」


指摘したところには、土の上から木の根が出ていて、引っかかりそうな感じだった。弱った私に岡本さんはそっと手を差し伸べて、躓かないように歩かせてくれる。


「何からなにまで、本当にありがとう。ミッションが成功するように、私も頑張るわ」


握っている岡本さんの手をぎゅっと掴み、気合いが入ったことを示した。


その後、皆で車に乗りこみ、榊原さんが運転してる間に私は動画を圧縮して、支店の愛人のスマホに転送した。


ちなみに私の両親と輝明さんの両親は、早朝だというのにリアルタイムで中継を見ていたので、私以上に頭を抱えている頃だと思われる。


(――そのことを思うと、つらくて無性に胸が痛んでしまうわね)


何の気なしに振り返ると、疲れ切った斎藤さんと岡本さんが、真ん中の座席で肩を寄せあって眠りに落ちていて、耳栓を施された輝明さんが最後尾の座席で静かに横たわっていた。


「奥様も、少しお休みになったらどうです?」


ハンドルを握りしめた榊原さんが、優しく気遣ってくれる。


「そうしたいんだけど、これからのことを思うと、なかなか寝付けそうにないの」


「確かに。総仕上げしたあとは、バタバタしますしね」


「榊原さんの立場を知りながら、無茶なお願いばかりして、本当にごめんなさい」


本来なら探偵事務所勤めの彼が、首を突っ込んでいい案件じゃない。今更感が否めなかったけれど、きちんと謝った。


「俺ね、ぶっちゃけると、胸がスカッとしたんです」


「どうして?」


制裁場面の撮影と、犬の真似をしてもらっただけだったので、疑問が湧いてしまった。


「これまで、いろんな不倫を調査しました。その結果を依頼者の方に伝える際に、俺もその場にいて、調査報告をしたこともありました。それを聞いて、泣き崩れる奥様をたくさん見てきたんです」


榊原さんのつらそうな横顔を、複雑な心境で見つめた。

目には目を裏切りには復讐を

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