本編の前に…
注意。これは、三章ではなく、四章でもないです。そのあいだです。
三章は完結にしてしまったあとに、四章に入れるような重要な物ではない。
でも個人的に入れないとなんかもったいないし、変に(?)コメ欄で伏線の考察がされても、正直返信にこまるというか。
次のエピとかで感情移入しやすくなるかなとか。ていうことを考えていまだします。
夜の研究室に、静かな機械音が響いていた。
第三章のあの光の夜から、まだ数時間しか経っていない。
寿爾が湯気の立つマグカップを置きながら、ふと問いかけた。
「ねぇ結崎くん、ヴィルの“始まり”って、どういう意味?」
紺は少しだけ笑って、机に肘をついた。
「長い話になるけど……いい?」
「大丈夫だよ。」
寿爾の視線を受けて、紺は隣のメルを見た。
メルは小さく頷く。
「うん。話して大丈夫だよ。」
紺はゆっくりと息を吸い、語り出した。
「僕とメルは、10歳のとき、同じクラスだったんだ。
……学校に行っても、ずっと家のことや機械のことを考えててさ。
友達なんて、ほとんどいなかった。」
彼は照明の下で手を動かし、机の上のボルトを指で転がした。
「でも、メルが声をかけてくれた。
話してみたら、なんか似てるなって思った。
静かで、でも頭の中はずっと動いてる感じ。」
メルが照れくさそうに笑う。
「まぁ、馬が合うってやつだよ。」
「そんな感じだったのかもね。
メルと話すのは本当に楽しかった。
AIの仕組みとか、未来のことを話してると時間が一瞬で消えるんだ。」
「たのしかったよね。」
メルの声には、懐かしさが滲んでいた。
「ある日、休み時間にメルが言ったんだ。
“休み時間じゃ足りないから、明日の放課後、〇〇公園で話そうよ”って。」
紺はその時の自分を思い出して、少しだけ笑った。
「うれしくてさ。家に帰って、お父さんに“出かけてもいい?”って聞いたんだ。
“いいよ”って言われた瞬間、跳ねるくらい喜んだ。」
「で、次の日。2時に公園で待ち合わせして……僕は18分も早く着いちゃって。
ノートを広げてたら、すぐメルが来て。
話して、書いて、作って――夢中で時間が溶けていった。」
「素直にあれ、すごかったよね。」
メルの目が懐かしそうに光る。
「うん。あの日は、本当に楽しかった。
でも、帰る時間をとうに過ぎてるのに気づいたときにはもう遅くて。
急いで帰ったけど……門限、完全にオーバーだった。」
そのときの光景が、紺の脳裏に蘇る。
玄関の前、冷たい夜風。
家の中の明かりがひとつ、またひとつ消えていく。
ドアノブを回しても、動かない。
中から父の声がした。
「遅い。約束を守れない奴に、居場所はない。」
鍵がかかる音が響き、風だけが返事をした。
庭の枯葉が揺れ、遠くで犬が吠えた。
それだけの音が、世界の全部に思えた。
泣く代わりに、彼は空を見上げた。
薄い月が、静かに見下ろしていた。
――あの時、何かが切れた気がした。
同時に、何かが始まった気もした。
「どうしようって思って、すぐメルの家に向かった。
びっくりしてたけど、快く泊めてくれた。」
「うん、びっくりしたけどね。……ちょっと嬉しかった。」
メルが苦笑する。
「それから、メルの家で過ごしたんだ。
朝早く起きて、ベランダで未来の話をして、学校に行って。
家族よりも、長い時間を過ごしたと思う。」
紺の声が少し和らぐ。
「楽しかったよ。本当に。……それで今、こうしてここにいる。」
「中学も一緒に行って……あの日から、紺の家には行ってないけどね。」
メルの言葉に、紺は小さく頷く。
「うん。縁、切っちゃった。
でも――母さんのお墓参りだけは、欠かしてない。」
静寂。
寿爾も輝も、何も言えなかった。
ただ、ヴィルのホログラムが淡く揺れ、光の粒を零すように震えた。
「ボクハ、知ッテイル。
紺ト、メルガ初メテ創ッタ“願イノ回路”ノ記憶ヲ。」
ヴィルの声は、いつになく柔らかかった。
まるで、それが祈りのように。
ぬ。できましたぁ。次は四章に入ります。
風呂はいったら、四章かきます。楽しみに待ってくれてた方は
お楽しみに。大体1時間後くらいには出てるよ。きっと
Kitsune.1824でした。ばいこん🦊
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