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鷹槻れん

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#極道
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月詠 涼
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めいちゃんの家、放火! ♡♡♡れなくて本当よかった!
うわあああ第26話、重すぎる…!😭✨ 沙奈さんの妊娠から栄一郎さんの死、そして芽生ちゃんの出生の真実まで一気に繋がってマジで鳥肌立った…。細波親子の暗躍、まさか放火まで仕掛けてたなんて怖すぎるし、京ちゃんが守ってくれて本当に良かった😢💕 奈央子さんの手紙のたどたどしい筆跡に込められた20年以上の想いにも泣けた…。この伏線回収エグすぎます鷹槻れん先生!!次の話が待ちきれないよ〜!!🌸
『田畑家を追われたあとに分かったのですが、沙奈は妊娠していました』
かつて乳母として一人息子・栄一郎の傍にいた中村奈央子から、そんな手紙が栄蔵の自宅へ届いたという。
秘書が病院へ持ってきてくれた自宅宛の郵便物のなかに、質素な白い封筒が混ざっていて、裏面の送り主の名を見た瞬間、栄蔵の手は震えた。
おぼつかない手をなんとか制御して開封してみれば、たった一文、それだけがヨロヨロと揺れたたどたどしい筆跡で書かれていた。
栄蔵の知る奈央子は、もっと美しい字を書く女性だったはずだ。長い年月の間に、奈央子とその娘に、一体なにがあったというのだろう?
わざわざ栄蔵宛にそんな信書を送ってきた以上、沙奈の妊娠が息子の栄一郎と無関係なはずがない。
それは栄蔵にとって、たった一人の息子がこの世に遺した、唯一無二の忘れ形見へ繋がる糸に思えた。
(子供はどうなったんだ?)
そのことについては一切触れられていない手紙にヤキモキしつつ、すぐにでも自分自身が動きたかった栄蔵だ。だが、大病を患っているという嘘の手前、自分では身動きが取れなかったから苦肉の策。腹心の者を自分の代わりに送り先住所へ遣ったのだが、果たしてそこは特別養護老人ホームだった。
もしも痴呆などが出ていてまともに話せる状態でなかったらどうしよう? と思いながら、秘書が中村奈央子を訪ねれば、身体こそ不自由になってはいたけれど、幸い頭の方はしっかりしていた。
奈央子が言うには、沙奈の妊娠が分かってすぐ、栄一郎にはそのことを知らせたのだという。
元々生理不純で、便秘気味だった沙奈は、受胎に気付いたときにはすでに十七週目(五ヶ月)を過ぎていた。スカートのウエストがきつくなったのも、体重が少し増えたのも、全て便秘のせいだと思っていたため、気付くのが遅れたらしい。
身に余るほどの手切れ金とともに、もう二度と息子と連絡を取ってはいけないと、携帯の中の栄一郎に関するデータを全て消去させられていた中村母娘だ。恐らく栄一郎の方も同様だったんだろう。田畑家を追い出されて一カ月余り。あんなに沙奈に愛を囁いてくれた栄一郎からの連絡はプツリと途絶えていた。
沙奈は普段から手帳に連絡先を書く習慣があったから、実は栄一郎への連絡手段を一切合切奪われてしまっていたわけではないけれど、自分が栄一郎に連絡を入れることで彼はもちろん、母親にも迷惑を掛けてしまうことを懸念して、グッと我慢をしていた。
だが、栄一郎の子を腹に宿しているとあっては話は別だ。沙奈には愛しい栄一郎との子を堕ろすという選択肢はなかったし、かといって自分を女手一つで育ててくれた母親の苦労を間近で見てきたから、同じことを自分が出来るという自信も持てなかった。もっといえば、沙奈自身父親がいなかったことを寂しく思わなかったわけじゃない。
沙奈が悩んだ末に送った「赤ちゃんができたみたい」という報せに、栄一郎はすぐさま会いに来てくれて、沙奈が自分の子を懐妊していることをとても喜んでくれた。栄蔵にもちゃんと話し、何がなんでも結婚を承諾させるから、と約束もしてくれたのだ。
栄一郎との束の間の再会のあと、沙奈が嬉しそうにお腹を撫でさすりながら語ってくれたのだと、奈央子は淡く微笑んだ。
栄一郎は、沙奈に『身内の中に沙奈とのことを応援してくれる遠縁の親戚がいるから、その人にも後押ししてもらうよ』と言っていたらしい。
「その人から『沙奈ちゃんの居場所を見つけてあげるから、再会できたら彼女との駆け落ちも考えてみたら?』と示唆されていたんだ、と語ってくれた栄一郎さんはお相手のことをとても信頼しているように見えたの」
そう話す沙奈は、とても幸せそうだった。
そんな娘を見て、「田畑家のお身内の方にも二人の味方がいてよかったね」と話したのを、奈央子はつい先日のことのように思い出せると涙ぐむ。
ただ、栄一郎が言っていた遠縁の者が男性なのか女性なのか。年齢はいくつぐらいの人なのか。沙奈も栄一郎から聞かされていなかったらしく、奈央子にもどんな相手なのかまでは分からず終いだった。
「それからすぐのことでした。栄一郎さんが亡くなられたとニュースで見たのは」
さかえグループ本社がある地元より、奈央子と沙奈が住む町はさかえグループに関する情報が入りづらい。
それでも全国ニュースの端っこの方で紹介される程度には全国的に影響のある会社での一大事だったのだ。
沙奈はそのニュースを見るなり、「彼は殺されたに違いない」と泣き叫んで、半狂乱になってしまったのだという。
「お腹の子に障るから、と言っても駄目でした」
壊れていく娘の腹の中で、中絶の時期を逸してどんどん育っていく胎児。
そんな折だったのだという。
奈央子自身が交通事故に遭い、身体を不自由にしてしまったのは――。
娘と二人で暮らしていくには十分すぎるほどの多額のお金を渡されて田畑家を追われていたから、奈央子が働けなくなったからと言って今すぐ困ることはなかった。
だが、居眠り運転のトラックに撥ねられて、意識不明のまま一カ月近くを過ごしたのち、辛うじて目覚めたものの右半身に障害が遺ってしまった自分では、精神薄弱状態の娘とその腹の子を見ることまでは不可能に思えた。
長い入院生活の中、家に残してきた沙奈のことが気になって堪らなかったけれど、栄一郎が他界してしまった現状では、頼れる人間のあてがない。
相手がある事故だったため、そちらからの保険金も入り、栄蔵から渡された金も含めて金銭的な面にこそ困らなかったのだが、娘と腹の子のことを、誰に頼めばいいのか分からない。
沙奈自身も母親の奈央子が事故に遭い、入院していることを知っているのかいないのか。何の音沙汰もなくて……こちらから電話を掛けてみても一切通じなかった。
そのうち電話自体の電源が切れたのか、無情なアナウンスが流れるようになってしまう。
一刻の猶予もないと追い詰められた奈央子は、怪我が治り切っていないのに病院を抜け出すと、沙奈と暮らしていた家を目指した。
だが、久々に帰った家はもぬけの殻で、沙奈はどんなに探しても見つけることが出来なかった。
***
「それで……沙奈さんは」
話しの流れから、恐らくそれが自分の母の名だと薄々分かっていた芽生だったけれど、実感が湧かないので〝お母さん〟と呼ぶことは出来なかった。
芽生の言葉に栄蔵が吐息を落としたのを見て、良くない話なのだと悟った芽生は、グッと拳を握り込む。
そんな芽生の傍らにいつの間にか京介がいて、我知らず白くなるほど握りしめていた芽生の手をそっと包み込んでくれる。京介の温かくて大きな手の感触に、芽生はふっと肩の力を抜いた。
***
「沙奈さんは……栄一郎と同じ川で」
栄一郎が亡くなったのは奈央子と沙奈が住んでいた、県外の小規模な工業都市を流れる川のダム湖の近くで、いま芽生たちが住んでいる自治体からは車で二時間以上掛かる場所だった。
栄一郎はダム湖に程近いところで、沙奈はそこよりは幾分下流の渓谷で、変わり果てた姿で発見されたらしい。
司法解剖の結果、身体のどこにも争った様子が見られず、精神薄弱状態だったこともあり、事故と断定された。
奈央子は、沙奈が車の運転免許を持っていなかったことを主張してあんな山奥まで自力で行けるはずがないと主張したのだが、そこは謎のまま処理されてしまった。タクシーが呼ばれた証拠もなかったのに、だ。
沙奈には出産した痕跡が見られたのだが、産まれたはずの子供の姿がどこにもないことも問題だった。
沙奈が妊婦健診に通っていた産婦人科や、別の産院。果ては産院に絞らず近隣の様々な病院をしらみつぶしに当たってみたけれど、沙奈が子供を産んだ形跡はひとつも見つからなかった。
恐らくどこかで秘密裏に産んだんだろうと結論付けられたのだが、では産んだはずの赤子はどこへ行ったというのだろう?
生まれたての新生児が一人で動けるはずもないのに、懸命の捜索にもかかわらず沙奈が産み落とした赤ん坊の行方は杳として知れず終いだった。
『私が入院している間に、娘に近付いた人間がいるはずなんです』
でないと、赤子が忽然と姿を消してしまったことも、沙奈が山中で発見されたことも説明がつかない。沙奈が亡くなってから二十年以上、ずっと孫の行方を探し続けてきた奈央子の言葉には妙な説得力があった。
そんな折だったのだ。
自分の跡目から外そうと思っていた細波鳴矢が、想定通り。『栄一郎さんのお子さんを見つけたかも知れません』と言ってきたのは――。
本来ならば、今日は京介の代わりに鳴矢が孫娘を伴侶としてここへ連れて来ることになっていた。その時に芽生との馴れ初めついでに、何故長いこと行方不明だった沙奈の娘を見つけることが出来たのかも説明させることになっていた。
だが、突然鳴矢からの連絡がプツリと途絶え、彼の母親の鳴海とも音信不通になってしまった。
そうこうしているうちに、相良京介と名乗る男から、『あんたの孫娘、連れて行くから』と一方的な連絡が入ったのだ。
故あって、相良京介という男が極道者だと知っていた栄蔵は当然警戒したのだが、メールで送りつけられてきたDNA鑑定書類と、息子の面影を感じさせる芽生の写真を見て、会おうという気になった。
「相良さん、あの鑑定書は」
「細波鳴海が持ってたもんの写しだ。原本は今、うちの組の者が持ってる」
「何故鳴海さんがキミの所へいるのか聞いても?」
「そりゃあ、うちの事務所と管理下の店に火ぃ付けたからだ」
京介があっけらかんと告げた言葉に、芽生は思わず「えっ」とつぶやかずにはいられない。
「ねぇ京ちゃん、それって……」
「放火だ」
今日、京介が慌ただしく家を空けたのはそのせいだったのだと知って、芽生は愕然とする。
「皆さんは……」
「無事だ」
その言葉に芽生がホッとしたのを確認して、京介が黙して芽生とのやり取りを聞いていた栄蔵へ視線を移した。
「実はあんたの可愛い孫もちぃーと前に家へ火ぃ付けられてな。危うく焼き殺されるところだった」
芽生も細波から聞いてあれは放火だったと知っていたけれど、京介がそのことを承知しているのに驚いて瞳を見開いた。芽生からはまだ話していなかったからだ。
それに、焼き殺されそうになっただなんて、大袈裟じゃないだろうか。
「もしやそれも……」
「ああ、鳴海の仕業だ」
「何故鳴海はそんなことを――」
そこでハッとしたように芽生を見つめると、栄蔵が恐る恐る口を開く。
「神田さん、キミ、やはり鳴矢とは……」
鳴矢の話では、芽生は彼の妻として紹介される予定だった。だが、恐らく。
「しつこく付き纏われてました。今日も……」
そこで言い淀んだ芽生の言葉を京介が継ぐ。
「飼い猫を人質に取られて、無理矢理婚姻届を書かされた」
「それは」
「京ちゃん達が助けてくれなかったら私、今頃……」
そこまで言って恐怖を思い出したみたいに涙目になる芽生を見て、栄蔵がグッと押し黙る。
ややして、栄蔵から「怪我はさせられなかったかい?」と労るように問いかけられた芽生は、懸命に頷いた。
恐らく芽生が息子――鳴矢に靡かなかったから、芽生を亡き者にしようとしたんだろうと京介が続けて、芽生は予想外の言葉に瞳を見開いた。
何らかの理由で芽生が栄蔵の孫だと知った細波母子は、栄蔵が孫の存在へ気付く前に、なんとか芽生を鳴矢の嫁として取り込み、病に伏して余命幾許もない栄蔵の遺産を相続しようと目論んだんだろう。
執拗なまでの鳴矢から芽生へのアプローチは、きっとそういうことだったのだ。
だが、芽生が一向に鳴矢に落ちそうにないばかりか、他の男に懸想していると豪語して憚らない。そう息子から聞かされた鳴海が、息子の意思とは関係なく『邪魔な跡取りなんていっそ殺してしまえ』と短慮を起こした末の放火だと考えれば……。
確かあの日、芽生は家の中の照明をつけたまま外出していて、火事場に姿を見せた時、立ち入り禁止テープ前――最前列にいた細波から無事を驚かれ、「良かった」と安堵された。
『出火当時、家に電気が付いたままだったって聞いたから僕はてっきり……』
あの言葉は、『母の放火で焼け死んだのかと思って』と続いていたのでは?
芽生の家が焼け落ちたあの日、細波鳴矢から微かに灯油のにおいがしたのは、放火犯の母親を逃がした際の移り香だったのかも知れない。