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「おはよー…」
「おはよ。」
「あれ?涼ちゃんはー?」
「おれも今起きたとこだけど、まだ起きてないっぽい。」
「うぇー!珍しい。」
いよいよ期末試験を明日に控えた今日。
昨日も夜遅くまで勉強してたぼくは、眠い目を擦りながらふらふらとリビングに向かった。
するとそこには、同じく眠そうにしてリビングの真ん中に、 ボーっと立っている若井が居た。
いつも1番先に起きてきている涼ちゃんが居なくて、珍しい事もあるもんだと思っていると、ガチャッと背後にあるリビングの扉のが開く音がした。
「…お〜はよ〜。」
後ろを振り向くと、目の下には、はっきりと隈が出来ていて、一晩で一気にやつれたように見える涼ちゃんがリビングに入ってくるところだった。
「うわっ、涼ちゃん大丈夫?!」
涼ちゃんの変わりように、思わず声をあげたぼくに、涼ちゃんは力なくうっすらと笑顔を見せた。
「この時期は大体こんな感じだから…大丈夫。」
既にレポートの提出期日ラッシュの渦中に居る涼ちゃんは弱弱しくそう呟いて、ふらりとキッチンに向かっていった。
「ごめん…今日の朝ご飯、卵かけご飯でいい?」
途中で、申し訳なさそうに振り返る涼ちゃん。
「全然いいよ!てか、今日はぼく達が準備するよっ。」
「そうだよっ。涼ちゃんは座ってな。」
そんな涼ちゃんに、ぼくと若井は慌てて涼ちゃんを椅子に座らせると、そのまま二人でキッチンに立った。
元々、朝ご飯は食べない派だったぼく。
でも、毎朝涼ちゃんが朝ご飯を用意してくれるものだから、すっかり食べる派に強制されてしまったぼくは、進んで人数分のレトルトのご飯を電子レンジに入れていく。
一方、若井はレトルトの味噌汁にケトルで沸かしたお湯を入れて、人数分の卵を冷蔵庫から取り出していた。
「おまたせー。」
「わぁーっ、ありがとぉ。」
ぼく達は、ほかほかの朝ご飯をダイニングテーブルに持っていくと、眠そうな顔をした涼ちゃんがふにゃっと嬉しそうに笑った。
・・・
「…いってらっしゃ〜い。」
「「いってきまー す。」」
「涼ちゃん、大変そうだったね。」
「ね。ゾンビみたいになってた。」
「ひどっ。そう言う元貴はレポート大丈夫なの?最近、やってるのみないけど。」
「大丈夫!後は仕上げだけだし、あと2日もあれば余裕でしょっ。」
「え、レポートの提出期限明日だよ?」
「はっ、え…まじ?!」
若井との何気ない会話の中で、ぼくはレポートの提出期限を完全に勘違いしていた事に気付き、 涼ちゃんを心配している余裕なんてない現実に絶望しながら、大学へ向かう事となった。
・・・
あっという間に一日が過ぎ、ぼくと若井は急いで図書室に向かった。
…まあ、急いでいるのはレポートが終わっていないぼくだけなんだけど。
いつものように、青い髪を目印に涼ちゃんを探す。
けれど今日の涼ちゃんは、その綺麗な青色さえくすんで見えるほど、全身からお疲れオーラを醸し出していた。
ぼくは思わず早足になって、彼の前の空いた席に滑り込む。
そして、リュックからPCを取り出しながら、なんとか間に合わせようと必死にキーボードを叩いていった。
外はすっかり暗くなり、図書室には閉館を告げる館内放送が流れ始めた。
隣では、明日に備えて黙々と試験勉強に励んでいた若井が、ようやくひと段落着いたと言うように、大きく伸びをした。
ぼくはと言うと、そんな放送なんて聞こえないふりをして、周りが片付けはじめている中、ひとりだけPCにかじりついていた。
「元貴、帰るよ。」
周りが一人、また一人と帰っていく中、若井のその一言で、ぼくもようやく現実に引き戻されるようにして、重たい腰を上げた。
涼ちゃんの方をちらりと見ると、そっちは無事に終わったらしく、 どこかやり遂げたような顔で、ゆっくりとPCの電源を落としていた。
・・・
家に帰ってからも、ぼくは夕飯もそこそこに、ソファーを背もたれにして、リビングのテーブルにPCを開き、急ピッチで作業をはじめた。
すぐに終わると思っていた最後の工程である修正だが、思っていた以上に時間が掛かり、中々終わらない作業にぼくは半泣きになっていた。
ずっとPCと睨めっこをしている為、目がシパシパしてくる。
コンタクトレンズから眼鏡に変え、目を休ませる為に PCから目を離して天井を仰ぐと、 夕飯を食べ終えた若井が上から覗き込んできた。
「どう?終わりそ?」
「えーーん。全然終わる気がしないっ。」
泣き真似をしながら若井に手を伸ばすぼく。
そんな、 切羽詰まったぼくの姿を見た若井は、苦笑しながら、ぼくを足の間に挟むようにして腰掛けると、ポンポンと頭を撫でてきた。
「手伝おっか?」
「まじ?!若井大好き!」
本当は試験勉強をしたいだろうに、手伝ってくれると言うこの優しい男に、ぼくは嬉しさのあまり、横に伸びている足に、ぎゅっと抱きついた。
「僕も手伝うよ〜。」
今日ほとんど寝てないはずの涼ちゃんまで、そう言ってPCを抱え、向かいの一人掛けのソファーに腰を下ろした。
「うわーーん!涼ちゃんも大好き!」
「うれし〜。僕も元貴の事、大好きだよぉ。」
「元貴、手離して。おれも、PC持ってくるわ。」
「二人ともまじでありがとー!」
その夜、ああだこうだと言い合い、たまに助言を貰いながら進めていくうちに、最後の仕上げに取り掛かる頃には、 深夜3時を過ぎようというところだった。
ふと顔を上げると、若井と涼ちゃんはそれぞれのソファーで静かに寝落ちしていた。
起こしてベッドに行ってもらおうかとも思ったけど、なんだかそれも可哀想な気がしてそのままにしておいた。
二人を起こさないように気をつけながら、慎重に手を進めていく。
そして、ついに、レポートを完成させると、二人の寝顔を見ながら、PCの画面をゆっくり閉じた。
一瞬、自分だけベッドに行こうかと迷ったけど、今は二人と一緒に居たくて、 若井の隣にそっと腰を下ろすと、ぼくは、そのままそっと目を閉じた…。