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院瀬見が何かしでかすだろうと思っていたとはいえ、何ともベタな……、いや、もはや未来予測まで出来ていたとは自分でも驚きだ。滑り止めの効果が無くなっている脚立に立っているだけでも不安定なのに、よりにもよって院瀬見は一番下の踏み板に片足を乗せてきてしまった。


「ぬぬぬ……いや、無理か」


一人で使用する脚立なのにただでさえガタガタな脚立に乗られては、もう俺の踏ん張りも意味をなさないことは目に見えている。真下がふわふわそうなベッドなので、俺も覚悟を決め目をつぶりながら身をベッドに委ねることにした。


「…………むぅ」


院瀬見からの反応待ちになりそうだが、足や腕に違和感が無いのでひとまずどこも痛めなかったらしい。しかし倒れ込む時、とっさの判断で院瀬見を何とか保護しようと思っていた行動の結果が気になる。


「……あの、そろそろ南の手をどけてもらいたいんですけど?」


この反応はもしかしなくてもやってしまった件か?


だが手の感触に、その辺のモブ男子が思い描くような弾みのあるものは感じられていない。それに気になるのは体の向きだ。本来なら枕元に頭があるはずなのに、首を動かすと頭ごと床に落ちそうな空間が確認出来る。


そっと薄目で見てみると脚立は倒れていなく、正面にそびえ立っているだけだ。つまり、俺も院瀬見も体の向きが逆状態ということになる。


それ自体は問題無いとして、俺の手の行方がどこにあるのか。目を完全に開ける前にこれだけは確認しておかねば。


「俺の手をどけたら院瀬見はどうなるんだ?」

「どうもしませんけど? でも、こんな強引な扱いは気に入らないだけです」


強引?


間違いなく俺の手というか腕の中には院瀬見がいると思われるが、もしかしてそれのことを言っているのか?


少しだけ嫌な予感があるが思いきって目を開けることにする。


「……あー。院瀬見だよな?」

「そうですね……わたしは首が全く動かせないので南が全く見えてませんけど」


目を開けると、俺の目の前には院瀬見の長い髪と頭があった。少しだけ俺の方が身長が高いこともあって院瀬見の顔は見ることが出来ないものの、鼻先から感じるのは爽やかな柑橘系の香りだ。


――というよりこれは一見すると腕枕に見えるが、腕を回して院瀬見をロックしてるからヘッドロックというやつなのでは?


そして手は、見事に院瀬見の頭を撫で回している。


「いやっ、悪ぃ!」

「別にいいですけど、狸寝入りしてないでさっさとどかして欲しかったです」

「あぁぁ……ごめん」


とっさの行動で院瀬見の頭を守ろうとしたまでは多分良かったはずが、俺の腕によって強引に院瀬見をロックしていたとかシャレにならない。


そしてやはり俺たちの体の向きは逆になっていた。もう少し頭が上に行ってたら俺だけベッドから落ちてたとか、想像したくない。俺も院瀬見も何とも無かったのでとりあえず起き上がることにした。俺の強引ロックから解放され、院瀬見は無言で髪を整えている。


何もやましいことはしてないのにどうにも微妙な空気だ。悪いことをしたわけでも無いし、ここは俺から言っておこう。


「まー何というか、怪我も無いみたいだし良かったな!」

「……そうですね。でも、南は良かったんですか?」

「ん? 何が?」


それほど怒ってないのか普通に返事をしてくれたな。しかし何故俺に疑問を投げてくるんだ?


「いえ、ベッドに倒れ込むという理想のシチュエーションになったのに、南の手はわたしの胸じゃなくて頭に置かれていたじゃないですか。本当は胸を揉みたかったんじゃないですか?」


おいおい、まさか院瀬見からそんなことを言われるとは想定外だぞ。仮じゃないけど、仮にも生徒会長の俺がそんな下衆なことをするとでも思っていたなんて。


ベッドに倒れ込むことは予想していたが、体勢からしてそうなるはずがないと思っていた。


俺としてはせめて院瀬見だけでも守ろうとしていたが……


「……俺の手が院瀬見の胸の上に置かれていたらどうだったんだ?」

「まだ合意していませんのでその手を捻りつぶ……いえ、つねっていたかもしれないです」


さらっとヤバいことを言いかけたぞ。まあ、院瀬見は美少女選抜優勝者なうえに俺よりも力がありそうだから俺だけがいい目にあうわけはないと思っていたけどな。


「なるほどな」

「でも、無意識のうちに女子であるわたしを守ろうとしたことについては評価します。強引すぎでしたけど」

「じゃあ怒ってるわけじゃないのか?」

「はい。ありがとうございますって言えるレベルです」


素直に言えばいいのに面倒くさい奴だな。


「それと……」

「まだ何か言いたいことでも?」

「わたしからならいいんですけど、勢いとかで強引に乗ってくるのは嫌です!」

「乗る……?」

「言っておきますけど、都合よく調子になんて乗らせませんから! それに……南が体ごとかぶせる様に乗ってきたとしたら、その時点で投げ飛ばしてましたから助かりましたね」


本気でやりかねない目をしてるんだが。さすが最強美少女といったところか。


「まぁ、そうだろうな。それに院瀬見の場合、その辺の男子じゃ勝てなさそうだけどな!」

「そうですね。でも、わたしが負けた時は南はあっさり勝てますよ」

「あん?」


俺が勝てる要素は無いだろさすがに。


「もし俺が勝ったら?」

「……喜ぶことをしていくかもです」

「何だそりゃ」

「それはまだ秘密です!」


よく分からないことを言う奴だし、何で笑ってるのかも不明すぎる。


そういえば俺のことを南呼びしてるのは院瀬見だけのような気がするが、聞いてみるか?


「ところで、俺のこと――」

「落ち着いたところで南に言っておくことがあるんですけど、推し女の子たちに意地悪いことはやめてくださいね?」


せっかく手紙のことを聞こうと思ったのに。


「推し女に意地悪? してるつもりはないぞ?」

「いいえ、二見さんや九賀さんからあまりいい話を聞いてないですよ?」

「それはだって、あの二人は特別な院瀬見推しだからだろ」

「そんなこともないですけど」

「院瀬見のことを神だと思ってそうだしな」


九賀はそうでも無いとしても、二見は多分そうだろうな。


「わたしはともかく、女子には優しくした方がいいと思います」

「院瀬見には優しくしなくていいのか?」

「……そういうありふれた優しさには飽きているので」


優しくされることに何か嫌なことでもあったんだろうか。選抜優勝者だからそれが当たり前の光景だとすれば、俺からは何も言えないけど。


「そういや、別の推し女の聖菜って女子――」

「――壁掛け時計はまた後にして、そろそろ戻りませんか?」

「あ、あぁ、そうだな」


何だ?


院瀬見の推し女の話なのにあえて避けようとしてる?


よく分からないが後でまた聞くしか無いか。

美少女選抜優勝者の彼女に俺だけ塩対応してたのに、なぜかめちゃめちゃ甘えてくるようになりました。

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