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「まる……。」
すっかり馴染んだ名前を呟けばゆっくりとこちらに歩みを進める。迎え入れるように無意識に手を伸ばす。
「……ごめん、僕となんか会わなきゃ死ななかったのに…。」
黒い感情が心を強く締め付け上げる。また思考が飲まれていく。
「撫でてあげなよ。」
突然上から振ってきた若井の声に驚き、離れていた意識を目の前に戻す。丸々とした瞳がこちらを見ていた。その瞳に応え、手のひらでふわふわとした頭を撫でる。お日様のように暖かった。胸の内にあるものが楽になっていく。きっと、まるが求めていた言葉はどれも違った。やっと気付けた言葉を受け取って欲しい。
「ありがとう。」
上目でこちらを見上げる動作が頷いてるように見えた。小さい身体から光が溢れ出す。視界を狭めていく光に目を閉じる。手の中の温もりがなくなった時、もう君は居なかった。
弱音は溜めない、寧ろ弱音なんて良い事に変えてしまえばいい。そうだよね、まる。
「涼ちゃん……。」
自分とは真反対の気持ちの声色で名前を呼ばれ、溜息をついて振り向く。
「なんで2人の方が落ち込んでんの!」
今にも泣き出しそうな顔を並べる2人に笑いかけ、両手を伸ばす。
「若井、元貴。」
やっと上がった顔にとびきりの笑顔を向ける。
「足力入んないや。」
「……何それ。」
暫く顔を見合わせた後笑い始めた2人に、早く〜、と手を伸ばして催促する。
「仕方ないなあ、おんぶしてあげるよ。」
「え!?いいの!?」
「お前じゃねえよ。」
向けられた若井の背中に乗ろうとすると、身体を支えてくれていた元貴が冗談交じりに言葉を発す。
「元貴も乗る〜?」
「涼ちゃん?ダメだよ?」
「やさしーい、涼ちゃん。若井とは大違い。」
暖かい背中の上で、 隣を歩く元貴に声を掛ければすぐさま制止の声がかかる。いつもと変わらぬ会話が幸せで、頬を綻ばせる。何気ない日常を噛み締めるように、掌に握り締められていた鈴を見つめた。