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『ただいま』
私は昔から、家に帰ったら必ず「ただいま」と言う。
一人暮らしを始めてからも、それは変わらなかった。
誰もいない部屋に向かって、
「ただいま」
と言う。
もちろん、返事なんてない。
ある日、仕事から帰ってきた私は、いつものように玄関で、
「ただいま」
と言った。
すると――
「おかえり」
と返事がした。
私は固まった。
聞き間違いだと思った。
部屋は真っ暗。
テレビも消えている。
私は恐る恐る電気をつけた。
誰もいない。
「……疲れてるのかな」
そう思って、その日は寝た。
次の日。
帰宅して、
「ただいま」
と言うと、
「おかえり」
また返事がした。
今度は、はっきり聞こえた。
私は怖くなって、玄関から動けなかった。
でも、部屋の中には誰もいない。
三日目も。
「ただいま」
「おかえり」
四日目も。
「ただいま」
「おかえり」
毎日、同じだった。
怖くなった私は、友達に相談した。
友達は笑いながら、
「録音してみれば?」
と言った。
私はスマホを玄関に置いて、帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
その声を録音した。
友達に聞かせると、友達は黙り込んだ。
「……これ、お前の声じゃないよな?」
「うん」
「じゃあ、誰?」
私にも分からなかった。
その夜、怖くなった私は友達の家に泊めてもらった。
翌朝、家に戻ると、玄関のドアが少し開いていた。
鍵を閉めたはずなのに。
私は警察に連絡した。
警察官が部屋を調べたが、誰もいなかった。
そのとき、一人の警察官が玄関の床を見て言った。
「……これ、昨日からありました?」
そこには、濡れた足跡があった。
玄関から部屋の奥へ向かっている。
私は首を振った。
「昨日はありませんでした」
警察官が足跡をたどっていく。
廊下を進み、
リビングを通り、
寝室へ。
そして――
ベッドの横で足跡が途切れていた。
警察官がベッドの下を覗いた。
「……何もありません」
私はホッとした。
その瞬間。
玄関のほうから声がした。
「ただいま」
全員が振り返った。
誰もいない。
警察官が玄関へ向かおうとした、そのとき。
今度は、私のすぐ後ろから声がした。
「おかえり」
私は振り返れなかった。
警察官も動かなかった。
しばらくして、警察官が震える声で言った。
「……あなた、さっき何て言いました?」
「え?」
「玄関で……」
私は答えた。
「何も言ってません」
警察官は青ざめた顔で、
「違います」
と言った。
「さっきの声……」
「**『ただいま』って言いましたよね?**」
そこで私は気づいた。
私はいつも家に帰ると、
「ただいま」
と言う。
でも今日は――
**まだ、一度も「ただいま」と言っていなかった。**
コメント
1件
うわ、これめっちゃ怖かった……!「ただいま」って日常の習慣がここまでホラーになるんだな。録音した声を友達に聞かせるシーンとか、ベッドの横で足跡が途切れてるところとか、じわじわ来るわ。最後の「まだ一度も『ただいま』と言っていなかった」で背筋凍った。続きが気になる……!😱