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「あれこれお願いされたらお金貸してあげたりさ、買ってあげたり……おかしいなって思いながらも焦ってたら盲目なんだよね。結局本命の彼女がいましたってのが何と二連続で」
今度こそ、何やそれ、的な空気で笑い飛ばしてくれるかと思いきや。木下の表情は横から見てもわかるくらいに険しくなってしまった。
(ダメだー! もうやめよう男の話なんか!)
「ゲーム混ざってきたら?」と提案するつもりで口を開きかけたが、木下が声を発する方が早かった。
「それ男運ないんやなくて、見る目なかったんちゃいますかね」
なんと、木下にグッサリと正論をぶち込まれてしまった。
なぜだかダメージが大きい。
肩を丸めるほのりの横で「でも、まぁね、分かりますよ」と、何かを肯定してくれているが。
「何が?」
「や、浮気されたらね。思うとこありますよね、色々と」
「え?」
ぽつりと漏れ出てしまったような声は、ほのりの問いかけに答えてくれているようでいて、しかしその視線は真っ直ぐに目の前のコートにある。
どこを、何を、もしくは”いつの頃”を眺めているのだろうか。
「どんな形にせよ、次に向かうんには影響あると思いますわ」
確かにそのとおり。
臆病になってしまったと思う。
探らなくなってしまったと思う。
結果、誰の一番になれることもなく。
「……そうだねぇ」
それにしても、まるで木下も経験したかのような物言いだ。けれど今それを追求しても答えを知ることはできないように思う。
語る気がないから、この表現なのだ。
それならば何も聞かないに限る。
ほのりは、その言葉に頷くだけにしておいた。
そうして再び訪れた沈黙が激しく気まずい。
「和希ー! 座ってへんで入ってや! こっち足りへん!」
そこに救世主の如くコートから誘いの言葉が。
見れば五対六。
呼びかけてきた側の人数が足りないらしく。
「吉川さん、ちょっとええっすか? 一セットだけで終わるんで」
「え!? いいよいいよ、見てるのも好きだから」
申し訳なさそうにする木下には悪いが、ほのりとしてはよくわからない今の空気をリセットしたい。さあさあ!とコートの方へ逞しい背中を押したのだった。