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ピピピピッ!ピピピピッ!…カチッ
ベッドサイドに置いてある目覚まし時計に起こされて上体を起こした。この前、レストランで食事をした後に白馬にそれはそれは小っ恥ずかしいキスをされた。あの感覚が忘れられず、妙に白馬を意識してしまっているのだ。今日は休日だが、午後から白馬の家に行く予定がある。お家デートというものだ。休日に恋人の家でデートということはいろいろ想像してしまうところがあるけど、不思議と嫌な感じはしなかった。顔を洗ってから朝ごはんを食べて、外出用の服に着替え、部屋の掃除なんかをしているとあっという間に約束の時間の30分前になった。昼食も向こうで取る予定だったので服装と髪型のチェックをしたらそのまま家を出た。まだ春にはならないこの季節。冷たい風が頬をすべった。20分程度歩いていると、白馬邸が見えてきた。門に備え付けてあるインターホンを押すと、ばあやさんの声が聞こえてきたので、黒羽ですと言う。ゆっくりと門が空いたので敷地に足を踏み入れた。しばらく歩いて白馬の自室の部屋の前に来たらノックをする。
「白馬。来たぞ。」
「どうぞ。」
白馬自らドアを開けてくれたのでお邪魔しますと言いながら部屋の中に入る。
「ばあやに言ってホットココアを入れて貰ったよ。外は寒かっただろう?」
「おー。サンキュ。」
確かに外は寒かったのでカップを両手でつかみ暖を取りながらココアを飲む。程よい甘さと後味の良さで、俺はこれを特に気に入ってる。しばらく俺のマジックやら喋ったりやらして時間を過ごしているとちょうどお昼時になった。
「昼は下で食べるのか?」
「いえ、こちらに使用人が持ってきてくれるそうです。」
「へー。」
「あともう少しで到着すると思いますよ。少し確認してきますので、ゆっくりしてください。」
そう言いながら白馬は部屋から出ていった。家主がこの場にいないとなると、そいつの部屋をとことん探検してまわりたい欲求が出てきて、いろいろ見て回った。ふと本棚の前に泊まって本のいろんな題名を見ていたら、何も書かれていない本があったので気になって開いてみた。それは日記のようで、白馬の日常をこと細やかに記録されていた。それを読んでいると、白馬のことがいろいろしれていくような気がして、胸に暖かいものが広がった。
…………これが、恋なのか。
どうしてそうなる?!
唐突に浮かび上がった答えに反射的に心の中で突っ込んでしまった。でも、白馬に恋をしたというと、妙に納得してしまうのだ。その後もペラペラとめくっていたらあるページに目が止まった。そのページには1文しか書かれておらず、その内容が衝撃的だったからだ。
ーーー快斗は本当に僕を好きなのだろうか?
自信がなかったくせによくキザなことが出来たもんだな?!一周まわってかっこいいぜ。
ガチャッ
「もう少しでできるようだ…よ。何をしているんだい?」
白馬の驚きの心情を見て固まっていたらいつの間にか本人が帰ってきていた。さすがに人の日記を勝手に見てしまうことは非常識だと認識があるので何とか言おうと口を開けると
「人の日記を見て、面白いものでもありましたか?」
「?!」
いつもより強い口調になっていて、白馬が怒っていることが伺えた。白馬は普段温厚で、滅多に怒らない。だからこそいなし方がわからなくてだんだん焦ってきた。
「えーっと…これは…。」
「そのページ…。…女々しいと思いましたか?」
急に白馬が現れたので焦って背中に隠そうとしたが、焦りのあまりページの部分を白馬に向けた状態で背中に回していたみたいだ。これは本格的にまずい…。
「質問に答えてください。…君は、僕を恋人にして良かったと…思えますか?
………………僕のことは、好きですか?」
白馬の目元が前髪で隠れてよく見えない。俯いて何かを耐えているようだ。いつも広く見える肩幅は狭く見えて、今にも消えてしまいそうだった。
好きな人が消えるなんて…。さっきやっと自覚したのに…。これから俺はもっと…こいつに愛してもらいたいのに…。
「答えてください!!!!!」
切羽詰まったように白馬が大声を出した。意地なんて張ってられない。俺はゆっくり、自分より背の高い消えてしまいそうな男を抱きしめた。
「好きだよ。」
俺とのことじゃないのに…こんなにも顔が赤くなる。
「愛してる。」
俺の恋人じゃないのに、こんなにも胸が苦しくなる。
「好きじゃなきゃ、付き合わない。」
いっそ俺が、白馬の恋人なら良かったのに。
「…おい、白馬。」
「…なんですか?」
白馬は少し潤んだ瞳で顔を上げて俺の顔をみた。
「…キスしてもいい?」
「もちろん。」
そのまま俺たちは噛み付くような深いキスをして…
コンコンッ
「探坊っちゃま。昼食をお持ちしました。」
使用人が来たため名残惜しいがゆっくりと顔が離れていく。お互いの舌を繋いでいた銀色の糸は、ある程度伸びたあと、プツンと音もなしに切れた。
「ああ、今取りに行くよ。」
白馬の体温が腕の中から消え、だんだんとい取り分の体温に戻っていく。それが嫌でしかたなくて配膳台ごと部屋に入ってきた白馬を正面から抱きしめた。
「…白馬。いや、探。」
急に名前呼びをされて白馬は驚いた顔をする。
「抱いて…。」
どんどん白馬の顔色が赤くなっていく。そんな様子が可愛くて仕方なく、そのままその唇を奪った。白馬の鼻をつまんでしばらくそうしていると、息が切れた白馬が自分から唇を開けてきたので間髪なしに舌を入れた。止められないと悟った白馬はそれに応戦してくる。先程よりも、お互いの全てを奪わんとする口付けをしながら、俺の体は後退して行って、後ろにあるベッドにまんまと押し倒された。
「…可愛らしいですね。」
「白馬……早く。」
お互いが満足するまで抱きしめあって、キスしあって、精一杯の愛情表現で絡み合った。結局昼食を食べたのは、午後5時のことだった。
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「白馬、好きだ。」
「僕もだよ。快斗。」
「白馬、もし、パラレルワールドがあるとして、その世界にそれぞれ違う俺がいるとしても。俺は白馬を絶対愛すよ。俺は天邪鬼で、素直じゃないけど、本当はいつだっておめーの腕に抱かれてーワケ。」
「随分と嬉しいことを言ってくれるね。」
「白馬…俺のそば、離れんなよ。」
「当たり前です。僕も、快斗だけを愛します。」
「おれ…つかれたから…すこし…ねる…」
「僕も。お疲れ様です。」
おでこに柔らかいキスが落とされて、俺はゆっくり眠りに落ちた。
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「…ここは…?」
見慣れた自宅の天井。確か先程まで白馬の愛を受け止めていたのだったか…。じゃあ白馬がここまで送ってくれたのだろうか。少し寂しい気がするが、寂しいなら会いに行けばいいと思い、明日来訪する予定を取り付けた。元々受け入れる機関では無いのだから負担が大きく、まだ疲れが取れていないようで、再びまぶたを閉じた。
翌日、白馬邸に足を運び白馬の自室に入った。昨日いたした後だったので腰は若干痛いし、ベッドを見ると奥が切なく雄を求めているが無視してソファに座った。
「急にどうしたんだい?黒羽くん?」
…黒羽くん?どうしていつものように快斗とは呼んでくれないのだろうか。急に俺がむくれてしまったので白馬はワタワタしている。
「黒羽くん?どうしたんだい?何かあったかい?」
「…別に。」
突然ローテーブルを叩きつけるバイブレーションの音が聞こえて、白馬の携帯に着信がなっているのだと知る。
「ちょっと失礼。…もしもし?」
「えぇ…。…はい?…そうなんですか?」
時々こちらをチラチラとみながら通話相手に対応している。
「…とにかく、良かったです。ありがとうございます。…ええ。ではこれで。」
白馬はスマホをローテーブルに置いて俺の隣に腰掛ける。
「黒羽くん。戻ってきたようで良かったです。ところで、あちらの僕に変なことはされませんでしたか?」
「あちらの僕ぅ?なんの事だよ。」
「おかしいですね。紅子さんの話だと黒羽くんは帰ってきていると…」
白馬の言葉をヒントにしばらく考えていると、俺は無事元の世界に戻ってきたのだと知る。でも、向こうにいる間に感じた、白馬への愛おしさはこちらの白馬にも感じていた。ということは…
俺は2人の白馬を好きになっている?そんなの…そんなの…。最低じゃないか…。
お茶をしている気分では無くなって適当に理由をつけて俺は白馬邸を後にした。