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あの時間を一緒にいたはずの白馬に会いたい。でも、こちらの白馬も俺は愛しているわけで…あの日以来、そんな考えが頭をぐるぐるして俺の心はめちゃくちゃだった。せっかく元に戻れたのにあんまりじゃないか。学校でもなんだか気まずくて、思わず白馬を避けてしまう。ほんと、どうすればいいんだよー!!!!!!
昨日だって酷いことをした。例えば、昼休憩の時…
「黒羽くん。お昼一緒にどうだい?」
「いい!一人で食べる。」
グループ学習の時…
「黒羽くん。一緒にやらないかい?」
「別のやつと約束してるから無理!」
放課後の時だって…
「黒羽くん。少し寄ってみたいところがあるんですが、一緒に行きませんか?」
「一人で行け!」
などなど。かれこれ1週間はこんな調子だ。見かねた紅子が
「あちらの白馬探もこちらの白馬探も本質は同じ。貴方は正真正銘たった1人の男を愛しているのよ?」
と言ってきたが…。それ抜きにして考えたってダメだろう!こちとらもう1人のお前に抱かれてんだぞ!ひとりで勝手におめーに抱かれた気になってるなんて恥ずかしすぎて死んでしまうぞ!自室のベッドにうつ伏せで寝転んで枕を抱きしめて顔を埋めて、そんなことをもんもんと考えていた。あの不思議な日々を思い出していると自分の唇に触れた熱と、裸どうしで抱きすくめあった生々しい感触や、尻で感じたあいつの形が思い起こされて真っ赤になってしまう。奥がうずうずして、切なくて…なかなか治まらないそれに、健全な男子高生が耐えられるはずもなくその日は吐精の疲れで眠ってしまった。
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白馬side
向こうの白馬の気持ちが最近はよく理解できる。何かにつけて一緒にいる時間を作ろうとしても黒羽くんは冷たくつっぱねてなかなか掴まってくれない。時間をかけて肥大化した熱情が彼につっぱねられる度に切なく軋んでいた。転校してきて間もない頃、馴染めなかった僕はグループ活動は好きじゃなかった。それでも訪れてくるその時間に憂鬱を感じずにはいられなかった。そんな僕に声をかけてくれたのは、中森さんだった。中森さんのグループには、僕の他に紅子さんと黒羽くんがいた。僕が入ってきた段階では黒羽くんはいい顔をしなかった。顰められたその顔を一瞬でも見てしまったら気分はいいものとは言いがたかった。だが、グループ活動をしていくとだんだんと僕に笑顔を見せてくれるようになった。その日から僕はグループ活動では必ず黒羽くんを誘うようにしている。彼は最初こそしぶしぶだったが、僕に向ける笑顔も明るく、頻度も多くなっていった。仲が良くなっていくにつれて、遠慮のないイタズラもされたが、全て可愛らしいものだった。
事件で呼ばれ、4限目の終了のチャイムがなった頃に登校してきた僕は屋上で昼食を取っていた。そんな時、屋上の扉が空いた。
「お。白馬じゃん。」
陽気な声が扉の方から聞こえた。遠慮なく僕の隣に腰を下ろして僕の弁当箱を覗き込んできた。
「うひょー!うまそ〜!」
「食べてみるかい?」
「いいのか?んじゃ、遠慮なく〜」
僕の弁当の具材をつまんで食べて顔をほころばせる彼の姿を見ると、可愛らしいと、その時は既にそう思ってしまっていた。
あの日は雨だった。ばあやはぎっくり腰になってしまい、お迎えは来ない日。傘を持っていなかった女子生徒に傘を貸し、自分は雨を防げるものがひとつもなかったため、雨が止むのを校舎の玄関でずっと待っていた。降り止むことのない雨音が心地よくて瞼を閉じて、いつ、誰が、政略結婚で生まれ、母親からの愛を受け取れなかった僕の空いてしまった心を埋めてくれるのだろうかと、詮無いことをずっと、考えていた頃、
「おめー。傘もってねぇの? 」
日直の仕事を終わらせてでてきた黒羽くんが、後ろから話しかけてきてくれた。
「ええ。傘を持っていない人に貸したので。」
「ふーん。」
誰が、僕を心の底から愛してくれるのだろうか…。
「じゃあ俺の傘入れよ。」
正直、びっくりしました。日本では相合傘と呼ばれる行為を、彼は僕としてくれると言うのですから。
「いいのですか? 」
「あ?何渋ってんだよ?おめー濡れてーの?」
「そんなことはありませんが。」
「もしかして、お坊ちゃまは相合傘とか気にしちゃうタイプ〜?ふーん?ほーん?」
「な!」
「図星か〜?素直になれないおぼっちゃまに、快斗様が特別にアドバイスしてあげよう!人からの厚意は受け取っておくものだぜ? 」
「…ふっ。そうですね。」
それは暗に、僕を気にかけてくれたと言っているようなものじゃないか。周りの人は僕の見目と地位ばかり気にしていた。そんな毎日に嫌気がさしていた。でも君は、犯罪者で、1番初めの頃は僕に顰め面を見せた人だ。言葉の重みが、明らかに違かった。君の優しさがくすぐったくて、僕のこの胸をコットンのような柔らかい綿で包んでくれた彼に、少しでも恩返しがしたくて、彼が雨に濡れないように、傘を若干彼の方に傾けていた。
「俺ちょっと買いたいもんあんだけど、ちょっとコンビニ寄っていいか?」
「ええ。もちろん。」
支払いを済ませた彼は、雑誌の表紙を見ていた僕に駆け寄って、「帰りながら食べようぜ」と、クリーム紅茶味のアイスとチョコレート味のアイスを僕の目の前にチラつかせた。「いいですね。」と賛同して雨音の響く歩道へと歩き出す。
「アイスを愛す」
チョコレート味のアイスを食べながら黒羽くんはそういった。
「急ですね…」
「ダジャレを急に思い出してさ〜」
そんなことを言いながら美味しそうに食べる彼を見つめて、愛おしさがこみ上がる。
君がアイスを愛すなら、僕はカイトを愛すよ。
君には、そばにいて欲しいんだ。君が犯罪者でもいい。何者でもいい。ぼくの心を温めて、保温するようにコットンで巻いてくれた君にだけ。君が誰でも、それでも僕は、君が欲しい。君の全てを暴きたいんだ。
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昼休憩中、空き教室で昼寝をしている黒羽くんを見つけた。眠くなるのも当然だろう。何週間もパラレルワールドにいて最近でいていなかった怪盗業で彼は疲れているようだったから。寝ているなら好都合。避けられることはないから。気配を消して5席を合体させ、マフラーを枕替わりにして眠っている黒羽くんに近寄った。数日の疲れでできてしまった隈を親指でゆっくりなぞり、ふわふわとした猫っ毛を右手で撫でた。きっと今ので起きてしまっただろうが、もう片方の手も使って頭を撫でようとすると黒羽くんは右手でそれをはじき飛ばした。
「なに人の寝込み襲ってんだよ。」
彼がパラレルワールドに行く前は最初の方を除いたらありえなかった鋭い目。机から足を下ろして距離を取ろうとするその腕を強く掴み、黒板に押し付けた。
「なぜ、君は僕を避ける?」
「ヘボ探偵にはそれすらわからねーのかよ。」
「パラレルワールドの僕に何か、されましたか?」
向こうの鋭い瞳はいっそう磨きをかけた。
「向こうの僕は君に何をしたのですか?」
「…」
睨めつけているだけで答えてくれない黒羽くんに僕も自然と視線が鋭くなり、彼の腕を掴んだ手の力もだんだん強くなる。一瞬痛そうな顔をした黒羽くんの表情を見て、血が登った頭が冷静になった。彼の仕草や表情ひとつで紗のようだった心が絹のようになめらかになっていくのを感じる。そうとう沼にはまってしまっているのだろう。手の力を緩めて口を開く。
「君が行ったパラレルワールドの僕も、この僕と本質は同じだ。向こうの僕が君にしたことは、僕の一面なんだろう。君の心を傷つけてしまったのなら、すまなかった。」
僕の心を温めて保温するようにコットンで包んでくれた彼の心に、荒波がこれ以上たつ前に。彼から腕を外し、背を向けて予鈴の音を聞きながら空き教室から出ていった。
愛したアイスは溶けて消えた。
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黒羽side
“パラレルワールドの僕も、この僕と本質は同じだ。向こうの僕が君にしたことは、僕の一面なんだろう”
そうだな、おめーら2人ともほんとそっくりさんだよ。俺は2人を別のものとしてみていたけど、どっちも生まれた時から白馬なんだ。別々なんかじゃなかった。
“貴方は正真正銘たった1人の男を愛しているのよ?”
そうだな。まったくその通りだった。でも、引き止められなかった。怖かった。俺が白馬を愛していることがバレてしまうこと?そんなんじゃない。俺はもう、向こうの白馬を引き留めようとして、いたしてしまったんだ。あいつはどう思う?自分の分身が友人と寝たなんて知ったら。本鈴がなっても俺は打ち付けられた黒板の近くに蹲ったまま涙を流していた。