死者のヴィーナス
満月の夜、僕は死者のヴィーナスの前に現れた。死者のヴィーナス達は手や足は生きているかのように動いているが、いつものように目はつぶっているし、口がなかった。
僕は一直線にあの美しいヴィーナスのもとへ歩み寄った。月明かりの彼女は樺の花のように美しく、いつも以上に華やかに見えた。僕はそっと彼女に手を伸ばした。彼女は僕の手をとり、社交ダンスが始まった。
僕は無我夢中で踊った。彼女と踊っているなんて夢のようだ。体も近くてドキドキする。10分くらい踊った後、彼女の動きが止まり、ダンスが止まった。
彼女の綺麗なロングヘアが蛇のようにうにゃうにゃ伸び始め、僕を覆っていく。少しずつ、身動きが取れなくなっていく。満月の光も、虫の心地よい音も、感じなくなっていく。
僕は何故か身の危険を感じなかった。むしろ、彼女と同じような存在になれるんだと思い、少し嬉しかった。
だって僕は、彼女を愛していたから。
満月が照らす夜、新しい死者のヴィーナスが誕生した。
END
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