【Artist】
1970
「もう無理だわ、お前には付いていけない」
本番直前になって、俺以外のメンバー3人から告げられた、脱退の意思。
「は?」
急な言葉に理解が追いつかず、3人の、まるで能面のような顔を交互に見渡す。
「…何ぬかしてんの?もう直ぐ本番で、客だって入ってんだろ。ふざけたこと言ってんなよ」
「もちろんライブはやるよ。ファンに罪はないから。でも、これが終わったら俺らは抜ける」
「……罪があんのは、俺だけってこと?」
皮肉を込めて笑えば、メンバーは当然のように頷く。
「どう考えてもそうだろ。お前、なんにも分かってねぇのな」
「お前にとって、僕たちの存在ってなんなの?ただのお飾り?」
「お前に才能があるのは認める。純粋にスゲェよ。でもさぁ、ずっと我慢してきたけどさぁ…もう、俺たちも限界だって。」
そんなことをほざくメンバーに、じわじわと頭に血が昇っていく。
はぁ? 我慢? 限界?
それをなんで、お前らが語れる立場にいるワケ?
「…お前らさぁ、ここまで来れたのは誰のお陰だと思ってんだよ。俺だろ?全ッ部俺!」
作詞も作曲も、コンセプトもパフォーマンスの仕方だって、全部俺の力でやって来た。やってきてやったのに。
今じゃ日本中が、いや全世界のひとが俺たちの作品を。俺を待ってるのに。
「………そういう所だよ。」
どこまでも冷たい声で言って、3人は俺に背を向け、楽屋から出ていく。
その後ろ姿に声をかけることも出来ず、俺は持っていた弦楽器を床に叩き付けた。
ばらばらと、曲がりへし折れ粉々になる、かつて楽器だったモノ。
『お前にとって、僕たちの存在ってなんなの?ただのお飾り?』
さっき吐かれた言葉が、頭の中でリフレインする。
…お飾りだなんて、そんなこと一度だって思ったことねぇよ。
誰が欠けたって、駄目だと、思ってたよ。
俺たちは同じ夢を目指す同志だったんじゃ、
仲間だったんじゃないのかよ。
俺をお飾りだと思ってたのは、お前らの方だろ
……なにが、げんいんだ?
Reincarnation.
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