【lnventor】
1931
成果を報告した後から連日連夜、御祝いの手紙や電報、電話が鳴り止まない。
決して自分だけで遣り遂げた事では無いし、研究所の皆んなの協力と尽力が有ってこそ。
これで我が国が豊かに為るものならば、どんなに嬉しく、誇らしい事か。
そしてあわよくば。この生命だけが削られ続ける無意味な|諍いが、一刻も早く了ってくれる事を心から願っていた。
願って、いたんだ。
「お願いです、どうか…どうか大佐との謁見を願います!」
「大佐は忙しい。唯でさえこの戦況だ、一介の研究員が易々と面会出来る訳が無かろう」
「しかし…!」
「何が不満か。お前の研究成果は存分に生かされ、今この瞬間にも我が国の戦力と成っている。十二分な賞与も下賜されただろうに」
「私は…私達は相手国へ報復する為でも、賞与目当てで研究して来たのでも有りません。平和を齎らす為に成し遂げたのです。開発を指揮したのは私。その責任と権利は私にある筈です。今直ぐに使用を中止して頂きたい。」
「戯言を。お前達の研究は、所詮兵器利用以外に使い道など無い。人の死により価値を見出せるのだ。自惚れるな」
そう吐き捨て、中尉は踵を翻し去って行く。
その背を絶望的な気分で見送りながら、手に持っていた新聞紙をぐしゃりと握り潰す。
新聞に躍るのは、開発された新兵器が異国の地に投下され、何千何万人もの命を奪った事を知らせる記事。
それがまるで、目出度い事でもあるかの様に、賞賛された言葉の数々。
「…ちがう」
「こんな。こんなはずでは、」
『人の死により価値を見出せる』
中尉と交わした言葉が、頭の中に繰り返し木霊する。
…人の死を願った事など、一度とだってない。
そんなこと、望んでいない。
この血生臭い時代が、一刻でも早く終わって呉れればと。ただ、それだけだったのに
私は 真逆の事をして仕舞ったと謂うのか。
日の入りには程遠い時刻であるのに、
目の前が 段々と墨でも流し込んだかの様に、黒く黒く 染まって行く
……どうして、こうなった?
Reincarnation..
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