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夜の出口
昼間の教室は、どこか自分には関係ない
場所みたいだった。
〇〇は窓際の席に座って
誰とも目を合わせないように、
ただノートにペンを走らせていた。
周囲のヒソヒソ話、笑い声、
時折こっちを見てくる視線――全部
慣れっこだった。
「ねぇ、聞いた?〇〇ってさ…」
「ほんとに?〇〇が?やば…」
そんな言葉が毎日のように飛び交っている 。
でも、反論する気も起きなかった。
全部、自分が選んだことだ。
いや、選ばされただけかもしれない。
母親が病気で働けなくなって、
家には毎月の請求書と薬代の山。
コンビニのバイト代じゃ足りなくて
気づいたら「そういう世界」 に
足を踏み入れていた。
スマホ一つで仕事の連絡が来て
夜には知らない大人と会って
お金をもらう。
心は壊れていった。
それでも、生活は続いていった。
ある日、放課後。
帰り支度をしていた〇〇の前に、
ジフンが立っていた。
クラスの中でも目立つ方。
明るくて、運動も勉強もそこそこできる、
普通に好かれているタイプ。
けど〇〇とは、これまで
ほとんど話したことがなかった。
〇〇 「なに?」
ジフンは少し黙った
〇〇 「何もないならそこどいて」
ジフン 「…お前のこと悪く言う奴、 ムカつく。」
〇〇は一瞬言葉を失った。
〇〇 「なにそれ。あんたが気にすることじゃないでしょ。」
ジフン 「気にするよ。」
ジフン 「だって…俺、お前のこと気になってたから」
教室の空気が、少しだけ止まったような気がした。
〇〇は、ジフンの言葉を冗談だと受け流そうとした。
〇〇 「…なにそれ。ウケるんだけど」
ジフン 「別に冗談じゃないけど」
ジフンは真っ直ぐな目で言った。
〇〇 「私に関わると、あんたまで噂されるよ。嫌われるよ?」
〇〇は少しだけ声を低くした。
優しさなんて、今の自分には眩しすぎる
ジフン 「別にいい。俺が選んでんだし。」
そう言って、ジフンは席にかばんを置いて、
〇〇の隣に座った。
教室にはもう誰もいない。
夕方の光が差し込んで、静かだった。
〇〇 「…なんで?」
〇〇はポツリと聞いた。
〇〇「なんで、私なんかに関わろうとするの?」
ジフン 「多分俺、ずっと〇〇のこと見てたんだと思う」
ジフン 「最初はただの興味だった」
ジフン 「でも…最近は見てるだけじゃ無理だって思った」
〇〇 「無理?」
ジフン 「放っとけないってこと。」
その言葉が、まるで小さな灯火みたいに、〇〇の胸の奥に灯った。
でも、同時に、怖くもなった。
誰かに優しくされると、その人を汚してしまいそうで。
〇〇 「やめた方がいいよ。私、汚いから。」
ジフン 「そんなの、誰が決めんの?」
ジフンは、ほんの少し怒ったように言った。
ジフン 「生きるために、必死なだけだろ。」
〇〇の目に、涙がにじんだ。
そんなこと、誰にも言われたことなかった。
ジフンと話すようになってから、
〇〇は少しずつ変わっていった。
教室で一緒に昼を食べたり、
放課後、2人で図書室に残ったり。
心のどこかで「こういうの、自分には似合わない」と思いながらも
ジフンの隣は居心地がよかった。
けれど…
夜になると現実は変わらない。
その日もスマホにはメッセージが届いてた。
暗いホテルの一室。
香水とタバコの匂いが入り交じった空気。
そんな中、私は知らない若めの男性と
身体を重ね合っていた。
男性 「中あったかくてきもちぃ//」
〇〇 「もう、だめツ////」
男性 「俺もツ//」
2人は同時に果てた。
自分の口から出た声が、自分のものじゃないみたいだった。
終わったあと封筒を手渡された。
中を見て安心する自分がいた。
それが1番辛かった。
翌日。
ジフンと〇〇は放課後に一緒に出かける約束をしてた。
少しアクセサリーを見たり、カフェでゆっくり話したり。
ジフンと楽しく今日何しようか話してた。
〇〇にとって、それは久しぶりに「普通の高校生みたいな時間」になるはずだった。
ポン✉️
スマホが震えた。
通知の名前を見た瞬間、〇〇の心臓がギュッと縮まった。
そこには、
✉️ “今日会える? 2時間、5万。急ぎで。”
どうして
どうして今日に限って…
〇〇 「…」
ジフン 「〇〇?」
断ろうと思った。
でも、そのとき頭によぎった。
冷蔵庫の中身、
止まりそうな電気代の請求書、
母親の「薬代が上がったらしい」
というぼそっとした声。
今日1日だけでも稼げば、
また数日、生活がもつ。
〇〇 「ジフン。ごめん。」
ジフン 「なにが?」
〇〇 「ちょっと用事が出来ちゃって…」
ジフン 「用事?」
〇〇 「ほんとにごめん…」
ジフン 「もしかしてさ、用事ってあのこと?」
〇〇 「うん…ごめん。」
ひたすら謝ることしかできなかった。
ジフン 「でも、なんで?」
ジフン 「俺との約束よりそっち優先すんの」
〇〇 「…違う、そんなつもりじや」
ジフン 「〇〇はそれでいいの?」
〇〇 「やだよ…でも、!」
ジフン 「知らない人と、ヤって楽しい?」
〇〇 「なわけ…」
ジフン 「…もう、やめようよ…」
〇〇 「やめれるなら、私もやめたいよ…」
ジフン 「じゃあ…」
〇〇 「でも、やめれないんだ。」
〇〇 「まだ、学費、先月分払えてないんだ、」
ジフン 「…」
〇〇 「だから、ごめん。」
ジフン 「それでも。」
ジフン 「〇〇がこれ以上壊れていくの見てられない。」
〇〇 「壊れてないよㅎ」
〇〇は笑ってみせた。けど声は震えてた。
ジフン 「嘘じゃん…それ。」
ジフンは〇〇の手を、そっと握った。
ジフン 「俺、〇〇を救えるほど立派じゃない」
ジフン 「けど、〇〇を “そんなとこ” には行かせたくない。」
〇〇 「でも、それがないと生きていけないの」
ジフン 「俺も手伝えることはなんでもする。」
ジフン 「お願い…1人で抱えないでよ…。」
ジフンには今でも涙がこぼれ落ちそうなくらい
涙目だった。
〇〇 「…バカだね。あんたㅎ」
私の目から大粒の涙が零れた。
ジフン 「うん。ばかだよㅎ」
〇〇 「わかった。やめる…」
ジフン 「…え?」
〇〇 「ジフンがやめろって言ったんでしょ」
ジフンが抱きついてきた。
数日後。
生活はすぐには変わらなかった。
お金の不安は毎日襲ってくるし、
学校での噂もすぐには消えない。
でも、変わったのは「隣にいる人」だった。
ジフンは、言葉通りに一緒にバイトを探してくれた。
家計の相談に乗ってくれたり、
〇〇の母親に内緒で薬局を調べて
支援制度の資料を持ってきたりもした。
〇〇 「なんでそこまで…?」
ある日、〇〇がそう聞いた。
ジフン 「だって、〇〇が俺に生きる理由くれたから。」
〇〇は笑った。
〇〇 「それ、逆だと思うけどㅎ」
ジフン 「じゃあ、お互い様ってことで。」
時々、〇〇は不安になることもあった。
〇〇 「私、本当にやめてよかったのかな…」
〇〇 「ジフンに甘えてるだけじゃない?」
でもそんなとき、
ジフンは黙って手を握ってくれる。
その温度が、「大丈夫だよ」と語っている
ように感じて、
〇〇は少しずつ前を向けるようになった。
end_