コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
一番乗りでゴールした一ノ瀬と屏風ヶ浦。
手早く2人の状態を確認した花魁坂は鳴海へ一報を入れると、早速治療を開始した。
屏風ヶ浦の骨折をサクッと治すと、続けて高熱で倒れている一ノ瀬の治療に入る。
症状は悪そうに見えたが、花魁坂の想定通り、鬼神の力も相まって彼はあっという間に復活した。
「復活!ありがとう!チャラ先!」
「相変わらず回復早いね。」
「屏風ヶ浦!マジでありがとう!」
「え?」
「いでぇ!」
「お姉ちゃん!?」
「お姉ちゃん、そんなヴェ●ムみたいな感じでいんの!?」
「(どうりで親指回復しないと思った…)」
「姉ちゃんもありがとな!」
「(面白いな。血が単体で感情を持つなんて…)そうだ、なるちゃんが2人に”お疲れ様”って言ってたよ。」
「鳴海が!?」
「ありがとうございます…!鳴海先生はまだ来てないんですね。」
「うん。最後の子がゴールするまでは来れないと思う。」
「そっかぁ…早く来ねぇかな~」
眼下に広がる雪原を見つめながら、一ノ瀬はポツリと言葉を漏らす。
その顔は、見る者が見れば一発で恋をしていると分かるような、そんな優しい表情だった。
では、彼が待ち焦がれている鳴海はと言えば…
吹雪の中、皇后崎に肩を貸し反対の肩で矢颪を担いで足を進めていた。
鳴海からすれば彼等の体重なんか軽いものでスイスイと進めるが皇后崎に合わせて進んでいた。
「鳴海、平気か?」
「全然へーき!迅ちゃんの方こそ大丈夫?担ごっか?」
「平気だ。担がなくていい」
「(の割には汗かいてるけど…本人が大丈夫って言ってんならそれを信じるか)…またまた〜!恥ずかしいだけでしょ〜?」
「…悪いかよ」
そう言った皇后崎の顔がほんのり赤く見えたのは、鳴海の見間違いではないだろう。
そんな2人の会話が聞こえたのか、不意に担がれていた彼が目を覚ました。
すぐに自分が抱えられていると分かり、険しい表情で手足を振り回し藻掻く矢颪。
突然の動きに驚いた鳴海は、足場の悪さもあってその場に尻もちをついた。
「どぅえっ!」
「! 鳴海…」
「大丈夫か?…おい、鳴海突き飛ばしといて何もなしかよ。」
「…」
「俺は大丈夫だから、ね?」
スタート前のような一触即発の空気を感じ取り、鳴海は慌てて言葉を発する。
手を貸してくれた皇后崎にお礼を言いながら立ち上がる彼を見て、矢颪はまた気まずそうに顔を伏せた。
だが1つ大きく息を吐くと、キッと皇后崎を睨みつける。
「あの野郎はどこだ!?」
「猫野郎か?撒いたよ。」
「テメェ!なんで邪魔しやがった!」
「邪魔?そりゃテメェだろ。何焦ってんのか知らねぇけどな、勝手に突っ走っていい迷惑だ。」
「碇ちゃんも迅ちゃんも、一旦落ち着いて…!」
「誰が焦ってるだ、コラ!」
「どう見ても焦ってんだろ。」
「俺からしたら焦らねぇ方がどうかしてんだよ!こんなぬるいことやってて、強くなれると思ってんのか!?別にあいつらが困ろうとどうでも…いってぇ…にしてもお前も丸くなったな。前はあんな尖ってたのに、今は仲間ができて角が削れたってか?ダセェんだよ。」
「そんな言い方…」
「別に俺だってあいつらを鬱陶しいと思ってるよ。…けど、悪くねぇとも思ってる。守りたい相手もできたしな。」
落ち着いた表情の皇后崎は、静かに視線を鳴海へと向ける。
こういうことに鈍い鳴海は首を傾げた。(本人は優しくなったなーぐらいにしか思ってない)
「それを丸くなったって受け取るかは好きにしろ。」
「…ふん。なんだよそれ…」
「(あれは…猫ちゃん!?)碇ちゃん!!」
「! 後ろ!」
鳴海と皇后崎の必死の叫びは間に合わず、岩に変身していた猫咲によって矢颪は足に続き右腕も負傷してしまう。
よろける矢颪の元に駆け寄った鳴海は、すぐさま猫咲と距離を取った。
変身をとき姿を現すと、彼は相変わらずの余裕っぷりで後輩たちに話しかける。
「ははは。調子はどうよ?これで右の手足は負傷。」
「(くそ…怒鬼怒氣の1日の限度数3回使っちまってんだよこっちは…)」
「碇ちゃん、大丈夫!?待って、すぐ治すから!」
「鳴海~そいつらに手貸してるってことは、お前も修行に参加してるってことでいいのか?」
「いいよ〜。ガチ戦闘は久々だから」
「前はコテンパンにされたからな今回こそ勝つ!」
「させねぇよ。お前の相手は…俺だ!」
鳴海の前に手を出した皇后崎は、そう言って走り出した。
鳴海に代わり、猫咲の方へ向かって行く皇后崎。
だが次の瞬間、彼の左足が何者かに撃ち抜かれた。
視線を向ければ、そこには相変わらず口元から血を流している印南がいた。
「あらぁ、幽ちゃん…いたのね」
「少年よ、困難の時間だ…ゲホッ!大丈夫!必ず乗り越えるという魂がある限り!君たちの心は死なない!ゲホッゴハッ!」
「テンションたけーな。印南!鳴海も俺らの相手になったらしい。」
「そうか!久々に手合わせ願いたい!ガハッ!」
「あは、後輩2人をボッコボコにしてもいいんだよ?」
「(マズい…最悪だ…!2人いっぺんにカチ合っちまった…!俺と矢颪は足を負傷。鳴海の治療…を受ける隙はねぇよな。どーする…!?)」
ゴール目前になって、ついに非常勤コンビが揃った状態で相対してしまった3人。
次の行動を迷っている皇后崎に構うことなく、印南は自身の巨大な手で彼らをスタート地点まで吹き飛ばそうとしていた。
このタイミングでスタートまで戻されれば、体力的に厳しいのはもちろんのこと、時間内のゴールも危うい。
だが巨大な手の溜めが終わり、今にも指が弾けようとしたその時…!
突如その手が撃ち抜かれ、爆発したように飛散した。
「(方向的には…いやいやありえねぇ…この強風吹きすさぶ吹雪の中、5キロはあるこの距離…吹雪で視界も悪い…あそこからなわけねぇ…そんな所から撃ち抜くなんて芸当…できるわけねぇ…できたら異次元だ…!)」
「(今の四季ちゃんかな?もうこんなレベルまで来てるなんて凄いな)」
「(あの位置から攻撃したのか?たぶん四季だよな…)くそ…腹立つ奴だぜ全く…」
3人を助けたのは、ゴール地点にいる一ノ瀬だった。
以前よりも格段に精度の高くなった銃を造り出した彼は、持ち前の射撃術を使って印南の手を撃ち抜いたのだ。
その場の全員が唖然として立ち尽くす中、鳴海は小さな声で隣に立つ皇后崎に話しかける。
「…迅ちゃん、前向いたまま聞いて。」
「! …あぁ。」
「2人を治す時間はないから、猫ちゃん立ちの気が逸れてる隙に、とりあえずちゃんの足だけを治す。そしたら碇ちゃんを抱えてゴールに向かおう。」
「そんなに早く治療できんのか?」
「トーゼン!元医療部隊よ?任せなって」
ニッと笑顔を見せた鳴海はその場に立ち竦んだまま、菌を使い皇后崎の足の治療を始めた。
視線は前にいる非常勤コンビに向けたまま、1分もかからずに鳴海は治療を終えた。
その圧倒的なスピードに、皇后崎は周りの状況も忘れ、思わず隣の彼を見つめる。
元医療部隊所属と言っていただけあって、治療に関しては本当にスペシャリストなのだと思い知らされた。
「すごいな…」
「ふふっ。ありがとう!普通に動く?」
「うん、元通りだ。ありがとな。」
「いえいえ。」
「…1つ聞きたいことがある。」
「ん?」
「何で俺の治療を優先した?」
「?俺がやっちゃうと碇ちゃん気絶させて、迅ちゃん担いでガンダになるから。それじゃ意味ないでしょ?言うこと聞かないワンちゃんの手網握るのは飼い主の役目だよ。迅ちゃん治して碇ちゃん引っ張っていって欲しいもん俺は。」
「(それをあの短時間で判断したのか…)なるほどな。俺もそれが最短だと思う。でも…」
「あ、俺は迅ちゃんに従うから」
“俺に考えがある”
これから何が起きても皇后崎に従うという姿勢を見せた鳴海に、皇后崎はそう言って靴を脱ぎ始める。
そして足裏に丸ノコの刃を造り出すと、それで雪を削りながら走り出した。
途中で矢颪のフードを掴めば、案の定相手は噛みついてくる。
「放せ、テメェ!」
「放すか、バカ!鳴海、ついて来れるよな!?」
「あー、なるほど。OK着いてく!」
「(皇后崎の足が治ってる…鳴海のやつ、いつの間に治療した?あいつらから目離したのなんて数分だ。んな早さで治せんのかよ!)印南!とにかく狙撃に注意しつつ、お前の能力であいつら止めろ!俺が捕獲する!このままゴールさせてたまるか!」
暴れる矢颪を皇后崎が引っ張り、鳴海が背後の状況を伝えながら追いかける。
さらにその3人を守るように、ゴール地点から一ノ瀬が射撃で援護。
即席のフォーメーションだが、彼らは見事に猫咲・印南を圧倒していた。
ゴールまで、あと3キロ…!