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ラマスは内心で唸った。
――――うっ!
一言のみであった。
魚類の様に感情を感じさせない目に貼り付けたような笑顔を浮かべたレイブは、皮袋に残った僅(わず)かな液体を懐から取り出した木製の匙(さじ)に掬い上げながら明るい声で言う。
「ほらラマス! アーン!」
「えっ!」
――――いやいやいや、これモンスターなのよね? アーンって何よ、アーン? 死ね、って事? なの? はっ! も、若(も)しかして、弟子入りの為の試練? 的な…… 奴かな? ならば、最早迷うことは無いっ! ええい、ままよ!
瞬時にそう思ったラマスは出来得る限りに口を大きく開けて答えた。
「あ、ああーん」
「あはは、んじゃどうぞ、これねぇ、どうかな? 美味しいかい、あはは」
軽く狂っているであろう叔父、と言うより師匠であるシパイの弟的な存在である、師叔(ししゅく)レイブの顔を見返す事無くラマスは叫んだ。
「オ、オエエエエェェェェェーーー、マッズゥッ! オエェッ!」
「あははは、だろ? まずいよね、おっと、石化が始まっちゃったね、ほら、これ粉薬、さあ飲んで! む、ペトラが焦っちゃったかな? ふんっ、急がないとっ!」
色々な物を吐いているラマスの口に無理やり粉薬を押し込んだレイブは、腰に差してあるゼムガレのナイフを抜き掴み目にも留まらない程の素早い動きで小屋の横、空き地を目指して走り出し、その姿は線状にしか捉えられない位に加速していたのである。
スパッ!
「ペトラっ!」
たっぷりと赤い糊を付けられたゼムガレのナイフは、いつの間にかプクプクと膨らみ始めていたトナカイの肌を一切の抵抗無く切り裂いたのである。
トナカイの血抜きポイントは前胸と首元の間である、ニンゲンで言えば鎖骨に沿うように這った筋肉、その場所である。
必要最小限に、だけれども完璧な血抜きポイントを切り裂いて、足早に小屋に駆け戻るレイブの後姿に掛けられた声はペトラの明るい声だった。
『大丈夫! 一滴も無駄にしないわよっ! ペトラにお任せあれっ!』
背後から掛けられた声には答えずに、只ニヤリと薄い笑みを浮かべたレイブは、今振るったばかりのゼムガレのナイフを再び、糊袋に差し込んで抜き去りながら大きな声で言った。
「ギレスラっ! そこを退いてくれ! カタボラが死ぬぞっ!」
『ふん、とっくに退いているわ、頼んだぞレイブ』
「よしっ! それぇ~!」
唖然としながら粉薬の効果による自分の両腕の石化が解除される様を見続けていたラマスの目の前を、一陣の疾風の如く通り過ぎたレイブは、手に持った小さなナイフを逆手に持ち替えて、カタボラの周囲を何度も回り続け、動きを止めた時には既にナイフは腰の糊袋に収められており、その横にはスッキリとした表情で鎮座する、トリミング直後っぽい真っ白な竜、カタボラの気持ち良さそうな表情が見えたのである。
ポーズを決めてるっぽいレイブの足元では紅竜ギレスラが、木製の籠(かご)を片手に白い鱗を必死の形相で拾い集めているのが見えた。
『これ位で充分ね♪ ヒール! どう、治ったでしょう?』
『ぐぅぅ、辛かったですわよ、ペトラ様ぁ~』
『あはは、ごめんごめん、でも慣れてよね』
『え……』
小屋の外からはまだ小ぶりな豚猪(とんちょ)の物騒な言葉に辛そうに答える自分の相方の声が聞こえてきた。
ラマスは吐き気も忘れて相も変わらぬ戦慄を顔面に貼り付けながら成り行きを見守るしかなかった。
そんな彼女に無機質な笑みを浮かべながら近付いて来た、見てくれだけは完璧な青年、レイブが嬉しそうな声音で告げる。
「ラマスもカタボラもエバンガも、良く死ななかったね、上出来だよ♪ これからが楽しみになってきたよ、頑張ろうね」
ラマスの返事は一言だった。
「オオォエエェー!」
「あははは♪」
レイブの乾いた笑い声が粗末な小屋の周りに響き渡った夜。
その小屋の外では何も言えない感じでぐったりとしたエバンガが大きな身を伏せ、反して小屋内の白竜カタボラは身が軽くなった事を喜び捲るのであった。