──ひとり紅茶を啜る音だけが響く中で、
「それと……」と、カップを携えた外岐子先生が、急にこちらを見やった。
「あなたにも、近野の方から別れるようにと、忠告をさせたはずですよね?」
投げかけられる視線の厳しさに、戸惑いを隠せずにいると、
「そんな忠告を……?」
と、彼から気遣うような眼差しが向けられて、
近野さんといつか話した時のことを思い出し、こくりと頷いた。
「……私だけではなく、彼女にまでそんなことを……」
苦い表情で言葉を詰まらせる彼へ、
「別れなさい、その人とは」外岐子先生は、きつく言い放って、「そうして、私の紹介する方とお見合いをするのです」命令でもするかのように話した。
「いいえ」と、彼が一言を発して首を振り、
「私はもう、あなたの言うことを聞く気もない」
既に何も通じないと悟った顔つきで、落ち着いた静かな声音で淀みなく答えた。
「あなたは、それでいいとでも思っているんですか?」
「ええ」と短く頷き、「……もう、私は、あなたにもこの家にも、縛られるつもりはありません」彼はそう告げて、
「……もう二度と、会うこともないでしょう……」
と、席を立った。
「一臣っ!」
呼びとめる声には耳を貸さずに、そのまま私の手を引いて玄関へ向かうと、彼は一切振り返ることもなく家の外へ出た……。
コメント
1件
そうよね、大人なんだもの。 自分の意思は伝えたんだから、二人で幸せになって欲しい。 子供は、いつまでも自分の思うままになると思うのは間違いだわよ。