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ナギはどうやら朝が弱いらしい。中々起きて来ない彼に呆れつつ、朝食の支度をし着替えを済ませて寝室へと向かう。
案の定まだ寝ていたので布団を剥ぎ取り、身体を揺すって起こせば、彼はぼんやりとした様子で目を擦りながら身体を起こした。
いつもはセットされている髪が今日は珍しく下りていて、寝ぐせが凄い。それが余計に幼さを醸し出していて可愛らしく感じた。
「僕は先に出るけど、鍵は渡しておくから向こうで返してくれたらそれでいいよ。あと、朝ごはん作っておいたから食べていいからね」
「ん……」
寝ぼけまなこでコクリコクリと首を縦に振る姿はやはり子供のようだと思った。
昨晩の艶めかしい姿からは想像できないくらいに無防備だ。
「遅刻しないようにちゃんと来るんだよ?」
「うん……」
本当に大丈夫なのだろうか? 少し不安ではあるが、彼の覚醒を待っている時間が惜しい。
後ろ髪をひかれつつ、じゃあ行ってくるよと告げて部屋を出た。
玄関を出ると冷たい木枯らしが吹き付けて来る。温暖化で日中は暖かい日が続いているものの、朝は結構冷え込む日が多くなって来た。
もう少し厚着をして来た方が良かったかもしれない。そう思いながらも足早に駅へと向かった。
「へぇ、すっげー……!」
「これ、ゆきりんが作ったの!?」
撮影前の軽いアップを終えて、スタジオにやって来ると、東海と美月が何やら雪之丞を取り囲んでいるところに遭遇した。
一体何事だろうか? 雪之丞が取り囲まれているなんて珍しい事があるもんだ。
気になって近付いてみると二人して雪之丞の手元にあるスマホを覗き込んでいる。
「何やってるんだ?」
「あっ、れ、蓮君……」
蓮に気付くと雪之丞はパッと顔を上げ、困ったような表情を見せた。やはり表面上は平静を装っているものの、心の中は穏やかではないらしい。
まぁ、無理もないだろう。あんな事をした後だ。気まずくないわけがない。
だが、そんな二人の空気など知る由もない美月は、やや興奮した様子で雪之丞の手元にあるスマホを指さす。
「蓮さん見て! ゆきりんって凄いんだから」
「凄いって、何が?」
「対戦型のアクションゲーム、自分で作っちゃったんだって」
ずいっと目の前に差し出されたスマホに目を向ければ、そこには何処かで見た事があるようなキャラクターたちが剣を手に戦っている画面が映し出されている。
グラフィックもさることながら、スマホから流れて来る軽快な音楽が好奇心をそそるように作られていて、素人目に見ても面白そうだなと思えるほどには細部まで作りこまれているようだった。
「へぇ、ゲームが好きなのは知ってたけど……こんな技術を持ってたのか。凄いね」
「ま、まだ試作段階なんだけどね」
素直な感想を述べると、雪之丞はほんの少し照れくさそうに笑った。その表情に一瞬ドキリとさせられたが、すぐに我に返って誤魔化す様に咳払いをする。
すると、隣にいた美月がまるで自分の事のように口角を上げながら嬉しそうに視線を蓮に向けて来た。
「ゆきりん、コンピューターグラフィックのデザインも出来るんだって」
「あと、操作も! 凄くない?」
普段自分には憎まれ口を叩く東海もこういう事には興味があるのか、興奮気味に話している。
雪之丞がこの手のものに秀でているのは元々知っていたが、まさかここまでの腕前だったとは。
本人は謙遜していたが、副業じゃなく本業としてやってみればいいのに。
そう思ったが、恐らくそれは雪之丞自身が望んでいないのだろう。口に出すことはせず、そっと心に秘めておくことにした。
「ねぇ、蓮さんもやってみない?」
「え? 僕はそう言うのはあまり……ゲームには興味が持てなくて」
突然の美月の提案にたじろぐ。確かに面白そうだなとは思ったが、自分はゲームなどあまりやったことがない。
「とか何とか言って、オッサン、負けるのが恥かしいんだろ」
横から東海に茶々を入れられ、カチンときた。コイツは本当に生意気なヤツだ。
「あ? 誰に言ってるのさ。いいよ。やろうか」
売り言葉に買い言葉。よせばいいのに、つい乗せられてしまった。
結果なんて火を見るほど明らかで……。
数分後、蓮は画面に映る自分のキャラクターを見ながら深いため息をついた。
結果は惨敗。開始早々敵にボコられて即ゲームオーバーとなってしまったのだ。
美月とも対戦してみたが秒で大技を食らい、トラップに引っ掛かってあっという間にKO。
「あっはっは、くっそ弱いじゃんダッセー」
「蓮さんって、何でもこなしちゃうイメージだったのに意外だな」
「……クッ」
勝ち誇った笑みを浮かべる東海と、苦笑を浮かべる美月。
二人の反応に苛立ちを覚えるものの、事実なので言い返すことも出来ない。悔しさに顔を歪めながら、もう一度挑戦してみるが何度やってみても結果は同じだった。
「くそっ、もう一回――」
「た、大変ですっ!」
苛立ちを隠しきれず、ついムキになってスマホを再び手にした時、別の撮影の仕事で合流が遅れていた弓弦が血相を変えてスタジオに駆け込んできた。