ウチの近所にあるスーパーオオタキで、買い物を済ませた私。大きなエコバックを片手に、赤い傘をさして浮かれ気味に帰路についている。
昼前くらいから、ずっと机に向かってネームを描いていた私のスマホにメールが入ったのは、夜の帳が落ち始めた頃だった。
そういえば、お腹空いたなぁ。朝からたこ焼きしか食べてないなし……
そんな事を思いながら、開いたメール。
『今、オニオン通りにいる。コレから戻るけど、何か必要な物あるか?』
「オニオン通りかぁ……フフフッ♪」
私は思い付く限りの日用品と消耗品、そして私を置いて行った意趣返しを込めて買い物リスト作成し、メールで返信した。
さて、これで帰ってくるまで二時間はかかるだろう。
私は急ぎ身支度を整えてから、スーパーへと買い出しに向かったのだった。
昨日はすっかり『片付けられない女』の烙印を押されてしまったけど、ここらで一つ汚名返上の名誉挽回。手作り料理で彼を出迎え、女子力の高さをアピールしようという作戦だ。
街灯の少ない薄暗い街路地とは対照的に、トモくんの喜ぶ姿を想像し胸踊らせる私。
「こんばんは、オネェーさん」
「…………ちっ!」
と、そんな幸せ気分をブチ壊してくてた三人の人影に、思わず舌打ちが出た。
「なんの用? 私はガキと遊んでいるほどヒマじゃないんだけど」
そう、薄暗い街路地を歩く私の前に現れたのは、いつぞやのナンパ男の三人組み――
いや、四人か……? 見覚えのあるアホ面の少し後ろ。暗くて顔は見えないけど、ガタイのいい男が立っていた。
「何の用って、決まってんだろっ! この前の礼、たっぷりと、ぐがっ!?」
鼻ピー男が一歩前に出た瞬間、側頭部めがけて上段回し蹴りを叩き込んだ。
うん! 会心の一撃♪
一撃KOでダウンする鼻ピー男を前にして、呆気に取られるグラサンを睨みつけ、畳んだ傘の先端をおデブの喉元に突きつけた。
「殴る前に一つ忠告してあげる。私、コレでも空手二段だから」
「ドタマ蹴り飛ばしといて、何が『殴る前に――』だっ!? ざけんなっーっ!!」
私に睨みつけられて、後ずさりながら声を上げるグラサン男。
たくっ……ビビるか意気がるか、どっちかにしなさいよ。
そんな複雑なお年頃の青少年達の代わりに、後ろで控えていた男が前に出てきた。
おそらく、彼らの用心棒か何かだろう。
とゆうか、どっかで見た気のする顔だ……
歳の頃は四十前後くらい。身長は私より頭二つは大きく筋肉質……おそらく何かしらの格闘技経験者だ。
ならば――
「はあぁーーっ!!」
私は不意打ち速攻の先手必勝とばかりに、男の鳩尾に前蹴りを入れる。そしてそれを足掛かりにジャンプして、飛び後ろ回し蹴りを横っ面に叩き込んだ。
よしっ! 再び会心の――
「えっ?」
片膝を着いて着地すると同時に、私は思わず目を見開いた。
「ふっ……女の蹴りにしては中々だな」
大塚○夫さんみたいなシブい声を発して、アゴをさすりながら笑み浮かべる大男。
そ、そんな……どっちの蹴りもクリーンヒットしたはずなのに、よろめきもしないなんて……
私は、急いで体勢を立て直そうと立ち上が――
「がはっ!?」
立ち上がった瞬間だった。
一気に間合いを詰めた大男の太い腕が、私のアゴをすくい上げながらノド元にメリ込んだ。
ラ、ラリアット……?
思い出した。この男って、確か元プロレスラーの――
ノドを圧迫され呼吸の止まった私の意識は、吹き飛ばされた浮遊感に包まれたまま深い闇へと落ちて行った……
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