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放課後の部室は、
蛍光灯が半分切れかけてて、
うっすらオレンジに染まっている。
ギターをケースから出すと、
いつも隣に座る若井が、にやっと笑った。
「よぉ、元貴。今日こそはコードミスんなよ?」
その言い方がもう挑発的で、胸がくすぐったくなる。
「うるせぇ、昨日はお前だってリズム外したじゃん」
って言い返すと、若井は
「それはお前が可愛すぎて集中できなかったんだよ」
なんて真顔で言ってくる。
「……はぁ!?」
急に顔が熱くなる。
こういうの、本気なのか
冗談なのか分からないから困る。
でも、若井は僕の手元を覗き込みながら、
指先を軽く直してくれる。
その距離が近くて、息がかかるほどで、
心臓がドクドクして落ち着かない。
「ここな。指立てすぎると濁るから、もっと寝かせて」
「わ、分かってる!」
「分かってねーから俺が教えてんだろ」
ムカつくのに、その手が優しいから反論できない。
音を合わせると、思ったより綺麗に響いた。
若井が満足そうに頷いて、
「やっぱ俺と元貴のコンビ最強だな」
って言う。その一言に、不覚にも胸が高鳴る。
休憩中、若井が自販機で買ってきた
缶コーヒーを無理やり押し付けてくる。
「お前、甘いのしか飲まねぇからな。
たまには苦いのも慣れろ」
「なんで俺の好み知ってんの」
「幼馴染だぞ?当たり前」
そのドヤ顔が憎たらしいのに、
妙に嬉しくて、思わず缶を両手で受け取った。
ギターの音よりも、笑い声よりも、
今は隣の若井の存在が一番大きい。
からかわれてムカついて、
でも心臓はずっと跳ねっぱなし。
これが“付き合う”ってことなんだろうか
――そんなことを考えながら、また弦に指を滑らせた。