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そんな疑問にもやもやする夏休み。ついに僕の愛が試されるときがきた。
その日、僕らは映画館でデートした。映画は恋愛映画で、彼女のチョイス。
つらい過去を持つ女性が理解のある男性と出会い心を開いていくが、過去に彼女を傷つけた男が現れ彼女はまた心を閉ざす。二人は新天地に逃げていくが、男は蛇のように執念深く追いかけてくる。男は彼を殺害し、絶望した彼女は自死を選ぶ――
なぜこんな救いのない映画を選んだのだろう? 主人公の境遇を自分自身と重ね合わせたから?
実際、彼女は主人公が自死する場面で僕の手を握りながら涙を流していた。僕のハンカチで涙をふいてあげたけど、本当はキスしたかった。
「キスしていい?」
と聞いたら、
「あとでボクからする」
と返された。
約束通り彼女は映画館を出てから軽くキスしてくれたけど、そうじゃないという気持ちがぬぐえなかった。
キスの直後、知らない女の人が僕らの前で仁王立ちしていた。彼女は明らかに怒っていて、僕らのどちらかに用があるらしい。
背は彼女より十センチほど高い。髪型はショートボブ。夏なのに長袖シャツを着て、足首まで隠れるスカートに見えるパンツを履いていた。シャツはベージュでパンツはブラウン。たぶん高校生だろうが、コーデと髪型のおかげかずいぶん大人っぽい雰囲気にも見える。
要は美少女。彼女とはまた違うタイプの。
「誰?」
「知らない」
僕らの会話を聞いて、ショートボブの彼女は苦り切った表情になった。
「霊山寺映山紅さんだよね? さっき映画館でひと目あなたを見て私はあのときを思い出してフラバを起こしたのに、あなたはいまだに私を思い出しもしないの?」
フラバとはフラッシュバックのこと。それくらいなら僕も知っている。五月に学校の校舎の屋上から落とされそうになった直後、そのときのことをしょっちゅう思い出しては怒りに震えていたものだ。あれも今思えばフラバだったのかもしれない。