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白玉くん
67
66
ことみ
74
7月2日(木)
朝の教室。
黒板はまだ何も書かれておらず、机の上には静かなざわめきだけが落ちている。
誰かが笑っている。
誰かがふざけている。
その全部が、意味を持たないまま流れていく。
その中で、こさめは自分の席に座っていた。
机に肘をついて、ぼんやりと外を見ている。
何かを考えているようで、何も考えていないような顔だった。
ただ、少しだけ楽しそうだった。
その後ろから、軽い声がかかる。
捺「おい」
こさめは振り向く。
捺といるまが立っていた。
捺「元気ないのか?」
いるま「ぼーっとしてるぞ?」
その言い方は、いつもと同じだった。
特別でもなく、冷たくもない。
ただの、いつものやりとり。
こさめは小さく笑う。
こさめ「ぼーっとしてないってば!」
捺は短く息を吐く。
ほんの少しだけ視線を横にそらしたあと、またこさめを見る。
その表情には、意味があるのかないのか分からない揺らぎがあった。
それでも、その時はまだ何も変わっていない。
◇◇◇
休み時間になると、教室の空気はさらに騒がしくなった。
椅子が鳴り、机が揺れ、いろんな声が重なる。
その中で、こさめが急に顔を上げる。
こさめ「ねえねえ、聞いて!」
須千「どうしたの?」
声は明るく、軽い。
こさめは嬉しそうに続けた。
こさめ「この前ね、お母さんと出かけたの!」
その言葉が落ちた瞬間、空気がほんの少しだけ変わった。
止まった、というほどではない。
でも、確かに何かが一拍だけ遅れた。
捺の手が止まる。
いるまの視線がわずかに動く。
けれど、その違和感は言葉にならないまま流れていく。
捺はすぐに口を開く。
捺「へえ」
短い声。
捺「いいじゃん」
こさめはそれを“普通の返事”として受け取る。
気づかないまま、笑顔のまま続ける。
こさめ「スルメイカクレープ食べたんだよ!すっごいおいしかったの!」
尊琴「だからなんなんそれww」
須千「本当にあったんだ…」
蘭「おいしいのかよw」
いつも通りの会話に戻った。
ただ、ほんのわずかにずれているだけだった。
◇◇◇
放課後。
教室の空気は少し疲れていて、それでもどこか穏やかだった。
こさめが振り返る。
こさめ「ねえねえ、明日も一緒に遊ぼうよ!」
いるまは軽く笑う。
いるま「いいよ」
捺は少し遅れて答える。
捺「まあ別にいいけど」
その言葉に、特別な意味はなかった。
ただ、少しだけ温度が違った。
こさめは気にしない。
ただいつも通りの返事だと思っていた。
◇◇◇
校門の近く。
帰る準備をしながら、こさめはふと思い出したように聞く。
こさめ「ねえ、なつくんってお母さんいるの?」
一瞬だけ、空気が沈む。
ほんの一瞬。
いるまがすぐに言う。
いるま「いるに決まってんだろ」
こさめはあっさりと笑う。
こさめ「そっか~なつくんお母さんの話とか全然しないからさ」
「さっきもちょっと元気なかったし」
「もしそうだったらこさ悪いことしちゃったかなって」
それだけだった。
こさめが手を振る。
こさめ「また明日ね~!」
捺は軽く手を上げる。
いるまも短く返す。
いるま「じゃあな」
三人はそれぞれの方向へ歩き出す。
その背中は、どこから見ても普通だった。
少し歩いたあと。
捺が小さく呟く。
捺「……普通ってなんだろ」
誰にも届かない声だった。
その言葉はすぐに風に溶けて消える。
そしてその日も、何事もなく終わった。
まだ、何も壊れていなかった。
ただ、それだけだった。
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コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 第3話、読みました。 「普通」って言葉がすごく刺さった…。捺くんの「普通ってなんだろ」っていう独り言、誰にも届かないまま風に消えていく感じが切なかった。こさめちゃんは明るくて無邪気だけど、その無邪気さが逆に、捺くんの内側にある見えない影を浮き上がらせてるよね。 まだ何も壊れてない、でも少しずつズレてる。この静かな違和感の積み重ねが、これからどう転ぶのか…続きが気になります。