この作品はいかがでしたか?
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「今夜は遅くなるから寝ていていいよ、クスリが効かないようなら他の病院へ行ってみるといいよ」
「うん、そうする」
それからは、なんだかぼんやりして一日が過ぎていった
胃が痛い・・・・
こんな風に胃潰瘍とかになっていくんだろうか、身体に悪い・・・
一人の夕食を済ませて、柚の香りの発砲入浴剤を使ってゆったりと湯に浸かった。
賢也はいま何をしてる?
言葉通りの残業をしてる?
それとも・・・
完全に安まる場所が欲しくて書斎をすこしづつ自分だけの部屋にしていていた。
ここでも眠れるようにソファベッドを購入し、寝室のクローゼットから自分のものを少しづつ移動させていた。
私の城・・・
ベッドルームに戻ってベッドに入る。
眠れずにいると玄関から鍵の開く音がした。
金曜日は帰ってきたらすぐにシャワーに入る
そして、この部屋の匂いになってからベッドに入る。
「賢也」
「ごめん、起こしちゃった?体調はどう?」
「うん、平気・・・だから・・・しよ?」
一瞬、空気が変る、賢也はきっと断る
「ごめん、疲れちゃって」
「そうだよね、ごめんね」
身体から熱が冷めていく、頭の先から冷気が足の指先まで下がっていく。
ゆっくりとベッドからでてリビングへいくとテレビを付けてぼんやりと眺める
金曜日以外は賢也から求めてくるのに・・・
自分の“城”に向かった
ソファベッドに横になる
胃潰瘍になりそう・・・・
「おはよう、朝食できてるよ」
「あ・・うん。顔を洗ってくる」
「あのさ、今日はどこかにでかけない?」
「ご飯食べたら、友人と待ち合わせしてるから、賢也は好きにしていていいよ」
気持ち“好きにして”のところを強調してみた。
「そっか・・・」
報告を聞くだけだから普段着のままでもいいが、待ち合わせをしているということにしたので、きちんとメイクをしておしゃれをした。
雑居ビルの一室、相変わらず雑然としているがソファはかろうじて座れる状態になっていた。
「どうぞ」
松崎さんの表情は職業柄なのか読めない。
黒だったのか白だったのか・・・・でも私は確信している
「サクっと言いますが、クロです」
やっぱり・・・
分っていたのに
涙が出てきた
どうして?
何が?
どこが悪かった?
私が泣き止むまで松崎さんは何も言わずに待っていてくれた。
「報告をお願いします。」
「7時には会社を出て電車に乗ってフードコートに向いました。なにも買わずに出て行くとその後ろから女性がついて行ってました。その写真がこちら」
そういうと、フードコート内を歩く賢也とその後ろにボブの女性が映っている。
ちょっと見ると二人が一緒という感じはない。
「この距離でホテル街に入っていきました。多分、カモフラージュなんでしょう」
ホテル街に入って行く写真、ホテルに入っていく写真が撮られていた。
どちらも後ろ姿しか分らないが、その女性は賢也とならぶとかなり背が低く感じる。
「約2時間ほどで二人が出てきます」
賢也の後ろにボブの女性が立っていた。
少し肉感的でこういうのをセクシーとでもいうのだろうか。
ショックなのは私とは正反対の雰囲気だったことだ、賢也はこういう人が好みなんだ。
「証拠だけならこれで充分だと思います、これで調査を終了して大丈夫ですか?」
「え?大丈夫って?」
「片桐さんは、この結果を知った上でこの先の生活をどうするんですか?この結果を突きつけて不倫をやめてもらう?」
この先・・・・
膝に載せた手をギュッと握る
「無理・・・・賢也と暮らしていくのは無理です」
賢也が私とは正反対の女性を選んでいることが何よりも耐えられなかった。
今回この二人が別れたとしても、賢也はまた“こういう”女性を選ぶかも知れない。その不安をずっと持ち続けて暮らしていくのは酷すぎる。
「別れたい?」
別れる・・・・
暮らせないなら別れるしかない・・・
「はい」
「それなら、もう少し調査をして逃げ場を無くして慰謝料を双方からとりましょう」
「慰謝料?」
「ええ、片桐さんは慰謝料を二人からもらう権利がありますよ」
「タダとは言いませんが、オプションとして10万調査費に上乗せしていただければ力になります」
そっか・・・
一緒になられないなら離婚するしかないし、慰謝料とか請求できるんだ・・・
でも、離婚するとなると
「仕事さがさなきゃ・・・」
「仕事探してるんですか?」
「あっ、すみません声に出てました?」
恥ずかしい、今までも思っていたことを口に出していたことがあったんだろうか、気を付けなきゃ
松崎さんはぷっと噴き出して盛大にねと笑ったあと
「ワードとエクセルは使える?あと、会計ソフト」
急に言われて何事かと思ったが、2年前までは事務も経理も雑用もしていた。
「使えます。会計ソフトもちょっと使ってみれば大丈夫だと思います」
松崎は口角を上げて
「丁度よかった、アシスタントがやめてしまってちょっと困ってたんだよ」
「やります!でも・・・時間が」
「しばらくは試用期間として10時から3時まででもいいんだけど、落ち着いたら時間を延ばしてくれればいい」
「それなら、是非おねがいします」
「それなら、オプションは社割でいいよ」
「社割・・・オプションって何をするんですか?」
「片桐さんにも頑張ってもらわないといけないんだけど、やれるよね?リセットはやる気になればできる。ほんのちょっと勇気をだすだけで有利にリセットできるんだ。君が一歩を踏み出すための軍資金をしっかり取ろう」
コンビニに寄って履歴書を購入した。ネットでいくらでもフォーマットは見つけられるし、パソコンで入力もできるけど、自分の手で文字で書きたかった。
リセットする。
松崎さんの言葉はすっと心に染みこんでいった。
賢也の裏切りでこの2年間のすべてが色あせてしまった。
セピア色の人生はリセットで鮮やかな色を取り戻す。
私自身で取り戻す。
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