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「「「「……やはりとは」」」」
「ご主人の俊さんの本心までは私には計りかねますが、一般論でいうとですね、
浮気で離婚なんて世間や会社に対して恥ずかしい行為なので、穏便に
納めたいと思ったはずです。
できれば妻には離婚などと騒がず、大人しくしていてほしいという
ところでしょうか。
妻の両親が妻を諫めてくれるのですからほんとに何の制裁も受けず、
何事もないように……そう妻と娘の為に一生懸命働くという態で
平然と会社へ行く。
水野さんたちは息子さんの意志表明を信じて桃さんを説得する。
桃さんのご両親は離婚後の受け入れをシャットアウト。
そして桃さんだけが煉獄の地獄の中で生活し続けていた、
ということのようですね。
みなさん……すごいですねー。
誰一人桃さんの気持ちに寄り添う人がいないんですよー、
気が付いてました? あははっ。
もう少しで桃さんを殺人犯にしてしまうところでしたねー。
皆さぁ~ん、他人事じゃないですよ。
それってあ・な・た・たちですよ。
あなたたちがみんなで寄ってたかって桃さんを殺人犯に
したてようとしたんですよ。
はいっ、いいです。
みなさんのお顔をみていると全員の方が不服そうなので
理解できないと承知いたしました。
これで今回の面談は終了といたします。
皆さまご苦労様でした。
では面会の時間もこれにて終了としますので私と一緒に病室を出て
どうぞお帰りください」
面会人をいとも簡単に蹴散らしたその人は最後に出て行く前に引き返し、
こそっと私に耳打ちしてくれた。
「絶対、あなたがご主人と別れて暮らせるようにしてあげるから、大丈夫よ」と。
何がなんだか分からないうちに面談とやらが終わった。
私は女医によって助けられるようだ。
ありがと、先生。
もし、それで私が救われるのなら一生感謝します。
◇ 幸せな結婚生活
4年前に、滝谷桃は想いを実らせた相手水野俊と結婚をし、その2年後には
娘にも恵まれ順風満帆で幸せな暮らしを謳歌していた。
ちょうど娘が1才になったばかりの頃、孫の顔見たさに遊びに来ていた母親に
娘を預けて桃は駅前に出掛けた。桃の実家はすぐ近所だ。
◇ ◇ ◇ ◇
平日に身ひとつで出掛けるのは久しぶりのことだった。
『お母さんも来てくれてるし、買い物帰りはショートケーキでも
買って帰ろうかなっ』
そんなことを思いながら駅近くに居並ぶ店をプラプラと歩いていた時の
ことだった。
「桃、ひさしぶり~」と声を掛けられた。
「ひゃあ~、おひさー」
「なんとなく噂で聞いてたけど、子供産まれたんだって?」
「うんっ、そうなの」
「今何か月?」
「それがもう1才よぉ」
「子供の成長は早いね」
「「特によその子は……はははっ」」
「でも、桃はえらいね。ちゃんと元の体形に戻してるじゃない」
「旦那様に嫌われたくないからね」
「ごちそうさまぁ~。いつまでもお熱いことで」
気さくに声を掛けてくれたのは結婚式にも出てくれた私と同じく
地元に暮らす高校時代の同級性だった。
浅木舞とは久しぶりだったため、お互い懐かしく近況などを語り合った。
長引きそうな話に、往来の激しい場所から少し逸れて私と舞は書店の
前付近に移動した。
そのまま続けて日常のことなどを話していたのだが、途中で舞から
思い出したかのように別の話題が出た。
「あのね、今桃が切迫流産で入院してた時の話を聞いて思い出したんだけどさぁ。
ちょっと待ってよ。えーっとあれっていつ頃だっけ……。
桃、奈々子ちゃん産んだの4月って言ったよね。
え~っと私ね、二人を見かけたのよ。
10月じゃなかったかな、確か」
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「二人って?」
「桃の旦那と淡井恵子よ」
「それってどこで?」
桃は、訝し気に尋ねた。
「そうよ、その場所……」
場所に語意を強める舞。
「そうなのよ、見かけた場所がね、大通りのある駅前なら私もいうほど
不自然に思わなかったかもしんないけど……。
駅の横に添って東西に延びてる道一本挟んで南北に細長い道があるじゃない?
ほらっ、自転車とかバイクなんかが連ねて置いてある道路。
もう軽自動車も通れないくらいの細い道」
「知ってる……」
「私は家から駅までいつもミニバイク使うからさ。
その日も駐輪しようとしててそれでね、二人に気付いたわけ。
私のほうはヘルメット被ってたし、恵子は熱心に桃の旦那に何やら話しかけてたから
全く私には気付かなかったけどね」
「二人はどんな話をしてたの?」
「それがさ、ひっきりなしに電車が通るからほとんど聞き取れなかったのよね。
だけど”ある意味深なところ”だけはっきりと聞こえたのよ。
『いいじゃない。黙ってれば分かんないんだから、これからも会おうよ』
だったの」
「それって……」
「どう転んでも意味深だよね。
だけど揉め事を桃に連絡するのもどうなんだろうって思って
知らせなかったんだけど……。
今日たまたま会えたから聞いたこと話しとこうと思って」
「うん……」
舞からの仰天話を聞き、桃は涙目で相槌を打った。
それと共にどうにかなりそうな気持を宥めるのに苦労した。
そんな桃の気持ちを知ってか知らでか、舞の話は更に続いた。