「僕は…僕も!看守の、ことが…好き、です!」
言えた。ゆっくりでも、ちゃんと!
…?看守がなんだか呆然としている。どうしたのだろうか。
「あ、あの…看守…?」
まさか気が変わってもう好きじゃなくなってしまったのかな、とネガティブな考えになっていると、看守に肩を掴まれた。
「わっ!どうし「本当か?本当に…良いのか?」
「…はい、本当に僕も看守のことが好きです!」
きっと好きだと言われるとは思っていなかったのだろう、本当なのかと必死に聞いて確認する様子が少し、面白くて笑ってしまう。
「ふふ、そんなに確認することないじゃないですか!…好きですよ、リアムさん」
「ッ!」
何やら噛み締めるような仕草をしてから、とても真剣な目になった。
「キス…しても良いか?」
「…はい」
上を向き目を瞑ると、触れるだけの優しいキスが降ってきた。付き合う前に体の関係から入ってしまったから、リアム看守とキスをするのは初めてだ。初めてのキスは、温かくて優しかった。
「…好きだ六番、いや、しにがみ。愛している」
「僕も…愛してます」
優しい愛を伝え合って、なんだか恥ずかしい。顔に熱が集まって紅潮していくのが分かる。それはリアム看守も同じなようだ。
「これからよろしくな。じゃあ、もう牢屋へ戻ろうか」
「はい!」
牢屋への道を歩いているときも、なんだか照れてしまってなかなか顔が合わせられなかった。
「ふぁ〜。六番おかえり〜」
「ただいま〜」
「おかえり〜」
さっきまで寝ていたのにちゃんと起きて迎えてくれる八番と九番と話しながら、僕も牢屋へ入った。
「じゃあ、ちゃんと寝ろよ。おやすみ」
「は〜い」
「おやすみなさーい」
「おやすみなさい〜!」
牢屋がある場所から出ていくリアム看守を見送りながら、リアム看守と付き合えたという余韻に浸っていた。リアム看守が出て行ったことを確認すると、八番と九番がどうだったのか聞いてきた。
「告白、okしたんだろ〜!キスしたのか?」
「はい…しました!」
「おお〜!」
「じゃあ、俺たちは脱獄じゃなくて、減刑を目標として行動しよう!」
「その方がいいよね」
「…ぺいんとさんたちは、それでもいいんですか?」
僕らは盗賊なのに、脱獄をせずに罪を償うのはプライドとして大丈夫なのだろうか。僕に合わせて貰うのは少し、いやかなり申し訳ない。そう思い、俯いているそれが見えているかのように励ましてくれた。
「いいよ!お前が幸せになるなら!」
「しにがみくんは気にせずにリアム看守といちゃついてて良いよ〜」
…この人たちについていって本当によかった。こんな風に祝福してくれるぺいんとさんとクロノアさん、今ここには居ないけどいつも支えてくれるトラゾーさん。みんな大好きだ!
「うぅ〜!ありがとうございます〜!もう大好き!」
「大袈裟だなぁ!…みんなでちゃんと、外に出よう。だから、もう問題行動なんて起こすなよ!六番!」
「あ、しにがみくん問題起こしてばっかだから、一番注意してもらわなきゃだもんね」
「もちろんですよ!もう下水道も通る必要はないですし!」
このおかげでもう、部屋を間違えることはないだろう!…多分!
「じゃあ、明日に備えてもう寝よう」
「はい!」
「おやすみ〜」
明日からは模範的な行動を目指すぞ!
「おはよう!」
「おはようございます!」
『おはようございま〜す』
我先にと挨拶をする僕についてくるように挨拶をした八番と九番はまだ眠そうだ。
「今日から、以前に話していた減刑することもできる特別なレクリエーションがある!」
「おお〜!!」
「具体的にどんな事するんですか?」
「まず、一週間お前たちには一般人と同じように生活してもらう!お前たちに関係のない警官による監視や制限のある中だが、その状態での行動によって減刑が考えられる」
つまり、この後一週間はリアム看守と会えないのか…あまり気乗りしないけど、頑張らないと。
「じゃあ、一週間もリアム看守たちに会えないんですね…」
「…そうなるな、あと明日ステイサムが帰ってくるのだが、お前らがいないと静かだから驚くだろうな」
リアム看守が少し落ち込んだ様子で僕の言葉に応えると、八番が騒ぎ出した。
「そうですよ!ステイサムさん、一日だけだって話だったのにもう何日も帰ってきてませんよね。何かあったんですか?」
「そういえば言っていなかったが、俺は少し前にこの刑務所にしばらく留まることになっていてな!それに乗じてステイサムの休みが増えた」
「ステイサムさんが病気になったとかではないんですね。よかったです」
「じゃあ、移動してもらうからな!出てこい」
それから僕たちは、朝食を配られた後に囚人を移送するための大きな船に乗せられ、一週間だけ一人暮らしすることになった。
「はぁ、みんなとも連絡がとれずに生活するのか…しかも毎日報告書を書かされるし…」
船に揺られている内に、件の一人暮らしするマンションへと着いた。捕まる前はみんなでシェアハウスをして騒がしく暮らしていたから、一人暮らしは久しぶりだ。
ゲームなどといった娯楽は制限されないが、一週間に三回は内職をしなければならないし、その日何をしていたか報告書も書かなければならない。なんといっても、基本的には監視カメラで見られていて外に出ても監視カメラか、GPSで僕の行動が分かるというのが嫌だ。
あまり良い気持ちではないが、頑張ろう。そうして僕の減刑と人生のための一週間が幕を開けた。
「とりあえず、コレを早く片付けないとなぁ…」
めんどくさい、という気持ちで目を向けた先にはボールペンの部品が大量に入った段ボール箱がある。僕の内職は、日曜日と火曜日と木曜日にこのボールペンを組み立てることだそうだ。それにしても大量にあるなぁ…
「よしっ!さっさとやって終わらせよう!」
自分に喝を入れ、部品の海へ手を伸ばした。
「…ここを、嵌めて…袋に入れて…よっしゃあ!全部終わったぁ!!あとはここの管理人さんに渡すだけ!」
小さなバネを無くさないように、順番を間違えないように、ちゃんと一つ一つ確認して着実に終わらせた。それにしてもいくつ完成したのだろうか軽く数えてみると三百ほどだった。
今日は日曜日なのに、仕事をさせられるなんて。途中で何度もそう思ったが、減刑してもらうためだから仕方ないだろう。これでみんなで死刑にならずに外へ出られたらいいなぁ、と強く思いながら管理人さんのもとへ、ボールペンが大量に入った段ボールを届けた。
「ボールペン、終わりました!」
「早いね、ありがとう。次は火曜日だからそれまではゆっくりしてていいからね」
管理人さんと少しだけ会話し、今日の内職は無事に終わった。よ〜し、これで今日は家でゆっくりしていよう!
すぐに自分の部屋へ戻り、ネットサーフィンやゲームをして今日は過ごした。そして寝る前には今日一日の報告書を書き、とても模範的な一日を過ごしたと思う!
ピピッ!ピピッ!
「ふぁ…よし、規則正しい時間に起きれてる!」
減刑のために生活リズムも崩さないように気をつけて、早めに寝て六時にアラームを設定していた。それにしてもリアム看守の、力強いおはようが聞けないせいでもうロスに陥りそうだ。
「はぁ、ご飯食べ終わったら散歩に行こうかな」
置いてあった食パンを適当に焼き、頬張りながら体を少しでも動かそうと考えた。
「あ、おはようございます管理人さん!ちょっと散歩に行ってきますね」
「はいはーい、気をつけてね」
いざ外に出てみると、都会か田舎かと言われると田舎な中途半端な場所だった。特別大きなビルや建造物は無いが、公園がところどころにあった。それに伴って木が一定の間隔で生え、緑がある影響で爽やかな印象を受ける街だった。
「綺麗だなぁ。この景色なら散歩も悪くないや」
冬だから少し肌寒いが、とても楽しい散歩だった。良い気分で帰路に着くと、初老の女性がいた。なんだか悩んでいるようで、思わず声を掛けた。
「あの、どうしました?」
「え、あぁ、実はゴミ出しに来たのだけど、今日は一段と多くてあそこまで運べないのよ」
その女性が指差した先には、まだ距離があるゴミ捨て場がある。見たところ、ゴミ袋の数は三つのようだから、二つ持ってあげよう。
「それなら、僕が二つ持ちますよ!」
「いいの?ありがとう」
両手に一つずつ待ってみると、かなり重かった。
「これを一人で運ぼうとしてたんですか?」
「ええ、重いでしょう?」
和かに笑う女性と楽しく話しながら、こういう一般的な生活も良いな、と思えた。
「それじゃあ、気をつけて!」
「貴方も気をつけてお帰り。ありがとうね」
誰かの為になる事をすると、気持ちが良い!さらに高まった気分のまま今日一日も過ごせた。
それからも、内職をちゃんと終わらせてたまに外へ出て、何か手伝ったりと模範的に三日目、四日目…と一週間を過ごせた。
また、刑務所から行くときに乗った船に揺られながら、今はいない人たちに思いを馳せる。
「やっと一週間終わった!リアム看守に会いたいなぁ…八番と九番もうまくやれたかな」
トラゾーさんやイナリさんは二人で元気にやっているだろうから、心配は無いが。
帰る船は少し、くる時よりも長く揺られていたように感じた。
「おーい!六番!九番!ひさしぶりー」
「あ、久しぶりの八番だ!クロノアさんも元気でしたか?」
「うん!しにがみくんも元気そうで何よりだよ」
刑務所に着くと、別の船からやって来た八番と九番に会った。みんなうまくやれたようだから、このまま減刑になったらいいな。
そんな僕らを迎えてくれたのは
「久しぶりだな!六番、八番、九番!」
「久しぶりです!ステイサムさん!」
「ステイサムさんだ〜!」
長く会っていなかったステイサムさんだった。リアム看守はまだ作業中かな、早く会いたいな。
「リアム看守もお元気ですか」
「ああ、今は事務作業をしている。もうすぐ終わるだろう。じゃあ、牢屋に戻ってもらうからな」
「はーい」
久しぶりのステイサムさんに連れられながらこの一週間、どんな風に過ごしたか話した。
「僕はかなり模範的に過ごせましたよ!」
「ほんとか〜?まあ俺はシール貼りの内職しながらのんびり過ごしてたよ!」
「俺は猫探しの仕事で、猫をずっと探してたよ!」
「それ探偵とかじゃありません?」
笑い合いながら牢屋へ入ると、レクリエーションの後の説明がされた。
「レクリエーションの結果から、減刑するかどうかは夜に知らせる!ちゃんと模範的に過ごせよ」
「はーい」
「じゃあ、今日は好きに牢屋の中で過ごしていいからな」
「やった〜!」
ステイサムさんが話し終えた後、ずっとリアム看守のことを考えてしまう。
今何をしているのだろうか。早く会いたいな。減刑出来て自由になれたら、トラゾーさんみたいに二人で暮らし始めたいな。みんなのアジトの近くでマンションでも借りよう!
一人で妄想にふけっていると、クロノアさんにこれからしたいことを聞かれる。
「しにがみくんはここを出たら、何をしたい?」
「そうですね…やっぱり、みんなで遊びに行ったり……リアム看守と、デート…なんか行っちゃったりしたいです」
「おお〜!!いいじゃん!いや〜お前も恋愛を楽しめてそうで、こっちも嬉しくなる」
そんな輝かしい未来を描きながら、和やかに過ごしているともう夜になった。
「久しぶりだな!お前たち!」
「リアム看守だぁ〜!!」
「お久しぶりです」
「静かにしろ!これからレクリエーションの結果から、減刑できるか、そしてするならどこまで減らせることになるか教える!」
久しぶりのリアム看守だぁ!!!
あの声聞くだけで本当に元気になる。大好き!!僕がそうやって一人で喜んでいると、結果が順調に発表される。
「まず九番!お前は一度、脱獄を試みたがそれ以降は模範的だったため、懲役六年だ!」
「おお〜!」
「まあ、死刑よりも良いけど…六年は長いなぁ」
「減刑できたんですから!もっと喜びましょうよ!!」
「次、八番!お前は処刑を行ったにも関わらず、今ここにいる。つまり、処刑場で脱獄を行ったことを加味し、懲役七年だ!」
「ええ〜!」
「あれ、もしかして俺が一番減刑されることになるのかな?」
「そうですね、僕は一番素行も悪いし脱獄したので二人より悪いので!」
二人とも、死刑は免れた。あとは僕だけだが、少し心配になってきた…だってこの二人よりも素行が悪かったし、脱獄したし、もしかしたら減刑されないなんてことも…?
少し恐ろしくなって冷や汗が出てくる。早く、早く教えてほしい。
「それで、六番だが…普段の素行の悪さや脱獄をしたこともあるが、この一週間で最も模範的な行動をしたのはお前だった!よって、懲役七年の処分となる!」
「や…やったぁー!!」
「よかった…しにがみくんだけダメだったらどうしようかと…」
「本当にドキドキした…」
これで、これで罪を償ってリアム看守と生きていける!ああ、本当によかった。
「よし、もう夜も遅いからな!あまり騒がずに寝とけよ。おやすみ」
『おやすみなさ〜い!!!』
「おやすみなさい」
「…はぁ〜。なんとかなったか…」
牢屋付近から離れた監視塔にて、安堵による脱力感に身を委ね、リアム看守は椅子に座っていた。
本当に大変だった。八番と九番はそれほど問題を起こした訳でも、常日頃の素行が悪いわけでもなかったため、減刑出来るのは確定していた。しかし、六番は脱獄を成功させたことがあり、よく問題を起こし素行も悪かったゆえに減刑が難しかったのだ。
アイツらには死なないでほしい、六番を助けたい、そんな思いで必死に嘆願書を書いたりゴルゴン様にも協力してもらった。しかし、六番の一週間の行動次第で死刑が早まる可能性もあったため、恐ろしい一週間だった。
そんな想像が現実にならずに済んだのは、六番が率先的に人助けをしたからだ。そのおかげで更生の余地アリ、と判断されたのだ。
アイツらにはしっかりと罪を償って貰って、それが終わったら六番に、しにがみに結婚を申し込もう。そのために、明日にでも婚約を結んでしまおう。
「愛してるよ。しにがみ」
コメント
2件
まってましたぁぁぁぁ! ハッピーエンド最高です、 しにーとリアム看守結ばれてよかったぁぁ!